「推しの子」はKADOKAWAの業績を押し上げる起爆剤になるか?【決算から映像業界を読み解く】#21

KADOKAWAの業績が上向いてきた。中国が映像事業への増収に貢献、アニメは「推しの子」のメディアミックスに期待がかかる。

ビジネス 決算
「推しの子」はKADOKAWAの業績を押し上げる起爆剤になるか?【決算から映像業界を読み解く】#21
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KADOKAWAの業績が上向いてきた。

2023年3月期の売上高は前期比15.5%増の2,554億円。営業利益は同10.2%増の259億円となった。営業利益率は10.2%と高水準をマーク。夏野剛氏が社長に就任する前の2021年3月期と比較して、営業利益率は3.7ポイント上昇している。そのころと比較して売上高は21.7%増加した。

KADOKAWAと言えば、子会社フロム・ソフトウェアが開発した『ELDEN RING』の大ヒットが取り沙汰されている。しかし、メディアミックス効果による映像事業の好調ぶりも見逃せない

ELDEN RINGはメディアミックスの成功が約束されている?

2024年3月期の売上高は前期比1.7%減の2,511億円、営業利益は同31.4%減の178億円の減収減益を予想している。

決算短信より

今期の業績が弱含む主要因が、ゲーム事業の落ち込みだ。『ELDEN RING』のヒットにより、ゲーム事業は2022年3月期の売上高194億9,000万円から、2023年3月期は1.6倍となる303億5,100万円に跳ね上がった。

しかし、反動減の影響で2024年3月期の売上高は29.5%減の214億円を予想。この現象は、『ウマ娘 プリティーダービー』のメガヒットで大幅な増収増益を成し遂げた後、業績に急ブレーキがかかったサイバーエージェントとよく似ている。業績が安定しないのは、ゲームへの依存度が高い会社の宿命とも言える。KADOKAWAは『ELDEN RING』のロングライフ化による収益の最大化を目指すとしており、メディアミックスを得意とするその手腕が問われる。

KADOKAWAは2014年5月にフロム・ソフトウェアを子会社化した。『ARMORED CORE』や『DARK SOULS』、『天誅』などのシリーズを抱える会社で、どちらかというとコアなゲームファン向けのシリーズを開発する会社だった。

『ELDEN RING』は制作にジョージ・R・R・マーティン氏が参加している。マーティン氏はアメリカのファンタジー作家で、HBOの人気ドラマシリーズ「ゲーム・オブ・スローンズ」の製作総指揮や脚本を手掛けた。

『ELDEN RING』は難易度が高く、ゲームとしての面白さは決して大衆受けするものとは言えない。ヒットの裏側には緻密に作り込まれた世界観がある。フロム・ソフトウェアは本作の成功体験により、ヒットの再現性を高めることができるかもしれない。

また、強力な世界観を持っていることから、『ELDEN RING』は映像化や書籍化、マンガ化に対する柔軟性を持っている可能性が高く、KADOKAWAにとってIPの最大化を図りやすい作品となるだろう。

底知れぬ実力を持ったシリーズが誕生した。

夏野氏が進めた中国戦略が奏功か

2023年3月期の増収には映像事業の寄与も大きい。

2023年3月期の売上高は前期比30.7%増の432億8,900万円だった。映像事業の売上高は2022年3月期と比較して100億円以上増加している。2024年3月期の売上高は横這いを予想しており、堅調に推移していると言える。

決算説明資料より

映像事業への増収に貢献したのが中国。KADOKAWAは2021年10月にテンセントの子会社Sixjoy Hong Kongと資本業務提携契約を締結した。その目的はアニメ分野の取り組みを強化するというものだ。

中国はアニメなどの映像作品に対する規制が強く、中国と海外の放映比率は6:4を下回ってはならないと決められている。そのため、規制が強化された2018年を境に日本のアニメ配信作品数が急減したという経緯がある。

中国におけるアニメ制作は、現地企業とタッグを組んで共同制作を行い、ライセンスによる収益を得なければならない。KADOKAWAはいち早くその体制に取り組んだ会社の一つだ。

決算説明では増収要因に「中国規制強化からの新作本数の反動増」を挙げている。テンセントと共同歩調をとったことの成果が出た。


《不破聡》

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