脱・製作委員会方式でクリエイターファーストの作品制作を目指す──『雨を告げる漂流団地』プロデューサー・山本幸治氏インタビュー

9月16日に配信&公開される『雨を告げる漂流団地』。本作のプロデューサーを務める山本幸治氏に、「ノイタミナ」の編集長時代から本作の制作に至るまで、また今後のスタジオコロリドが向かっていく未来や業界の働き方について、たっぷり話を聞いた。

映像コンテンツ 制作
長編アニメーション映画『雨を告げる漂流団地』9.16(金) Netflix全世界独占配信&日本全国ロードショー
  • 長編アニメーション映画『雨を告げる漂流団地』9.16(金) Netflix全世界独占配信&日本全国ロードショー
  • 長編アニメーション映画『雨を告げる漂流団地』9.16(金) Netflix全世界独占配信&日本全国ロードショー
  • 長編アニメーション映画『雨を告げる漂流団地』9.16(金) Netflix全世界独占配信&日本全国ロードショー
  • 長編アニメーション映画『雨を告げる漂流団地』9.16(金) Netflix全世界独占配信&日本全国ロードショー
  • 長編アニメーション映画『雨を告げる漂流団地』9.16(金) Netflix全世界独占配信&日本全国ロードショー
  • 長編アニメーション映画『雨を告げる漂流団地』9.16(金) Netflix全世界独占配信&日本全国ロードショー
  • 長編アニメーション映画『雨を告げる漂流団地』9.16(金) Netflix全世界独占配信&日本全国ロードショー
  • 長編アニメーション映画『雨を告げる漂流団地』9.16(金) Netflix全世界独占配信&日本全国ロードショー

9月16日にスタジオコロリドの最新作『雨を告げる漂流団地』がNetflixにて全世界独占配信、日本全国ロードショーされる。

2018年に『ペンギン・ハイウェイ』を世に送り出し、第22回ファンタジア国際映画祭では、最優秀アニメーション賞にあたる今敏賞(長編部門)を、日本アカデミー賞では優秀アニメーション作品賞を受賞したスタジオコロリド所属の石田祐康監督が手がける『雨を告げる漂流団地』。アニメファンのみならず、各界から高い注目を集めている。

そんな本作を生み出したスタジオコロリドの代表をつとめるのは山本幸治氏。2005年に立ち上げされたフジテレビの深夜アニメ枠ノイタミナ」の編集長をつとめ、フジテレビ退職後にはツインエンジンを立ち上げ、現在はスタジオコロリドの代表もつとめている

Brancでは『雨を告げる漂流団地』公開を前に、山本幸治氏へのインタビューを行った。本作の魅力はもちろん、その先に見据えるスタジオコロリドのブランディングや、今後のアニメ業界全体の展望についても聞いている。是非読んでもらいたい。

コアファンに向けて作られたアニメをいかにマス向けに製作するかを考えたフジテレビ時代


――まもなく『雨を告げる漂流団地』の公開となります。山本さんは現在アニメーション作品のプロデュースがメインの仕事かと思いますが、もともとアニメはお好きだったのでしょうか?

好きでしたね。僕が現在47歳、子供の頃はジャンプ黄金期と言われていた時代だった。なので幼少期は「SLAM DUNK」や「ドラゴンボール」、「北斗の拳」といったジャンプ連載作品のアニメが数多くゴールデンタイムで放送されていたんですよ。おかげでアニメは僕にとってすごく身近な存在でした。

――特に好きな作品、今のお仕事をするにあたって影響を与えた作品などはあるのでしょうか?

スタジオジブリの作品はすごく好きでしたね。その影響で宮崎駿さんと高畑勲さんが開講していた東小金井村塾を受けたぐらいです。落ちましたが。ただ、当時はアニメに関わる仕事がしたいとまでは思っていなかった。なので、フジテレビに入社した時はアニメ関連の仕事を希望していたわけではなかったんです。

――なるほど。フジテレビ在籍中にアニメと関わることになったのはどういったきっかけからだったのでしょうか?

最初はドラマ配属だったのですが、すぐにクビになり、著作権部という部署に異動になり、そこでアニメ製作の企画作りを自主的に始めたんですよ。それを上司が面白がってくれて、会社には内緒にしながらも、進めるように言ってくれた。結果2年ほどかけて企画を完成させて社内でプレゼンしたところからアニメに携わり始めましたね。

――会社からの指示があったわけではないと。

はい、ちょうど当時は「ワンピース」がゴールデンタイムから離れた時代でしたからね。フジテレビとしてはアニメを精力的にやっていこうという方針すらなかったと思います。

――そこに突如山本さんの企画が現れた、ということですね。その時に企画していたのはどういった作品だったのでしょうか?

