日本の実写作品のグローバル展開の必要性が叫ばれるようになってきた。一部の大企業は着実にその歩を進めようとしている。しかし、インデペンデント映画にとっては、グローバル市場への展開はまだまだ超えるべきハードルは多い。
そんな中、LA在住の映画プロデューサー、柳本千晶氏は、日本のインデペンデント映画を世界に配信するプラットフォーム「SAKKA」を立ち上げた。
「SAKKA」は、海外の配給システムに入っていない隠れた名作や新たな才能による作品を世界に紹介している。大手配信サイトのようなアルゴリズムで作品を推薦するのではなく、映画祭などで高く評価された作品を並べており、映画作家の声も一緒に届けることで作り手を観客に広く伝える役割も担っている。
そのSAKKAを立ち上げた柳本氏にSAKKAを立ち上げた経緯、日本のインデペンデント映画が海外展開するために必要なことなどを聞いた。

アメリカ映画好きが高じて留学を決意
――柳本さんがアメリカで映画プロデュースの仕事をするようになった経緯から教えていただけますか。
柳本:子供の頃から映画が好きで、地元のレンタルビデオ屋でよくアメリカ映画を借りていました。高校は地元の進学校に入ったんですけど特に行きたい大学もなくて、じゃあ、好きなアメリカ映画に関わりたいと思いロサンゼルスの大学を受けて、映画を学んで今に至るという感じです。
――現在は、LAでSynepic Entertainmentという制作会社を運営されているんですよね。
柳本:そうですね。制作会社ですが、今日お話しするSAKKAやコンサルティングの仕事などもやっています。
――柳本さんのプロデュースした『カンパイ!世界が恋する日本酒』を日本公開時に見ました。あれを見ると日本酒を飲みたくなりますね。
柳本:ありがとうございます。それがまさに映画を作った目標なので嬉しいです。劇映画のプロデュースからキャリアを始めたんですけど。最近はドキュメンタリー映画が多いですね。
――今年のカンヌ国際映画祭のプロデューサーズ・ネットワークに参加しておられましたね。
柳本:カンヌに参加するのは初めてでしたが、色々なパネルディスカッションに参加してその後のパーティーに出て色々な人と出会いました。普段会う機会のない欧州やアジアのプロデューサーとも多く知り合えました。ベルリンやトロントと比べても大きくて、本当に世界中の映画人が集まっているんじゃないかと思えました。

日本のインデペンデント映画を世界に配信する「SAKKA」
――「SAKKA」を始めたきっかけはなんだったんですか。
柳本:LAで活動してきて、海外の映画祭などで日本の監督やプロデューサーと会う機会が増えました。映画祭ではすごく盛り上がっているんですが、それらの日本映画が北米で配給されていることが少ないという現状があります。それと、アメリカで好きな日本映画について質問すると、大抵、黒澤明や小津安二郎といったクラシックな作品かアニメに二極化している状態で、今の実写作品がごそっと抜けてしまっているんです。その状態が私はすごく悔しいし、日本映画の存在感が薄くなってしまう危機感もあって、何とかしようと思い切って始めました。

――「SAKKA」は日本以外の地域で、現代日本のインデペンデント映画を配信しているんですよね。
柳本:そうですね。作品によっては北米地域のみの配信や欧米だけといった作品もありますが、基本的には日本以外の全テリトリーで提供しています。提供の形態としては、作品ごとにレンタルか買い切りとなります。一般的な配信プラットフォームのように何千本も作品を扱っているわけではなく、選りすぐりの作品を厳選して提供しています。
――「SAKKA」のサイトには作品だけじゃなく監督のインタビューなどもありますね。
柳本:はい。「SAKKA」は「作家」が名前の由来ですから、映画作家を応援したいという気持ちがあります。作り手の声を届けることを重視していて、そこが大手の配信サイトとは違うところだと思っています。今後はオンライン配信だけでなく、上映活動などもやっていけたらと考えています。
――どんな作家の作品が人気がありますか。
柳本:地域ごとに異なるので全体としては一概には言えませんが、やはり映画祭などで話題になった作品が人気になる傾向はあります。日本映画のコアなファンやシネフィルの方もよく利用してくれますが、欧米の10代や20代の人も高い熱意で見てくれているんです。
――それはやや意外ですね。
柳本:私ももう少し年齢層が高めの人によく利用されるのではと考えていたのですが、ここ数年、アジアの作品が若い世代を中心に流行っていますから、日本の作品も若い人にとってクールなものとして受け入れられているんじゃないかと思います。
――例えば、韓国ドラマや日本アニメの人気の延長線上で日本のインデペンデント作品も注目されているかもしれないということでしょうか。
柳本:おそらくそうだと思います。昔だったら、日本映画を見る人は本当に映画に詳しい人という感じでしたけど、今はクールなアジアの文化の一つとして、監督や俳優さんに注目が集まりやすくなっている感触がありますね。
――では、日本の実写作品も、今がグローバル展開する絶好の機会が訪れているという実感はありますか。
柳本:そうですね。「SAKKA」をやっているから私は少しバイアスがかかっているかもしれませんが、受け入れられる可能性は増えていると思います。グローバルな展開の仕方や市場へのアクセス方法をプロデューサーや監督が学んでいけば、もっと可能性が広がると思います。