映画『ウォーフェア 戦地最前線』モデルの退役軍人が日本の大学生と対話。戦争の醜さと“守る者”の論理語る

「戦争の醜さを決断者たちに見てほしい」劇中兵士のモデルとなった退役軍人が語る、95%の真実とは。

映像コンテンツ 劇場
左:ジョー・ヒルデブランド氏
左:ジョー・ヒルデブランド氏
  • 左:ジョー・ヒルデブランド氏
  • © 2025 Real Time Situation LLC. All Rights Reserved.
  • © 2025 Real Time Situation LLC. All Rights Reserved.
  • © 2025 Real Time Situation LLC. All Rights Reserved.
  • © 2025 Real Time Situation LLC. All Rights Reserved.
  • © 2025 Real Time Situation LLC. All Rights Reserved.
  • © 2025 Real Time Situation LLC. All Rights Reserved.
  • © 2025 Real Time Situation LLC. All Rights Reserved.

『シビル・ウォー アメリカ最後の日』のアレックス・ガーランド監督が、同作の軍事アドバイザーを務めた元米軍特殊部隊レイ・メンドーサを共同監督に迎えた戦争映画『ウォーフェア 戦地最前線』が、1月16日に公開される。

メンドーサ監督自身のイラク戦争での実体験をもとに、最前線の極限状態を徹底的なリアリティで再現した本作。その公開に先駆け、青山学院大学 国際政治学部(佐竹由帆教授ゼミ)にて、登場人物のモデルとなった退役軍人と学生が対話する特別授業が行われた。

登壇したのは、ジョー・ヒルデブランド氏。劇中でジョセフ・クイン演じる兵士のモデルとなった人物だ。1995年の海軍入隊後、SEALsを経て2021年の退役まで長きにわたり従軍した経歴を持つ。 「映画の95%は正確に再現されている」 そう語るヒルデブランド氏が学生たちに伝えたのは、戦場の生々しい体験と、この映画が作られた「本当の理由」だった。


この映画は記憶を失った戦友への贈りもの

イベント冒頭、学生から「なぜ辛い記憶を呼び起こしてまで映画を作ろうと思ったのか」と問われたヒルデブランド氏は、その動機をこう明かした。

「理由はとてもシンプルです。友人のエリオットのためでした」

エリオットとは、劇中で爆撃を受け意識不明となり、その後奇跡的に生還した兵士のモデルとなった人物だ。彼は重傷を負った後遺症で、当時の記憶を完全に失ってしまったという。

19年経った今、私たちが口で説明しても、彼は思い出すことができません。だからこの映画を作ることで、彼に『あの時何が起きたのか』『なぜ今のような身体状態になったのか』を見せてあげたかったのです」

ヒルデブランド氏にとって、この映画は戦友エリオットへの「贈り物」であり、そのためになら自身の痛みを伴う記憶を引き出す価値があったと語る。

ジョー・ヒルデブランド氏

戦争の醜さを政治の決定権者に伝えたかった

映画制作の動機は戦友のためだけではない。彼は本作が作られた社会的意義についても言及した。

「これはある個人のドラマですが、同時に『戦争がいかに醜いものであるか』を描いた作品でもあります」

会場では配給スタッフから、本作が「現場の兵士から、戦争を始める決断を下すディシジョンメイカーに見せたいと思って作られた作品である」という補足もなされた。ヒルデブランド氏もこれに深く同意し、時代や場所を超えて共通する「戦場の過酷な現実」を正確に伝える力が、この作品にはあると語った。

© 2025 Real Time Situation LLC. All Rights Reserved.