矢沢あいさんの「Paradise Kiss」です。それとアスミックエースが企画していた「ハチミツとクローバー」に参画する形で「ノイタミナ」が始まりました。

――なるほど、すると当時の企画が後々の「ノイタミナ」になっていく、と。

そうなんです。ただ、僕自身当時は「ノイタミナ」という枠を作ることを目指していたわけじゃない。ただただこの2作品をアニメとして放映できればいい、そう思っていたんです。それが社内に企画をプレゼンするうちに「ノイタミナ」という枠を作って確立して、そこで放映する方針に変わっていったんです。

――もともと意図せず立ち上がった「ノイタミナ」ですが、立ち上げ後には編集長もつとめました。実際に運営してみていかがでしたか?

勉強になることがたくさんありましたね。もともとアニメのようなコンテンツが苦手なテレビというメディアで、いかにアニメ放映のビジネスモデルを作っていくのか。その試行錯誤から学んだことはすごく多かったです。

――テレビというメディアがアニメが苦手なのはどういった理由なのでしょうか?

元々テレビはマスに向けて番組を制作、放映することが求められる仕組みです。マス向けに作られたものが視聴率を取り、番組スポンサーのCMの価値が上がる。マス向け番組は局制作と言って制作費を局が全額出しています。深夜枠で放映される、コアファンに向けて作られたアニメを放映して利益が出せるようにはできていない。その中でいかに収益を上げるビジネスモデルを作れるかは大きな課題でしたね。

――なるほど、そこには新しい施策が必要だった、と。

はい。例えば製作委員会方式をとるといった施策がそれにあたります。アニメ制作資金を調達するために、アニメの二次利用などで収益をあげられる企業を募り、出資してもらう。そのお金でアニメを作っていくんです。

――コアファン向けのコンテンツならではの施策が必要だった、ということですね。

そうなんです。結果的にアニメの制作費のほとんどは、コアファンが購入するDVDの売上で賄われている。アニメのテレビ放映は大々的なDVDの宣伝とすら言えるかもしれません。

監督・石田祐康のキャラクターに命を吹き込む力は世界トップレベルだと思った

――「ノイタミナ」の立ち上げから10年、フジテレビを退職してツインエンジンを立ち上げます。これはどういった理由からだったのでしょうか?

長年「ノイタミナ」を続ける中で、製作委員会方式に限界を感じるようになったんです。発注側の製作委員会と受注側の制作の間で摩擦が生じ、制作側が豊かなものづくりができない状況に陥っていると感じていましたからね。ここから脱するためには新しいビジネスモデルが必要だった。ただ、テレビ局としての方向転換は難しい状況で、その中で新しいビジネスモデルを試すために独立してツインエンジンを立ち上げることにしたんです。

――なるほど。そしてツインエンジン立ち上げ後にはスタジオコロリドの代表にも就任されています。

もともとスタジオコロリドとはフジテレビ在職時代に一緒に仕事をしていて、その中で在籍するクリエイターたちに可能性を強く感じたんです。そこから、このスタジオのさらなる発展のためのお手伝いしたいと思い、代表をつとめることにしたんです。

――どういったところに可能性を感じたのでしょうか?

『ペンギン・ハイウェイ』の監督をつとめた石田祐康くんのデジタルの制作フローが未来的でした。彼は自分で思い描いたアニメーションを、自分で絵を描いて、動きをつけて、編集までして完成させることができる、自分のイマジネーションをそのまま映像にすることができるんですよ。それを見て、今後のアニメ業界を引っ張っていくのはこういう作り方ができる人だと確信したんです。

石田祐康監督

――なるほど。

加えて、スタジオコロリドの作る作品は子どもまでも楽しめるというのもポイントでした。アニメは子どもでも楽しめるものであり、それを見た大人の琴線にも触れる作品であるべき、僕はそう思っています。スタジオジブリの作品なんかはまさにそうじゃないですか。そういう作品が作れる、スタジオジブリに近い立ち位置にいけるのはスタジオコロリドを置いて他にないだろうと思ったんです。

――そんなスタジオコロリド、新作として『雨を告げる漂流団地』が間も無く公開されます。本作を作ることになったきっかけを教えてください。

監督である石田くんが手がけるオリジナルの長編アニメを作りたいということは、『ペンギン・ハイウェイ』を作るかなり前から考えていたんです。彼の真骨頂は、自分自身のイマジネーションをそのまま映像にした作品。それはオリジナル作品でこそ発揮されるものだと思っていましたから。

――企画自体はかなり以前からあったということですね。本作のテーマである団地はどこから出てきたのでしょうか?

