全米脚本家組合(WGA:ハリウッドで働くほとんどの作家が所属している労働組合)が、5月2日よりストライキを決行した。2007年~2008年に決行された同組合のストライキから15年ぶりの実施となる。
WGAは映画・テレビ製作者同盟(AMPTP:映画会社、テレビ局、ストリーミング事業者らが所属している)側に、最低額の大幅な引き上げ、ストリーミング・プラットフォームにおける残留報酬のより良い計算方法、すべてのテレビ番組における最低人員要件など、作家報酬の大幅な見直しを求めている。また、作家のアイデアがAIが生成した作品の基礎として使われる場合について、何らかの方針を定めることを望んでいる。今回のストライキでは、AMPTPに交渉内容の承諾を要求し、双方が署名する契約と新しい最低基本契約(作家職の最低賃金のようなもの)を3年間継続する条件で締結することを目指している。
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映画の脚本を書き、それをハリウッドのスタジオに一括で売る方法を見つける
映画のアイデアをスタジオに売り込む
本を書くなど知的財産を作り、スタジオがそれを買い取るか、脚色するオプションを与える
既存の脚本(多くの場合、他の人が書いた脚本)を修正するために雇われる
テレビ番組のアイデア、あるいはパイロット版の脚本をスタジオに売り込む
ライターズルームの一員としてテレビ番組で執筆するために雇われる
放送料の獲得。作品の放映権をケーブルテレビ局が購入した場合、定期的に(中長期的な人気作品に携わった場合)小切手がもらえる
ハリウッドでは、作家がお金を稼ぐ方法は他にもたくさんあるが、この問題で重要なのは、巨額の報酬を得ている作家はほとんどいないということだ。
ストリーミングサービスの普及と作家への影響
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また、ストリーミングサービスの普及により、作家たちの仕事は増えたものの、かれらはより苦しい状況に直面している。ストリーミングサービスは、加入者の関心を維持するために、常にコンテンツを提供する必要がある。そのため数年前からハリウッドの作家は非常に忙しくなり、新しいシリーズが常に発注され、理論的には作家の仕事が増えることになった。しかし、サービス事業者がコストを抑えるための手段を強行していることや、賃金のデフレなどが作家への支払いを困難にしているのだ。
放送局での番組が22話以上であるのが一般的であることに対して、ストリーミングで配信される番組の多くは、8話か10話程度となっている。また、シーズン間の間隔も、放送番組の数カ月ではなく、ストリーミングでは非常に長く(数年以上)なることがある。ストリーミングのショーランナーは、放送局の同業者と同じくらい長く働いているにもかかわらず、契約の仕組上、給与中央値は放送局の中央値の46%程度となっている現状もある。つまり、(複雑な問題を簡単にまとめると)ストリーミングサービスの普及により作家の仕事数は増えたものの、作業量に対しての賃金は下がっている現状にあるのだ。
ストライキで映像制作にどのような影響が起こるのか
WGAがこの春、交渉に先立ち作成した会報によると、ライターとプロデューサーの平均報酬(テレビ業界で働くライターの多くはプロデューサーとしてのクレジットも取得している)は、過去10年間で4%減少している。インフレで調整すれば23%の減少になっている。
WGAとAMPTPとの交渉は3月20日に始まった。そしてついに、WGAの契約は5月1日の午前0時で切れ、交渉が進まずストライキに踏み込むこととなったのだ。特に最初に影響を受ける番組は、「サタデー・ナイト・ライブ」や「ザ・トゥナイト・ショー」のような深夜のバラエティ番組やコメディー番組だろう。それらの番組の台本は、撮影直前のタイミングで書かれるためだ。
5月の作業停止は、ネットワークドラマ(※リニア放送されているテレビドラマ)のシーズンを遅らせる可能性もある。通常、9月と10月のシリーズ初放送に向け、5月と6月に作業を開始する。また、多数のストリーミング配信番組の脚本も進行中で、今後数ヶ月のうちに開始される予定となっている。このような作業の開始が遅れた場合、秋季に放送・配信予定の作品が延期される可能性があり、最終的に新番組の制作量が減少する。
WGAの要求に対する現状
TBIVisonによるとWGAは、具体的に下記のような内容を要求している。エピソード数に応じて、1番組あたり6~12人のライターを最低限配置すること→AMPTPはこの提案を拒否
10週間から52週間の雇用保証→AMPTPはこの提案を拒否
番組の成功率に応じたストリーミング放送料の支払い→AMPTPはこの提案を検討中
素材の執筆やリライトを認めないAIに関する規制 →AMPTPが代わりにAIやその他の技術に関する年次レビューを提供
プロジェクト進行決定(グリーンライト)以前の作家には25%のプレミアムをつける→AMPTPは5%の値上げの提案で反抗
この規則は、作家やその代理人は、ストライキを起こした会社と会ったり交渉したり、執筆サービスを提供したり、ストライキを起こした会社に文学作品を販売したりオプションしたりしてはならないという内容になっている。規則を守らない場合、違反者に対して除名や会員資格の停止、金銭的な罰金の賦課、けん責などの懲罰を科すことができる。
米国監督組合(DGA)と労働組合は、WGAを支持する声明を発表し、スタジオとストリーマーに対して、契約交渉においてWGAと協力するよう促していた。なお、DGAは5月10日にAMPTPとの契約交渉を開始する構えだ。
Other Sources:The Hollywood Reporter、Variety、Deadline