「作品が幸せになれることはなんでもしたい」日本映画界のこれから【小出PインタビューVol.3】

日韓の映画界をつなぐ架け橋を務めてきた制作会社ROBOTのプロデューサー・小出真佐樹氏。ロングインタビュー第三弾は日本映画界が進むべき道とは?について、小出氏の意見を聞く。

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「作品が幸せになれることはなんでもしたい」日本映画界のこれから【小出PインタビューVol.3】
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『22年目の告白 -私が殺人犯です-』『見えない目撃者』『最後まで行く』等、日韓の映画界をつなぐ架け橋を務めてきた制作会社ROBOTのプロデューサー・小出真佐樹氏。

次々にグローバルヒットを生み出し、Netflixが今後4年間で25億ドル(約3,300億円)を投じると発表するなど、映像エンタメの中心地といえる韓国。しかし小出氏によれば、それはあくまで一元的な見方だという。そこでBrancでは、小出氏にロングインタビューを実施。

「『最後まで行く』が出来上がるまで」「韓国映画界に訪れた危機」「日本映画界の課題と希望」の全3回にわたって、じっくりと語っていただいた。第3回は、日本映画界が進むべき道とは?について、小出氏の意見を聞く。

≫≫第1回、第2回はこちらから!




最終目的地を明確にすることが重要

――「韓国に追い付きたい」という風潮が日本の映画業界で高まっているなかで、小出さんのお話を伺うと一つの終焉も見えているように感じます。となると我々は、今後どう進んでいけばいいとお考えですか?

僕も韓国が好きだからこういう仕事をやっていますが、何が目標かは人によって違いますよね。結局、それ次第だと思います。「日本のものをグローバルヒットさせたい」というならもう『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』といった作品がやってくれているわけです。アニメがダメで実写でやらなければならないという理屈はどこにもない。日本のアニメーションは完全に世界を制しているし、みんなが「日本のアニメはすごい」と思っている。韓国も中国もアメリカも日本のマンガ・アニメ・小説のIP(知的所有権)を取りにきているわけですから。ゲームもそうですよね。グローバルヒットしたタイトルは数多くありますよね。

実写でグローバルヒットを出すという目標があるとするなら、「テラスハウス」のようなリアリティプログラムじゃダメなのか?とか「今際の国のアリス」のような作品ということなのか?など、最終目的地がどこなのかによりますよね

――自身の強みをきちんと理解する、ということなのかもしれませんね。

人間の内面を丁寧に描くことについては日本は長けているでしょうし、3時間てんこ盛りのアクション映画を作るならインドが得意でしょうし。

日本映画界も新しい時代に突入している

――Netflix等によって、韓国のリッチな作品を簡単に観られるようになりましたよね。となると、同じ感覚で国内の作品を観たときに画が貧しく見えちゃうというのはあるかと思います。

そこはクオリティというよりも予算じゃないですかね……。実写において、言葉は悪いですが貧相に見えてしまうのが問題だと視聴者が思っても、製作委員会や幹事会社がどれだけその点を気にするかが重要で、ひとつの商品として日本に生み出されることがまずは大前提なので、他国の予算の桁も違う映画の密度と比べる意味もないように思います。

日本映画に携わってきた人たちは「いかに予算内でクリエイティブを高めるか」という意識が良い意味で染みついてしまっているという気がします。仮に予算が上がったときに果たしてそれを有効活用できるかと言われると、困りはしますね。予算内に収める創意工夫しかしてこなかったわけですから。

こういう業界の中だからこそ、スターサンズの河村光庸さんのようなご自身でどんどん業界全体を相手に様々な仕掛けをされた方は尊敬しました。ご一緒する機会はありませんでしたが。昨年あたりからBABEL LABELさんの様々な取り組みや発信、協業もかなり面白いですよね。新しい時代に突入したような印象を受けます

『佐々木、イン、マイマイン』の内山拓也監督や『Winny』の松本優作監督や『茶飲友達』の外山文治監督が口コミでヒットしている姿を見ていると、一足飛びに業界のセンターになっていくんじゃないかと感じます。『グッドバイ、バッドマガジンズ』の横山翔一監督や、『階段の先には踊り場がある』の木村聡志監督、『ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー』の阪本裕吾監督などプロデューサーとして興味のある監督の作品も、続々とミニシアターのレイトショーで観ることのできる時代ですしね。

――皆さん作家性をしっかり持って観客の支持を得ているというのは素晴らしいですね。

ただ、改善したほうがよいような部分はかなりあるようには思います。この前SYOさんたちとご飯に行ったときに、「業界が隠しすぎた」と仰っていたじゃないですか。

業界内での情報共有がもっと必要?

――そうですね。技術にしろ通例にしろ、ブラックボックス化しすぎてオープン・シェアとは程遠いなと思います。排他的というか。

プロダクション間の関係では僕もそう思います。「こういう作品を作ろうとしている」とか「こういうクリエイターがいる」という情報共有をもっとした方がいいかなと。契約上の問題もあることが大きいですが、みんなでシェアするところはちゃんとやって、それで質を向上していけばいいのに。

韓国は、本当はダメなんですが秘密がないんですよ。各投資会社の現状や、著名監督の次の企画や、俳優のスケジュールは大体みな知っているし、それでスムーズにいく部分も多分にあるので自由な情報共有がもっと行われるといいなとは思います。

――例えば「初週3日間の数字いかんによって翌週からの上映回数が減らされちゃうかも」ということだって、もっと発信していいと思うんです。ただ「観に来て」じゃなく、「ここで来てもらえたら作品にとって大きな延命措置になる」というのは、お客さんを信頼して伝えていいのになって。

そうなんですよね。Twitterだって毎日見る人と時々見る人がいるわけですから、何回も言わないと届き切らないと思います。

僕がいつももったいないなと思うのは、初号試写(関係者が初めて完成版を観る試写会)や内覧試写(招待制のクローズドな試写会)を観に来てくれた関係者が変に気を遣って感想を発信してくれないこと。僕としては早くお客さんに「面白そうだな」「観たいな」と思ってほしいのに、みんな遠慮してしまってるんですよね。

――藤井さんも宣伝の大切さを常々語っていらっしゃいますが、現場と宣伝部がセパレートしてしまっているのも気になるところです。

宣伝部さんが「現場に行っていいんですか……お邪魔じゃないでしょうか」と聞いてくることも多いんですが、それって本来変ですよね。一緒に作っているチームなんですから。

――宣伝部が邪険に扱われる時代を経験した先輩方から、苦労を聞いているのかもしれませんね……。

僕自身、東映宣伝部時代に似たような経験はかなりしましたから(笑)そういうことは本当に無しにしていかないといけません。藤井さんがよく「人生で一度のことなので」と言うのですが、この作品で出会えたキャスト・スタッフは一期一会で、最初で最後じゃないですか。だったら恥ずかしがる必要なんてないし、当たり前のことをちゃんと伝えたほうがいい。失礼だと思ったらそう言うべきだし、そういうことができる場であってほしいですよね。

やっぱり、作品って自分の子どものような存在なんです。幸せな人生が送れるように、出来ることは何でもしていきたいです。

《SYO》

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SYO

物書き SYO

1987年福井県生。東京学芸大学卒業後、映画雑誌の編集プロダクション、映画WEBメディアでの勤務を経て、2020年に独立。映画・アニメ・ドラマを中心に、小説・漫画・音楽・ゲームなどエンタメ系全般のインタビュー、レビュー、コラム等を各メディアにて執筆。並行して個人の創作活動も行う。

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