「つくたべ」プロデューサーが作品に込めた想い。「ドラマも価値観を形成するひとつになる」

人気漫画を原作にドラマ化され、NHKの“夜ドラ”枠でシーズン2最終回を迎えるドラマ「作りたい女と食べたい女」。自ら原作を読み、この作品を映像化したいという強い思いで企画を成立させたのはプロデューサーの大塚安希氏だ。Brancでは本作の映像化にあたりどのようなプロセスを歩んできたのか、話を聞いた。

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「つくたべ」プロデューサーが作品に込めた想い。「ドラマも価値観を形成するひとつになる」
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人気漫画を原作にドラマ化され、NHKの“夜ドラ”枠でシーズン2が放送中のドラマ「作りたい女と食べたい女」(つくたべ)。料理好きの野本さん(比嘉愛未)と食べることが好きな春日さん(西野恵未)の食事を通した交流と女性同士の恋愛が描かれている。

本作の企画・プロデュースを担当したのは、制作プロダクションMMJ(メディアミックス・ジャパン)に所属する大塚安希氏だ。大塚氏はこれまでアシスタントプロデューサー・プロデューサーとして複数の作品に携わり、「つくたべ」ではいちから企画を手がけた。

Brancでは、大塚氏のこれまでのキャリアや本作の企画の立ち上がり、さらに女性同士の恋愛を描く上で意識したことなど、詳しく話を伺った。

就職→大学院を経てプロデューサーに

――大塚さんが現在のプロデューサーという職業に就くまでの経緯を教えてください

小学生くらいからずっとドラマが好きで、ドラマに関わる仕事に就きたいなと思って就職活動をしたものの、テレビ局や映画会社の試験に落ちてしまったんです。その後、一度はPR会社に就職して、それはそれで楽しかったんですけど、仕事って生活の中の大半の時間を使うものなので、それならば本当にやりたいことをやろうと思いはじめました。その頃、脚本家の坂元裕二さんのトークショーに行ったんですが、そこで坂元さんが東京藝術大学の大学院で教授をされていると知って、藝大の院に入ったんです。

――大学院では、どのようなことを学びましたか?

私はプロデュース領域で学んだんですけど、「とにかく現場に行け」という教えのもと、院で学ぶようになって数週間で撮影現場にいきました。セットの壁をとにかく汚すということをやったり、制作部でお弁当を頼んだり、交通整理をしたりということをしていました。大学院に行きながら、現場での経験をさせてもらうということを2年間やって、卒業してからもフリーでアシスタントプロデューサーをやってたんですけど、ドラマを一本手掛けるプロデューサーをやるには会社に入ったほうがいいのかなと思って、縁があり今のMMJという会社に入りました。

――会社に入ってから、ご自身の企画として原作開発から初めて手がけられたのが、「作りたい女と食べたい女」になるのでしょうか?

いきなりプロデュースというのは難しいので、ある程度出来上がった枠組みの中でプロデュースをするという経験をしました。その後、自分で原作を読んでこの作品を映像化したい、この監督や脚本家とやりたいと言って成立したのは「作りたい女と食べたい女」が最初の作品になります

ミュージシャンの西野さんを“春日さん”にキャスティングするまで

――昨今、なかなか主要な役の俳優さんをオーディションで選ぶということは難しいと思うんですけど、「作りたい女と食べたい女」においては、春日さんにぴったりな方をキャスティングできたのは大きかったのではないでしょうか?

春日さん役のキャスティングについては、知名度のある方の中に春日さんとぴったりな方はいないですねという結論に至りました。やっぱり、知名度のある方は、線が細くて華奢な感じの俳優さんが多いな、という現実にぶち当たりまして。それで、ここは知名度は関係なく探していきましょうとなって、オーディションをしていったんですが、なかなか見つからず……。

ちょうどその頃プライベートであっこゴリラさんのライブに行ったときに西野恵未さんがピアノを弾いていたのを見て、春日さんにぴったりだなと思ったんです。帰りに西野さんのX(Twitter)を見たら、海外公演などにも行かれているのでスケジュール的にも無理かもしれないと思いつつ、連絡をしたらオーディションにご参加いただけることとなり、ご出演に至りました。本当に奇跡的でしたね。

――シーズン2でも同じメンバーでこの世界観を見られてよかったです。

シーズン1の放送のときにはパート2が作られることは想定していなくて、2023年の春くらいに続編を作るという話が出てきたんです。もちろん比嘉愛未さんにもお聞きしましたけど、特に西野さんは音楽のほうのお仕事もあるし、シーズン1のときも楽しんでやってくださっていたけれど、またお芝居をやりたいと思ってくれているかな……と思って、「またあるとしたらやりたいですか?」と相談したんです。そしたら、またやりたいと言ってくれたんです。

制作陣が主体的に学ぶ現場

――脚本が山田由梨さんに決まったのはどのような経緯だったんですか?

企画が決まって、まず脚本家さんを決めようとなったときに、第一希望で挙げたのが山田由梨さんでした。私が「17.3 about a sex」という山田さんが手掛けたドラマが好きで一視聴者として見ていて、アカデミックな視点や知識を取り入れながら作るのがうまいなと思っていたんです。その後の「30までにとうるさくて」というドラマも、30歳前後の女性のモヤモヤの取り入れ方もうまいし、そこにレズビアンカップルも出てきたりと、社会的な視点も取り入れながら脚本を書いているところがすごいなと思っていて。それは「つくたべ」にも共通するところだなと思ったのでお願いしたんです。

――山田さんはどのような反応でしたか?

