HBOドキュメンタリー『プロジェクト・グリーンライト』から、若手女性監督の成長物語と共に映画制作の裏側を学ぶ

U-NEXTで見放題で独占配信中の『プロジェクト・グリーンライト / 新世代の映画クリエイターたち』。若き監督の成長に密着するシリーズだが、同時に映画制作におけるコミュニケーションや過程を学ぶことができる。

映像コンテンツ 制作
プロジェクト・グリーンライト / 新世代の映画クリエイターたち
©2023 WarnerMedia Direct, LLC. All Rights Reserved. HBO Max™ is used under license. U-NEXTにて見放題で独占配信 プロジェクト・グリーンライト / 新世代の映画クリエイターたち
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©2023 WarnerMedia Direct, LLC. All Rights Reserved. HBO Max™ is used under license. U-NEXTにて見放題で独占配信

1月26日より、U-NEXTにて『プロジェクト・グリーンライト / 新世代の映画クリエイターたち』の配信が開始された。2001年から計4回に渡り放送されてきた同プロジェクトだが、今まで男性監督ばかり採用されてきたこともあり、今回は女性に限った若手監督の発掘を軸にした企画が展開される。

HBO(および親会社のワーナー・ブラザース・ディスカバリー)が同企画を主導し、パートナーとしてメディア制作会社のHoorae、そして低予算映画制作を得意とするCatch Light Studiosが参加。指導役としては、Hooraeの創設者でCEOのイッサ・レイ、俳優や監督として活躍するクメイル・ナンジアニ、そして『ウーマン・キング 無敵の女戦士たち』『オールド・ガード』を手掛けた監督のジーナ・プリンス=バイスウッドが登場する。

今回の企画で作られる映画は“SFホラー”という壮大なテーマがベースにあるが、予算も限られているため、脚本は監督自身で大幅に手直しをして、作品をより自分のものにしていく必要があった。

Project Greenlight: A New Generation | Official Trailer | Max

沢山の応募の中から、HBO、Hoorae、Catch Light Studiosの担当者、指導役たち、さらに敏腕プロデューサーが意見を出し合い10人を決定。次なる選考では、3週間で与えられた脚本から映画を作り、そして完成した映画と共に、候補の監督たちが選考者全員の前で面接をすることになる。

同じ題材から映画を作るということが大きな評価基準となり、自信家な人、独創的な世界観を持つ人、過去のトラウマや経験から作品への思い入れが強い人、映画作りの才能を発揮している人など、それぞれの個性が明確に表れる。選考する映画のプロたちの中でも意見が割れたが、最終的に選ばれたのは、映画作りの才能が光っていたミコ・ウィンブッシュだった。

その後は、選考にも使われた脚本を基にブラッシュアップをして映画『Gray Matter(原題)』を完成させていくというのが大まかな流れだ。選考にも携わったプロたちがミコのサポートに入っていくが、順序立てて仕事をしていくことが少し苦手なミコと、映画を成功させたいという思いから絶えず意見を出してくるプロたちの間に亀裂が入ってしまうこともしばしば。新人監督のリアリティショーと言える『プロジェクト・グリーンライト』では、視聴者はそんなサポートメンバーたちとのいざこざや、ミコ自身のキャラクターに面白さを感じるだろう。

VarietyThe Hollywood Reporterのレビューでは、『プロジェクト・グリーンライト』のドキュメンタリー的な側面において、プロデューサー側のミコを非難するような態度は自らが彼女を選んだという事実を避けていることにも見え、それが「ハリウッドのシステムを表している」などと書かれるなど、番組に対する様々な意見も飛び交っている。

しかし今回注目したいのは、この『プロジェクト・グリーンライト』が、映画制作の過程を覗き見ることができる最高の教材であるということだ。

ミコを通して学ぶ“映画制作に必要な心得”

