新千歳空港国際アニメーション映画祭にて、設立10周年を迎えるストップモーションアニメーションスタジオ「TECARAT(テカラ)」のスタッフトークイベントが開催された。
登壇者は、同スタジオの八代健志監督、廣木綾子監督、日下部泰寛プロデューサー、及川雅昭チーフプロデューサーの4名。プログラム・アドバイザーの田中大裕氏の進行のもと、スタジオ設立の経緯から独自の制作スタイル、そして長編映画制作を見据えた今後の展望までが語られた。
テカラ設立の経緯
テカラは、CM制作会社の太陽企画の一部署として2015年に設立された。CMディレクターだった八代監督は、ストップモーションという手法に惹かれ、1人でせっせと作品を制作し、会社の会議でその成果をアピールしたという。それが、次のプラネタリウムの企画を探していた及川プロデューサーの目に留まり、短編作品『ノーマン・ザ・スノーマン ~北の国のオーロラ~』(2013年)を制作。これがスタジオ設立のきっかけとなった。
同スタジオの名前は、日本語の「手から」からきているという。頭ではなく、手から始めるものづくりを目指したいという志を込めていると八代監督は語る。

テカラの特徴は、設立当初から「分業をしない」スタイルを採用していることにあるという。
通常、CM制作などの映像業界では、監督、カメラマン、美術などが専門職に分業化されていて、各セクションは監督の指示のもと仕事をする。しかし、八代監督は「美術を大事にしたい」という思いから、ストーリーやコンテに合わせて美術を作るのではなく、美術が先にあって撮影方法を決めるという自由な発想で始めたところから始めたのだという。
「100年後も残る映像」を受け継ぐ次世代
イベント中盤では、次世代を担う廣木監督と日下部プロデューサーが、テカラでの経験と魅力について語った。
CM制作や展示映像制作など幅広い経験を持つ日下部プロデューサーは、テカラが掲げる「100年後も残る映像を目指して」という理念に共感していたという。
「テカラの作品は、セットや人形、小道具の造形や素材へのこだわりが強く、作り手の『顔が見える』のが魅力」と日下部氏は語る。
また、設立初期からスタッフとして参加している廣木監督は、「専門性を持ちつつも線引きをしないチームだからこそ、全ての物事を俯瞰して『自分が関わるんだ』という意識を持って作品に接することができる」と、テカラの組織風土の魅力を強調した。
業界歴40年を超えるベテランである及川チーフプロデューサーは、自身のキャリアは映像技術の進歩とともにあったと述べ、テレビの枠にとらわれない作品作りを志向してきたと語る。「CM制作会社の端っこにいた存在」と語る及川氏だが、日下部氏や廣木氏といった後継者が育っている現状に安心しているようだ。

次の10年は「長編映画」と「組織づくり」へ
設立からの10年で、海外映画祭での受賞や『HIDARI』プロジェクトへの参画など、ストップモーション業界での認知を広げてきたテカラ。次の10年に向けた抱負として、八代監督と及川チーフプロデューサーの口から共通して出た言葉は「長編映画」への挑戦だ。
八代監督は現在、ドワーフ、WHATEVERとの3社共同プロジェクト『HIDARI』のパイロット版を経て、長編化の実現に向けて動いているほか、水面下で複数の企画を進行中だという。
「長い映画を作るには、これまでの分業しないスタイルだけではスピードやキャパシティに限界がある。今後は上手に分業を取り入れ、新しい人とも手を組みながら、テカラのオリジナリティを保った作品作りを目指したい」と八代監督は今後の展望を語った。
これを受け、及川チーフプロデューサーも「長編を作るには現在の7~8人のスタッフでは回らない。次の10年は『100年後も残る映像』を作るために、『100年後も残る組織作り』をしていきたい」と意気込みを見せた。
『ノーマン・ザ・スノーマン』最新作も
イベントの終盤では、現在制作中の『ノーマン・ザ・スノーマン』最新作の映像が初公開された。最新作では、これまで八代監督が手がけてきたシリーズの監督を廣木氏が引き継ぐことになる。
ストーリーは前作から数年後、青年に成長した主人公がノーマンと再会し、「雪の花」を探す少年に出会うというもの。廣木監督は「八代さんが込めていた『親から子への思い』を引き継ぎつつ、今回は私自身の視点である『母から子への思い』を込めて制作している」と語る。
「手から」生み出すこだわりを守りながら、長編制作という新たなステージへと踏み出すテカラ。次の10年も、その動向から目が離せない。




