2026年5月15日、カンヌ国際映画祭マーケット「マルシェ・ドゥ・フィルム」のなかで企画された「Japan IP Market」の一環として、「Manga & Anime: Publishers and Broadcasters Driving Success」と題されたパネルディスカッションが開催された。会場はカンヌ港に停泊する美しい双胴船「Art Explora」。

Shoot the Book!とSCELFの協力のもと、フランスのマンガ出版を牽引してきたEditions GlénatのCharlotte Pérennes氏(マンガ・コーディネーション・マネージャー)、世界的アニメ配給プレイヤーであるCrunchyrollのKatrin Mathe-Cotillon氏(EMEA劇場マーケティング・シニアマネージャー)が登壇。モデレーターはPLeaSe Comics Rights & Events AgencyのCEO、Sébastien Célimon氏が務めた。
オタクの趣味から「ポップカルチャー」へ──フランスにおけるマンガ40年の変容
フランスのマンガ市場が動き出したのは、1990年代初頭にGlénatが『AKIRA』と『ドラゴンボール』を刊行した頃のことだ。Pérennes氏はこの40年の変化を率直にこう振り返る。「90年代のマンガ・コミュニティは、いわゆる『ナード(オタク)』の集まりでした。社会からは、ちょっと変わった人の趣味と見られていたんです」。それが今や、世界規模のメインストリーム・ポップカルチャーへと姿を変えた。
変化を後押ししたのは、何よりも流通の拡大だという。かつては専門店まで足を運ばなければ手に入らなかったマンガが、今ではスーパーマーケットの棚にも当たり前のように並ぶ。コンテンツの多様化、出版・流通の専門職化、インターネットとSNSの普及。これらがコミュニティを構造化し、ファン主導のイベントを次々と生み出した。フランス国内には90年代のファンが立ち上げたイベントが今も数多く残る。
象徴的な事例として彼女が挙げたのが、数年前にフランスで起きた少女マンガ・コミュニティのハッシュタグ運動だ。「少女マンガが十分に紹介されていない、もっとマーケティングを、もっと多様な作品を──そんな声がSNS上で大きなうねりになりました。出版社として、耳を傾けないわけにはいかなかった」。SNSは出版社とファンの直接対話を可能にし、両者の関係を根本から塗り替えたという。

マンガが教育・文化的メディアとして認知されるようになったことも見逃せない、と彼女は付け加える。学校や専門機関でも、若い世代と対話するためのツールとして使われ始めている。
アニメは「シネマ」になった──Crunchyrollが描く劇場体験の進化
Mathe-Cotillon氏は、Crunchyrollの目線から現在のファン層をこう描き出す。「コア層はとても若くて、グローバルに繋がっていて、熱量が高い。かつては個人的に楽しむものだったアニメが、今では世代を越えて家族で共有される体験になっています」。
彼女が力を込めたのは「アニメはシネマである」という認識が定着したことだ。「アニメはもう100%、シネマの一部です。大スクリーンに作品を持ち込むことは、ファンにとって文化的承認の意味を持つんです」。
転換点となったのが、2020年5月公開の『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』。コロナ禍の真っ只中、外出制限と座席制限のなかで、若い観客はもう劇場には戻らないと誰もが諦めかけていた。ところが蓋を開けてみると、フランスだけで80万人以上のファンが劇場に押し寄せた。それから5年後の2025年、Crunchyrollが世界配給した『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』はフランスで180万人を動員したという。

この成長を支えているのは、ジャンルの「多様性」、2,000作品を超えるカタログの「豊かさ」、そしてフランスからルーマニア、ウクライナ、カザフスタンまで届ける「アクセシビリティ」の3つだと彼女は説明する。「アニメは今、世界中どこにいても体験できる。ファンはそれを本当にありがたがってくれています」。






