東京都が、グローバル市場に挑むコンテンツ事業者を支援するプログラム「IntoGlobal~東京都コンテンツ産業海外展開支援プログラム~」における第二回シンポジウム「グローバルライセンスビジネス シンポジウム/実写映画編」を8月22日に開催した。
本プログラムは2024年6月に始まり、東京都内に登記簿上の事業所をかまえるコンテンツ産業の企業・個人事業主向けの無料相談窓口を開設している。ジャンルごとに専門家が課題に合わせた内容の相談に乗り、資金調達や士業関係の相談も受け付けているという。また、海外展開経験者を招き、最新情報や留意点を共有するシンポジウムも随時開催していく。
7月に開催された第一回のシンポジウムは、「グローバルライセンスビジネス」のアニメ編がテーマだったが、二回目となる今回は「実写映画」の海外展開を取り上げた。登壇者は(有)オープンセサミ代表の阿部律子氏、同社所属の行政書士で法務コンサルティングも担当する共同代表の中根佳穂氏、Into Globalコンシェルジュの三輪由美子氏、ファシリテーターは、Into Globalプログラムマネージャーの川野正雄氏が務めた。
映画祭マーケットのキープレイヤーが交代
阿部氏は、中根氏とオープンセサミを立ち上げる前から、カンヌやベルリンなど主要国際映画祭のマーケットに参加してきた。『ギルバート・グレイプ』や『ファーゴ』などの名作の買付に関わり、現在は洋画の買付と邦画の海外進出、映像関連のシンクタンク業務やコンサルティングに携わっている。
阿部氏とオープンセサミの共同代表を務める中根氏は、松竹富士時代に『パルプ・フィクション』や『ショーシャンクの空に』などの洋画の買付に関わった実績を持つ。配給契約のみならず、国際共同製作や原作権やリメイク権など、多くの海外契約案件を手掛けてきた。
セミナーの前半は、阿部氏のプレゼン。世界の映画産業がコロナ禍を経てどう変化したのかが語られ、海外セールスの実態を話してくれた。
コロナ以降、映画の買付の現場では、リモートビジネスが常態化したという。映画のオンラインリンクで本編を視聴し、それで購入するかを判断するようになっており、映画祭などのマーケットに参加する必要が薄れてきているようだ。そしてコロナ以降、配信ビジネスの進展もあり、映画祭のマーケットのキープレイヤーが変化したという。これまでのマーケットでは、セールス・エージェントや配給会社が多く参加していたが、昨今はプロデューサーや投資家などの参加が目立つそうだ。

また、これまではテリトリーごとに細かく権利を売買していたが、配信系の会社は世界規模で作品調達を行い、全世界の権利を一括して購入するケースが多いため、既存のエージェントや配給会社の存在感が低下しているとのこと。それでもマーケット参加者は増加しており、プロデューサーなど製作側のプレゼンスが上がっている状況のようだ。
そんな変化に伴い、セールス・エージェントの役割も変わってきているという。自らプロデュースし、新たな才能をスカウトするようになり、さらに配給業務まで手掛けるようになってきているそうだ。

国際映画祭に出品する方法は?
そして、ここからプレゼン内容は、日本映画をいかに海外へ展開するかに移る。第一の方法は映画祭への出品だ。
映画祭に出品するために最低限必要なものは、英語字幕入りの本編と映画のスペックとシノプシス。映画祭の募集は年中行われているが、どう応募するかが課題となる。Filmfreeway、Festhomeなどのサポート応募サイトの利用や、川喜多映画財団やFilminationなどの出品サポートを活用する方法もあれば、セールス・エージェントの目に留まることで映画祭への道が開けることもある。日本映画をよく扱う有名セールス・エージェントとしては、Goodfellas、Dogwoof、Reel Suspects、MK2、Match Factory、M-Appeal、Charadeなどがある。今年、海外の映画祭に出品された日本映画の実績を振り返ると、セールス・エージェント経由で出品されているケースが多いとのこと。
スケジュール感については、例えば、年初のサンダンス映画祭やベルリン国際映画祭、ロッテルダム国際映画祭に応募するなら、英語字幕入りの本編が8~9月ごろには完成している必要があるとのこと。
次いで、今年の日本映画がどんな映画祭に出品しているかのリストを提示。カンヌやベネチアなどの有名映画祭の他、最初はアジア映画祭や日本映画専門の映画祭を狙った方が選ばれやすいので、そうした映画祭で実績を積んでいくのがいいという。
どんな作品が選ばれやすいのかについては、阿部氏は「まずクオリティーが高いことが前提」としつつ、映画祭が保守化し、スポンサーとの関係で集客率を重視するようになってきていると語る。そして、どの映画祭もプレミア上映であることを好み、新たな才能を発見したいと考える傾向があるとのことだ。
テーマについては、やはり、普遍的でユニバーサルなものが選ばれやすいという。家族や親子関係、夫婦のありかた、格差や社会の矛盾、分断などを描くもので、主張がはっきりしている作品が好まれやすいという。
海外マーケットでは、一般的にセリフの多い映画は不利だそうだ。そして尺の長い作品も不利になるので、100分前後が理想的だという。しかし、そうした不利な条件を払拭するような物語の面白さ、社会性と娯楽性を兼ね備えた作品こそ求められているとも阿部氏は語る。
また、映画祭以外で海外進出するならば、アジア圏においては、日本のスターの知名度は有効に機能することがあるという。アクションやホラーのようなジャンル映画は、近年低予算作品のセールスが成立しにくくなっているそうだ。

続いて、映画祭出品から映画の権利を販売する流れについて解説された。