“アニメ大国”日本の課題を打破する新映画祭「ANIAFF」が名古屋で始動。真木太郎・井上伸一郎が目指すアニメーション映画祭の形【インタビュー】

2025年愛知・名古屋でクリエイター重視の「あいち・なごやインターナショナル・アニメーション・フィルム・フェスティバル(ANIAFF)」が12月に開催される。ジェネラル・プロデューサーの真木太郎氏、フェスティバル・ディレクターの井上伸一郎氏にインタビューした。

グローバル マーケット&映画祭
左:真木太郎氏、右:井上伸一郎氏
左:真木太郎氏、右:井上伸一郎氏
  • 左:真木太郎氏、右:井上伸一郎氏
  • 左から、ペネロープ・バジュー氏、オーブリー・ミンツ氏、塩田周三氏
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2025年12月、愛知県名古屋市で新たな国際アニメーション映画祭が誕生する。第1回「あいち・なごやインターナショナル・アニメーション・フィルム・フェスティバル(ANIAFF)」が、12月12日より開催される。

この新たな映画祭を立ち上げたのは、ジェネラル・プロデューサーの真木太郎氏、フェスティバル・ディレクターの井上伸一郎氏、そしてアーティスティック・ディレクターの数土直志氏だ。

3氏は新潟国際アニメーション映画祭から独立する形で、愛知・名古屋を舞台に新たなスタートを切る。その理由と、ANIAFFはどのような映画祭を目指し、なぜ現代においてアニメーション映画祭が必要だと考えているのか。会見にも登壇した真木太郎氏と井上伸一郎氏に、その詳細を聞いた。


クリエイターファーストの映画祭を目指す

―― 6月の会見で真木さんは「クリエイターファーストの映画祭を目指す」とおっしゃっていました。具体的にどのような方向性になるのでしょうか。

真木: アニメーションも産業ですから、ビジネスとクリエイティブな面があります。クリエイティブとビジネスは本来、車の両輪のようなものですが、なかなか「作り手」にフォーカスする場がありません。昨今はすべてが商売に寄り過ぎていて、いわゆる「作家性」を持ったクリエイターが生まれにくい世の中になってきている。

映画祭は「場」の提供だと考えています。クリエイティブな人たちが出会い、発見があり、観客とクリエイター側がマッチングできる場を少しでも多く提供したいんです。

井上: 放送・配信が始まって大ヒットするとものすごく盛り上がりますが、アニメの仕事は、そうした「ハレ」の時は一瞬です。そこに向けて何年も地味な作業を続ける、「ケ(日常)」の場がほとんどを占める業界ですから、その部分に光を当てたいという思いがあります。

国際コンペティション部門のラインナップ

―― コンペティションの募集具合はいかがですか。また、細田守監督特集などは先んじて発表されていますが、その他どんな企画を行うのですか。

真木: 初開催にもかかわらず、コンペには世界29ケ国から45の作品の応募がありました。これはとてもいい数字だと思います。大きな話としては、アニー賞※と提携します。
※国際アニメーション映画協会(ASIFA-Hollywood)が主催する、アニメーションのアカデミー賞とも言われる賞

―― それは大きいですね。

真木: 大きいでしょう(笑)。アニー賞をやっている団体のボードメンバーが、審査員の1人として来日して、トークショーなどを行う予定です。

左から、ペネロープ・バジュー氏、オーブリー・ミンツ氏、塩田周三氏

―― 会見では「企画マーケット」も実施したいというお話がありました。

真木: はい。クリエイターがピッチ(企画プレゼン)をして、プロダクションが聞く。そこで「うちでやろう」となることもあれば、「(資金が)必要なら出すよ」となるケースなど、様々な形を検討しています。

―― ピッチマーケットは、新潟では実施されておらず、ANIAFFでの新しい試みですね。

真木:日本では、TIFFCOMにファイナンスマーケットがありますが、アニメ専門のものはなく、アニメジャパンのビジネスデーでも行われていません。日本のアニメ業界はすごく狭い世界で、製作委員会と常連企業だけになっているので、新規参入がしづらいんです。ですので、今回はファンドや銀行、海外の方にもピッチを聞いてほしいと思っています。

愛知と名古屋を選んだ理由

―― お2人は新潟国際アニメーション映画祭を3年間運営してこられましたが、今回、新たな映画祭の場として愛知・名古屋を選ばれた理由はなんでしょうか。

真木: まず、新潟と比べた場合、都市の規模が大きいです。そして、最近ではジブリパークも開業し、以前から「あいちトリエンナーレ」(現・あいち国際芸術祭)や、10年以上続く「世界コスプレサミット」、30年近い歴史のある「あいち国際女性映画祭」など、映像や文化に関するイベントを長くやってきた実績があります。それに加えて、東京から訪れやすく、中部国際空港もあるので海外からのアクセスもいい。

世界コスプレサミット2025の様子

映画祭で大事なのは継続性です。その継続性を担保できる環境として、名古屋はいいと思いました。それで、去年の秋に大村知事に企画書を読んでもらい、「ぜひ名古屋でやりたい」とお話したところ、すぐに快諾していただけました。

あとは、やっぱり県と市のサポートがあることです。 地元自治体がサポートしないと、国がサポートできないシステムになっているんですよ。新潟では自治体のサポートを得られなかったので、国に相談へ行ったら、「地方がサポートしているものを、さらにサポートするのが国の役割です」と言われました。

―― 愛知・名古屋が行政として、この映画祭にどんなことを期待していると感じていらっしゃいますか。

真木: それはやはり、アニメーションの急速な世界的な注目度ですよね。行政の方々もそれは当然わかっていらっしゃる。アニメーション映画祭という「催し物の総論としての魅力」を感じていただいていると思います。

