2026年10月29日、第39回東京国際映画祭のプログラムとして、東京ミッドタウン日比谷ホールで「アカデミー・イン・東京:スペシャルトーク」が開かれた。登壇したのは、アカデミー賞を主催する米国映画芸術科学アカデミー(以下、アカデミー)CEOのビル・クレイマー氏と、東宝株式会社 代表取締役社長 社長執行役員CEOの松岡宏泰氏である。モデレーターは、東京国際映画祭フェスティバル・ディレクターの久松猛朗氏が務めた。
コロナ禍と配信の台頭を経て、映画産業を取り巻く状況は大きく変わった。米国の映画界を代表する組織のトップと、日本最大の映画会社の経営者が語り合ったこの対談では、劇場体験の価値が見直されていることと、国境を越えて映画が観られるようになった現状が浮かび上がった。
世界興収はいまだ回復せず。一方、日本はコロナ前105%を記録
久松氏はまず、世界の映画市場の現状を数字で示した。2025年の世界興行収入は約335億ドル(約5兆3,000億円)。コロナ前の2019年と比べると、全世界で79%、北米で76%、中国で80%にとどまり、まだ元の水準には戻っていない。

これを回復の途中と見るか、パラダイムシフトの兆しと見るかという問いにクレイマー氏は、「2026年は明らかに映画館への回帰が起きている」と答えた。特にミレニアル世代とZ世代で、映画館で映画を観たいという人が大きく増えているという。「彼らは作り手が意図したとおりの映写と音響で、体験を共有することを好む。本物の体験を求めている」。アカデミーも、優れた映画館を世界から50館選ぶ「Academy Marquee Theater」リストを立ち上げ、劇場体験を後押ししているという。

一方の日本は、主要市場のなかでほぼ唯一、コロナ前を上回る観客動員数を記録している。松岡氏は『鬼滅の刃』『国宝』といったヒット作があったことを認めたうえで、コロナ禍に業界全体で取り組んだ結果だという「持論」を語った。
2020年のゴールデンウィーク、映画館は「不要不急」として休業を求められた。その後、各社は旧作を映画館に提供し、興行会社は換気の行き届いた安全な場所だと積極的に発信。スタジオジブリはそれまで劇場で再上映していなかった作品を夏休みに公開。「映画館の熱を冷まさないように業界全体で取り組んだ土壌の上に、今回の記録がある」と松岡氏は言う。
邦画が興行シェアの75%を占めるのは健全か
グローバルストリーマーの台頭について、クレイマー氏は「劇場体験に代わるものはない」と強調する一方で、配信によって新進の作り手や多様な声、国際的な作品が、はるかに広い観客に届くようになったことも評価した。