まずメールをした後に原作を発送して、それが届くか届かないかってくらいで連絡がきました。山田さんも元々「つくたべ」が好きで、ドラマ化をするなら誰が脚本を書くんだろうと思っていたんだそうです。私も、ドラマ化にあたって誰が脚本を書くかということは、最もこだわったところでした。今、ドラマってリサーチ会社にお願いして得た情報で作ることもできます。でも、私自身はそれだけではどうなんだろうという疑問がありました。プロデューサーとしては自分で勉強して責任をもって脚本家に提示するのは当たり前。でも、山田さんは、それを上回るくらいに勉強してくれて、それを共有できたのがよかったです。山田さんとは、一生つきあっていきたいと思っています。

――制作現場ではどのような会話が交わされたのでしょうか。

制作統括の坂部康二さんとの打ち合わせは、一定のジェンダーに関する知識を獲得していたり勉強する意欲がある環境だったのでとても良かったと思っています。

例えば、性的同意について「性的な行為には同意が必要なんですよ」っていうところから説明しないといけない人もいるかもしれないけれど、坂部さんと山田さんと私の3人では、それは前提としている中で、どのくらいわかりやすく入れるのか、エンタメとしてのラインとしてどの程度がいいのかというところから話ができました。

日頃から、作品に関連しそうなニュースがあったときは、LINEで共有して意見交換をしたりもしていました。常にアンテナを張ってアップデートしよう、という意識はとても刺激的で、わたしも学ぶことを怠らないよう、気が引き締まりました。

――性的同意のシーンは、エンタメとして興ざめするのではないか、とも言われたりしているのを見ますが、個人的には、むしろそれがロマンチックになるのではとも思ったりしています。

性的同意に関して、色々な段階で、そのときどきでひとつひとつ同意をとるという形にするのか、どこまで表現するのかは難しいことで、また違った作品であれば違うやり方もあるんでしょうけれど、「つくたべ」はやらないといけないドラマなのかなと思いました。実はシーズン1の後、5歳くらいのお子さんがこのドラマを観てくれたそうで、その子がシーズン1にある「ごはんを大盛にしますか?小盛にしますか?」っていうセリフにハマって、家で繰り返し言っていたという話を聞いたんです。それは素直にうれしいし、同時にドラマを作るということは、観てくれている子どもたちの価値観の形成に確実に影響があると思ったんです。

「ドラマ」が視点を広げるきっかけになるために

――確かにドラマによって刷り込まれたことはあったんだなと、今になって意識することが多いです。

私が子どものときであれば、セックスや不倫なんかについても描かれている作品は多かったし、こういうことがキュンとくるんでしょっていうことも、知らず知らずにドラマから刷り込まれていたと思うんです。例えば、ちょっと強引なのが素敵と思ったりするのも、ドラマによる刷り込みの影響があったと思います。それを面白く観ていた自分もいたけれど、今、自分がやっているドラマも、そうやって価値観を形成するひとつになるんだと思ったんです。だからこそ、「つくたべ」では、野本さんと春日さんは、お互いを思いあっているからこそ、性的同意をひとつひとつ取る人たちなんだよって示さないといけないなと思いました

――それと同時に、時代時代によって、性をどう描くかということも変化していきますよね。

私の場合は大学院で学んでいたころからさまざまな恋愛の形があるということは身近に感じられることだったんですけど、自分が中学生の頃は同性愛については、まだ「隠すこと」とされてしまっていた部分があって身近に語られていなかったと思うんです。でも、最近、セクシャリティに関して中学校で講演をしている方と話す機会があったんですが、今の中高生に向けた講演では、「この中に同性に恋愛感情を持っている人はいるでしょうけど」という前提で話しているそうなんですね。それは自分のときとは変わっているなと思いました。そういう視点を知れたのはありがたかったし、常に意識していかないといけないなと思いました。

ドラマ「作りたい女と食べたい女」

https://www.nhk.jp/p/tsukutabe/ts/5NX1QRN3VM/


【原作】 ゆざきさかおみ

【脚本】 山田由梨

【音楽】 伊藤ゴロー

【出演】 比嘉愛未/西野恵未、藤吉夏鈴/森田望智、ともさかりえ ほか

【制作統括】 坂部康二(NHKエンタープライズ) 大塚安希(MMJ) 勝田夏子(NHK)

【制作】 NHKエンタープライズ

【制作・著作】 NHK、MMJ


【あらすじ】料理が大好きだが、ひとり暮らしで少食のため、もっとたくさん作りたいと日頃から感じていた野本さん(比嘉愛未)。同じマンションに住む、豪快な食べっぷりの女性・春日さん(西野恵未)との交流が始まり、2人で料理を作って食べることで関係を深めていく。いつしか野本さんは、自身がレズビアンで春日さんへの思いが“恋”だと気づき・・・。新たな友人たちとの関係や、2人の恋の行方を描くシーズン2。


NHKプラス「作りたい女と食べたい女」プレイリスト:https://plus.nhk.jp/watch/pl/2e6b8a5a...

NHK夜ドラ公式Instagram:https://www.instagram.com/nhk_yorudora/

NHKドラマ公式X:https://twitter.com/nhk_dramas

《西森路代》

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西森路代

西森路代

ライター。アジアのエンターテイメントについてのコラムや、映画やドラマに関するインタビューなどを中心に執筆。近著に『韓国映画・ドラマ――わたしたちのおしゃべりの記録2014~2020』(共著・駒草出版)、『韓国ノワール その激情と成熟』(Pヴァイン)がある。