井上: 例えば「名古屋飛ばし」という言葉があり、東京から観光客が京都や大阪に行ってしまう現象があるとしたら、この映画祭をきっかけに名古屋に泊まってもらう。そこから継続的に名古屋へ行く習慣になっていくことでしょう。

例えば、1日目は映画祭を見て、次の日はジブリパークへ行くといったように、1つの周遊コースとして楽しめる、そういう楽しみ方を作れたらいいなと思います。それに、私は1980年代からアニメ雑誌を作ってきましたが、名古屋地区は昔からアニメファンが熱いエリアでした。そういった「アニメは名古屋が中心だ」みたいな熱を作っていきたいなと思います。

なぜ日本にアニメーション映画祭が必要なのか

―― 長編アニメーションは世界的に増加傾向にあります。世界のアニメーション市場はこれからどうなっていくとお考えですか。

井上: さらに広がるでしょう。中東や北アフリカを含めたイスラム圏は、特に大きく広がる可能性がとても高い。資本も含めてアニメーションはまだまだ発展途上だと感じています。

ですので、例えば『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』のような作品の大ヒットは、日本にとって脅威でもありますが、アニメーション全体を考えるととても良いことです。日本のみならず、色々な可能性が見えてきたなと感じます。

―― そんな中で、日本がこれからもアニメ大国であり続けるためには、世界のアニメーションのハブとなれる場所が必要だと思います。

井上: そうですね。「アニメ大国」と言っているのに、日本には長編のアニメーション映画祭がほとんどなかった。将来的に「ヨーロッパにはアヌシーがあり、アジアにはANIAFFがある」と言われるような、二大巨頭のようになりたいです。


真木:日本のアニメは海外で人気ですが、基本的には「一方通行」(作ったものを見てもらうだけ)です。次のレイヤーとしては、共同製作も含めた「双方向性」が大事になってきます。マーケットが変われば作品も変わってきます。例えば、「日本では当たらなくても、別の国で当てればいい」となれば、企画の幅が広がりますよね。

井上: 「日本で当たらなくてもいい」とクリエイターは思わないでしょうけど(笑)、世界中で当たる環境が今はありますからね。

真木: でも、「日本ではちょっと無理かもな」という企画が海外でなら成立する可能性はあるかもしれない。次のレイヤーを産業として作っていかないと、どこかに追いつかれ、抜かれるかもしれない。今、日本はアニメに限らず「金太郎飴」みたいになっている傾向があり、それは良くないと思います。産業全体の活性化、新陳代謝を促す役割をこの映画祭が担えればと思っています。

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―― 中長期的なビジョンとして、本映画祭の5年後、10年後はどうお考えですか。

真木: そこまで考えられる段階ではないですが、重要な物差しは2つあると思っています。1つは「地域密着」であること。もう1つは、海外の人から見た時の「ブランディング」です。「アジアのアニメーション映画祭と言ったら、ANIAFFだ」というイメージを、どうやって作っていくか。映画祭、特に作家性の強い作品はどうしても地味になりがちです。そこをどう「お祭り」にしていくかは課題ですね。アヌシーには長い歴史がありますし、風景も全く異なりますから、名古屋で開催する条件でどうするかを考えないといけません。

―― 最後に、第1回を迎えるにあたり、楽しみにしている観客にメッセージをお願いします。

真木: 私が演出したいのは、「C to C」(Creator to Consumer)の「幸せ感」です。『この世界の片隅に』で、片渕須直監督が100回以上も舞台挨拶をしてサイン会をすると、お客さんと交流が生まれます。あれは、お互いにものすごく幸せな時間です。普通、観客は作ったものを見るだけですが、この「C to C」の感覚を、映画祭としてうまく作り出したいと思っています。

井上: 私は、特に若い方に「冒険」をしてほしいと思っています。映画祭ならではの面白さは、「未知の作品」「未知のクリエイター」に触れられることです。全く価値のわからないもの、全然知らない国の作品に触れる機会はなかなかない。むしろ、そういう作品の方が頭に残ったりすることもあります。

一見、回り道に見えるかもしれませんが、その方が人生が豊かになって、むしろ結果的に「コスパが良かった」ということもある。コンペで見たことのない作品を一気に見られるのは映画祭の醍醐味ですし、海外の監督やプロデューサーと非常に近い距離でQ&Aができる機会もまずありません。そういった体験を大事にしてもらえると嬉しいですね。

【第1回あいち・なごやインターナショナル・アニメーション・フィルム・フェスティバル 概要】

  • 名称: あいち・なごやインターナショナル・アニメーション・フィルム・フェスティバル

  • 英語表記: Aichi Nagoya International Animation Film Festival

  • 会期: 2025年12月12日(金)~17日(水)

  • 会場: ミッドランドスクエア シネマ、ミッドランドスクエアシネマ2、109シネマズ名古屋などの上映施設ほか

  • 主催: あいち・なごやインターナショナル・アニメーション・フィルム・フェスティバル実行委員会

  • 共催: 愛知県・名古屋市

  • 協力:中日本興業株式会社、株式会社東急レクリエーション、株式会社新東通信、学校法人 日本教育財団 名古屋モード学園・HAL名古屋

  • ジェネラル・プロデューサー:真木太郎

  • フェスティバル・ディレクター: 井上伸一郎

  • アーティスティック・ディレクター: 数土直志

  • 公式サイト:https://aniaff.com/

《杉本穂高》

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杉本穂高

Branc編集長 杉本穂高

Branc編集長(二代目)。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。

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