エンタメ系ウェブメディアが相次いで事業譲渡。背景は無料広告モデルの苦戦?

9月に映画やテレビドラマ、アニメなどのエンタメ系情報を扱うウェブメディアが相次いで事業譲渡を発表した。具体的には、クランクイン!、ciatr、CINRAの3サイトで、それぞれ事業譲渡の理由は異なるが、同種のメディアの買収案件が同時期に重なるのは珍しい。

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エンタメ系ウェブメディアが相次いで事業譲渡。背景は無料広告モデルの苦戦?
Freepikのrawpixel.comの画像 エンタメ系ウェブメディアが相次いで事業譲渡。背景は無料広告モデルの苦戦?

9月に映画やテレビドラマ、アニメなどのエンタメ系情報を扱うウェブメディアが相次いで事業譲渡を発表した。具体的には、クランクイン!、ciatr、CINRAの3サイトで、それぞれ事業譲渡の理由は異なるが、同種のメディアの買収案件が同時期に重なるのは珍しい。

これはエンタメ情報を巡る情報環境の変化を示しているのか、あるいはウェブメディア全体を巡る大きな環境変化の時期に差し掛かっているということなのか、考えてみたい。

ローソン、WOWOW、大企業がウェブメディアを欲する理由

今回、ウェブメディア事業を買収した企業の狙いをまずは考えてみよう。

クランクイン!のケース

株式会社ブロードメディアが運営していた「クランクイン!」は、映画、TVドラマ、海外ドラマ、アニメ、コミックからイベントに至るまで幅広いエンタメ情報を提供している。譲受先の株式会社ローソンエンタテインメントは、シネマコンプレックスのユナイテッドシネマ、物販事業のHMV&BOOKS、旅行事業のローソントラベルやチケットサービスを展開するローソンチケットなどを運営している。

映画館から物販、旅行事業とライブ・コンサート、スポーツなど体験型のイベントチケット販売を行う同社として、それらの情報を円滑に届ける存在として、メディア事業はシナジー効果が見込めるだろう。公式プレスリリースでは、「クランクイン!を通じて、旬のエンタメ情報を届け、行きたいと欲しいが見つかる情報を届けて、相乗効果を高める」と書かれており、自社のエンタメ事業の底上げが目的と見ていいだろう。

一方、譲渡側のブロードメディアは、クランクイン!を手放した理由を、これまで注力してきた6つのセグメント「教育」「メディアコンテンツ」「スタジオ・プロダクション」「放送」「技術」「その他」のうち、「教育」と「技術」をさらに成長させるため、ポートフォリオの見直しをはかったと説明している。

ブロードメディアは、放送や配信のバックヤードシステムを広く提供している会社で、この分野と日本語教育などを提供している教育事業が売り上げの大半を占めており、メディアコンテンツは毎年横ばいか赤字を計上している。クランクイン!は6つのうち「メディアコンテンツ」に属するが、この分野は大きな成長を見込めなくなったということだろう。その上、エンタメニュースは「教育」と「技術」とのシナジー効果もあまり高くないと思われる。

CINRAのケース

CINRAはカルチャー系情報サイトの老舗と言える存在で、これまで独立運営を貫いてきたが、創業20年目で株式会社WOWOWコミュニケーションズに全株式を譲渡し、同社の子会社化となることを発表した。

WOWOWコミュニケーションズはマーケットリサーチやコンサルティング業務を担う会社で、同グループのオンラインショップ「wowshop」やコールセンター業務なども行っている。同グループがメディア事業を求める理由は何だろうか。

公式プレスリリースでは、「ブランド構築やWEB制作、メディア事業と、当社のデジタルマーケティング、データマーケティング、コンタクトセンター事業のマーケティング支援領域において、一気通貫でのサービス提供を図る」という。今後さらに伸長するであろうデジタル分野でのマーケティング事業の強化という思惑が見える。

今回の買収は、親会社WOWOWの長期ビジョンとも合致する面がある。WOWOWは、長期ビジョン「10年戦略」及び 「中期経営計画(2021-2025年度)」にて、これまでの有料会員制の放送事業から「コンテンツ・コミュニティ業」への変革を目指すとしている。「コンテンツを核に、放送・配信での視聴体験を提供する「メディア・サービス」に加え、参加・応援といった新たなコンテンツ価値を提供する「コミュニティ・サービス」、コンテンツ体験の幅を広げる「エンターテインメント・サービス」の3つの事業領域で顧客体験価値を向上」させるとのことで、メディア事業の獲得はこの方針とも合致するものと言えるだろう。さらに同社は、TNLメディアジーン、株式会社メディアジーン、株式会社インフォバーンといったメディア関連企業との事業提携も発表しており、メディア事業を加速させようとしている。

ciatrのケース

ciatrは株式会社vivianeが運営していた、「物語と、出会おう。」をキャッチコピーとする映画・ドラマ・アニメの情報サイトだ。最近では電子書籍コミックへの誘導記事が多くなっており、映画やドラマの情報サイトから変化してきているように見える。本サイトを取得したエボイス株式会社のプレスリリースによれば「M&Aを通じてさまざまな業界における企業運営や事業再生を行ってきた」とあり、ciatrは現状の状況から事業再生の必要があるということなのかもしれない。同社は、不動産や企業投資を行う会社のようで、本業とのシナジーを考えたということではなさそうである。

ウェブメディアを支えるウェブ広告の実態


《杉本穂高》

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杉本穂高

映画ライター 杉本穂高

映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。

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