先述の通り、本企画で資金を提供しているのはHBOだ。HBOを納得させる映画を作るために、HooraeとCatch Light Studiosは、全力で経験の浅いミコをサポートする必要がある。

Hooraeは、本企画では開発・制作面をサポートしていく。特にプリプロダクション(※1)に力を入れ、脚本の修正から作品の品質管理まで、映画としてのビジョンをミコと一緒に考える役割を果たしている。一方、Catch Light Studiosは、より制作側に重心を置き、各部門長決めや人員配置などの構成からサポートする。

プリプロダクションとして定められた期間は7週間。その間にスタッフを配置し、脚本の修正を終わらせなければならない。かつ、全体の予算は350万ドルで、時間もお金も経験もないまま、18日間で撮影を進めなければならない。

大きな問題となったのは脚本の修正とスタッフ選びだった。脚本については、ミコと脚本家の間だけでは話があまり前進しないため、外部のプロを呼んだ意見交換会が行われた。また、撮影時にも矛盾や分かりにくい点が生じた場合は、サポートメンバーたちが加えたほうがいいセリフなどをアドバイスし、それが組み込まれていくこともあった。考えが煮詰まってしまった場合の様々な対処法も、この番組から学ぶことができる。

スタッフの選定では、特にプロダクションデザイナー(※2)の選定が重要視された。監督であるミコと見据えるイメージや性格が合う人物を選ぶことが大切で、映画を左右する重要なポジションだからだ。Catch Light Studiosのサポートもあり、時間が限られた中でも無事にスタッフをそろえることができたが、今回の企画では常に回っている密着カメラが気になって参加できなくなってしまったスタッフや、時間がない中で撮影している映画制作側と『プロジェクト・グリーンライト』側のスタッフの雰囲気が険悪になってしまうこともあった。一連の流れは、撮影現場の雰囲気を作っていくのも監督の大きな役割なのだと再認識させられる場面だった。

ミコはまだ長編監督経験がなく、大規模なプロジェクトに参加するのは初めて。性格が内向的で口下手で頑固ということもあって、ビジョンや意思がはっきりしないまま、そして脚本の矛盾も残ったまま、周りの意見を素直に受け入れることなくプリプロダクションを終えることになってしまう。このミコの対応から、監督としては、スタッフを率いていくことはもちろん、映画への思い入れや明確なビジョンが必要となることが分かる。さらに、サポートメンバーからの指摘や意見に耳を傾け、自分のビジョンと異なれば受け入れられない点を説明する。そういった意思の強さが重要なのだと学ぶことができる。

また、キャスティングではHBO側との意見の相違も課題となった。出資してもらっている立場だからこそ、意見が違えば言いづらいこともある。そこでも、やはり「なぜその人である必要があるのか」など、どの段階においても明確にビジョンを立てておく必要があるのだ。ミコの成長をカメラ越しに見守るだけでも、映画制作はクリエイティブな側面だけでなく、どれだけの人と労力とお金が必要となるかをリアルに感じ取ることができる。

実際に完成した作品。Gray Matter | Official Trailer | Max

※1 映画やドラマなどの撮影前に必要な準備作業の総称。脚本の完成、キャスト・スタッフの決定、ロケハンなどを指す。(引用「現代カタカナ語辞典」)

※2 端的に言えば映画のオープニングタイトルからエンドマークまでの総合美術監督。工程管理、品質管理、予算管理、進行管理などクリエイターの要素以外のプロデューサー的部分の比重が多く、欧米では監督の次に重要職と言われている。(引用「日本映画・テレビ 美術監督協会」ホームページ)
《伊藤万弥乃》

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伊藤万弥乃

伊藤万弥乃

海外映画とドラマに憧れ、英語・韓国語・スペイン語の勉強中。大学時代は映画批評について学ぶ。映画宣伝会社での勤務や映画祭運営を経験し、現在はライターとして活動。シットコムや韓ドラ、ラブコメ好き。

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