長編を作るにあたって、石田くんが一枚のスケッチを描いてきたんです、そこには海の上に浮かぶ団地が描いてあった。そこで団地というアイデアは出ていましたね。そこからは、いかに物語を作り上げていくか、ということでいろいろなアイデアを出し合いながら企画を詰めていったんです。

――企画を詰めていく中でいろいろなアイデアが出たかと思います。山本さんが本作に欠かせないと思っていた要素はありますか?

やはりスタジオコロリドの作品、石田くんが監督する作品に対してお客さんが望んでいるものは入れていかないといけない。そこを考えると、子どもたちが悪戦苦闘しながら冒険する物語であることは外せないと考えていました。それこそが石田くんの持ち味だと思っていましたから。

――やはりスタジオコロリドらしさは大切にしたかったということですね。実際に出来上がったものを見た時の感想を教えてください。

石田くんの描く子どもたちは本当に活き活きして生命力に溢れている、それをキャラクターの動きの中に感じることができました。キャラクターを動かすことで命を吹き込むことに関して、やはり石田くんは世界トップレベルだと思いましたね。

よりよい作品を作るための脱・製作委員会方式


――『雨を告げる漂流団地』では、先ほどもお話に出ていた製作委員会方式をとりませんでした。新しいビジネスモデルを見据えて、ということなのでしょうか?

そうですね。なので『雨を告げる漂流団地』の製作は僕が代表をつとめるツインエンジンが行っています。そうすることで、製作委員会と制作サイドとの摩擦が生じることをなくし、クリエイターが良いものを追求できる環境を作りたいと思いましたから。

――よりよい作品づくりをするために必要な環境づくりだったと。

はい。そして、作品のクオリティや予算・納期に自分たちで全責任を負いたかったんです。そこまでの責任を負った上で、いかに出来上がった作品をいかに多くの人に見てもらうか、価値をいかに高めていくかを考えるのが僕の仕事ですからね。

――なるほど。作品の価値を高めていくために山本さんが今後取り組んでいこうと思っていることはありますか?

まずはスタジオのブランディングをしていくことが大切だと思っていますね。スタジオコロリドが作る作品は人生に影響をあたえる作品だ、新作が出たら必ず見たい、そう思われるようなブランドを確立したいと考えています。

――その実現のために必要だと感じているものはありますか?

いいものを作ることが大前提。それに加えて、お客さんが見たいものを予測してその要素を作品に組み込んでいかないといけないとは思います。そのためにはデータの解析も大切ですし、流行の先取りのためにアンテナをはっていくことも必要。これは未来永劫やっていかなければいけない課題ですね。

――流行も意識しながらの作品づくりということですね。加えて、今後はクリエイターの育成も大切になってくるかと思います。

それはありますね。当然のことですが、若い人が食べていける業界にしていかなければいけない。そうしないとクリエイターが仕事を続けていくことができないですからね。これは業界全体として長らく向き合い続けてきた課題で、やっと解決されつつある。今はその次のステージかと思っています。

――なるほど、その次のステージとして見据えているのはとどういったものなのでしょうか?

若くてやる気のある人たちがチャレンジできる、そこで大きな失敗をしても作品を作り続けられる環境づくりだと思います。チャレンジができない制作環境ではどうしても守りに入ったものづくりをしてしまう。そこから脱して、より良いものを追求できるワクワク感溢れる環境を作っていきたいと思っています。

――とても夢のある話だと思います。

あと、監督サイドの意識も変えていかなければいけないとは思っています。今の時代、制作に携わる個々の人を尊重しないといいものは作れない。昔みたいに監督がトップに立って周りを引っ張っていけばいい時代じゃないと思うんですよ。そのためにも、多くのクリエイターが一丸となれる制作現場を作れる監督が求められていると思います。

――まだその意識改革には至れていないということですね。

そうですね。意識面では少しずつ変わってきているかもしれませんが、それをワークフローまで落とし込むにはまだ道のりが遠いように思います。今がまさに端境期なんだと感じていますね。

――最後に、今回の記事を読んでいる方にメッセージをお願いします。

先ほど制作方法の端境期という話もしたのですが、視聴者動向も今まさに端境期にある。アニメにおいて言えば追い風が吹いていているんですよ。これまでこんなにも多くの人がアニメを見ていた時代は過去にないですからね。この環境を思いっきり楽しんで、ワクワクしながらアニメ制作を業界全体がしていけたらいいと思っています。

《一野大悟》

関連タグ

一野大悟

アニメライター/アニメソングDJ 一野大悟

2013年にアニメソングDJとしてのキャリアをスタート。その後、DJで培った音楽知識とアニメ知識を活かしてアニメ、音楽ジャンルのライターとして活動。アニメソングDJへのインタビュー「アニメソングの可能性」連載中。趣味は自炊、悩みは薄毛。

編集部おすすめの記事