学生に語った戦場の生々しい体験

本作のリアリティはどの程度なのか。ヒルデブランド氏は、「誤解を招く恐れのある言葉を一部変更・省略した以外は、95%正確だ」と断言する。

また彼の言葉から、「映像表現」ならではの意義も浮かび上がってきた。

ヒルデブランド氏は、家族や友人にこれまで何度も戦場での体験を話してきたという。しかし、「話を聞くのと、実際に見るのでは全く違う」と彼は語る。言葉で話を聞いただけの段階では、周囲は「もっと細かいディテールを知りたい」と求めてきたが、映像としてその光景を目の当たりにしたとき、彼らの視点は確実に変化したという。

「困難な状況を正しく理解する助けになること」、そして「観客一人ひとりが自分なりに肌で感じられること」。ヒルデブランド氏は映画ならではの意義をそう強調する。授業に参加した学生からは、「音が衝撃的だった」「爆発後の耳鳴りや銃声のノイズに、想像以上の恐怖を感じた」といった感想が寄せられた。

また、自身の最も鮮烈な記憶として、極限状態での「視線」について触れる場面もあった。

「レイ(通信兵)の目を見たとき、彼が私を見返してくれた。その目が驚くほど冷静だったので、『ああ、俺は大丈夫だ、死なない』と直感したことが、今でも脳裏に刻み込まれています」

ヒルデブランド氏は戦後の「戦い」についても触れ、肉体的なリハビリだけでなく、精神的なプロセス──何が起きたのかを理解し、癒やすこと──に長い時間を要したと語った。また、映画制作を通じて、19年間誰とも共有できずにいた「重荷」を戦友たちと分かち合い、心の重荷を下ろすことができたという。

大義がなくても、我々には選ぶことはできない

国際政治を学ぶ学生たちとの対話は、イラク戦争の「大義」という鋭いテーマにも及んだ。佐竹教授からの「大量破壊兵器が存在しなかったとされるイラク戦争において、兵士としてどう感じていたか」という問いに対し、ヒルデブランド氏は兵士の立場からの率直な思いを吐露した。

「残念ながら、私たちは派遣される場所を決めることはできません。たとえ、情報が与えられていなかったとしても、政府が決めたことには従わなければならないのです」

しかし、政治的な大義に疑念があったとしても、現場の兵士には戦うべき動機は別にある。

「羊を守るために狼と戦う『牧羊犬(シープドッグ)』として、私たちは国が命じれば遠い地へ行きます。しかし、そこで戦う理由は、政治的なものではなく『お互い(チームメイト)を守るため』なのです」

仲間を家族同様に思いやる気持ちこそが、戦場における唯一の行動原理になる──彼はそう強調した。

© 2025 Real Time Situation LLC. All Rights Reserved.

「日本は平和だ」という学生の言葉に対して

セッションの終盤、ある学生が「平和ボケした日本に育った自分には、国のために戦う気持ちが想像し難い」と率直な感想を述べた。

これに対しヒルデブランド氏は、「日本が長い間平和であるという事実は素晴らしいことであり、皆さんが生きている間、その平和が続くことを願っています」と温かい言葉を返した。その上で、「日本の自衛隊も皆さんを守るために常に準備していることを忘れないでほしい」と付け加えて、対話は幕を閉じた。

『ウォーフェア 戦地最前線』

  • 脚本・監督︓アレックス・ガーランド(『シビル・ウォー アメリカ最後の日』、レイ・メンドーサ(『シビル・ウォー アメリカ最後の日』『ローン・サバイバー』軍事アドバイザー)

  • キャスト︓ディファラオ・ウン=ア=タイ、ウィル・ポールター、ジョセフ・クイン、コズモ・ジャーヴィス、チャールズ・メルトン

  • 配給︓ハピネットファントム・スタジオ

  • © 2025 Real Time Situation LLC. All Rights Reserved.

  • 2025/アメリカ/95分/英語/カラー/5.1ch/原題『WARFARE』/日本語字幕︓佐藤恵子/PG12

  • 1月16日(金) TOHO シネマズ日比谷ほか全国公開

《杉本穂高》

関連タグ

杉本穂高

Branc編集長 杉本穂高

Branc編集長(二代目)。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。

編集部おすすめの記事