俳優ベースの企画から新たな映画文化を作る──芸能事務所の「レプロ」が企画コンペを立ち上げたワケ

芸能プロダクションのレプロが初の映画コンペティション企画「感動シネマアワード」を始動し、6つの企画がグランプリに選ばれた。グランプリ企画の『世界は僕らに気づかない』の公開を記念して、本アワードの企画・プロデュースを手がける菊地陽介氏に話を訊いた。

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俳優ベースの企画から新たな映画文化を作る──芸能事務所の「レプロ」が企画コンペを立ち上げたワケ
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芸能プロダクションのレプロエンタテインメント(以下、レプロ)が2019年に初の映画コンペティション企画「感動シネマアワード」を始動。レプロ所属の6名の俳優が主演する6つの企画がグランプリに選ばれ、できあがった作品は順次劇場公開されている。

「感動シネマアワード」は、『多種多様な“感動”を肯定し、観客の“心を揺さぶる”企画』を全国から募集し、レプロエンタテインメント出資のもと製作する、映画コンペティション企画だ。先んじて宮沢氷魚、福地桃子、堀家一希らレプロ所属の注目俳優6名がそれぞれの主演として決まっており、俳優に寄り添った企画が選ばれ、進行していくユニークな映画製作プロジェクトとなっている。

なぜ、芸能プロダクションであるレプロが「感動シネマアワード」を立ち上げたのか?企画立ち上げの経緯や、1月13日(金)に公開される『世界は僕らに気づかない』について、本アワードの企画・プロデュースを手がける菊地陽介氏に話を訊いた。


主演俳優の魅力と監督のクリエイティブを最大限に発揮できる企画に

──菊地さんが映画製作プロジェクトの「感動シネマアワード」を立ち上げた経緯を教えてください。

大きな時代の流れとして、所属アーティストのマネジメント事業をベースとしながらそれと親和性の高い事業を拡張していくのが現在の芸能事務所として必要なことだと思います。(コロナはそれをさらに促進させました)

レプロではこれまで「浅草九劇」という、演劇を含む様々なエンタテインメントを発表できる小劇場をゼロから作り、運営をしてきたのですが、次のステップとして映像コンテンツの製作に至るのは自然な流れでした。私は元々映画ばかり見ていたということもあり、そういった会社の大きな方針の中でどんな企画ができるかを考え、「感動シネマアワード」を立ち上げました。

──「感動シネマアワード」の企画のポイントを教えてください。

企画のポイントは大きく2つです。1つ目は、主演する俳優にとって意味のある作品にすることです。俳優はまず作品があり、そこにキャスティングされるのが通常の流れです。ですので、その俳優を最も魅力的に輝かせる作品・役に出会うことは本当に貴重な機会で、特にオファーで仕事をたくさんいただける状態でない限りそのチャンスはなかなか掴めません。だからこそ、感動シネマアワードでは、その俳優が演じたい/その俳優に演じてもらいたいキャラクターを演じられるような企画にしました。

福地桃子主演『あの娘は知らない』

2つ目はオリジナル脚本で撮ることです。日本の映画業界には優れた物語を生み出せる監督が数多くいますが、オリジナル脚本で映画を撮ることは難しく、その物語が埋もれてしまうのが現状です。大資本での制作ではないからこそ、監督のクリエイティブを最大限発揮できるような環境の企画にしました。

選考の際には、該当の俳優が演じることがベストな作品なのか、というのは当然のポイントですが、「この俳優に演じてもらいたい」という熱量が企画・脚本に残っているか、そして企画者が本当にこの作品を撮りたいと思っているかどうかも重要視しました。

──本プロジェクトで、芸能プロダクションである「レプロ」だからこそできたことがあれば教えてください。

やはり一番大きいのは企画の最初の段階で主演俳優が決まっている点です。企画応募の段階である俳優にフォーカスして物語を組み上げてもらっているため、通常のフローで生み出される作品よりも俳優に寄り添った企画で撮影ができました。社内に担当マネージャーがいることで、作品に関する相談をリアルタイムでできたことも大きかったです。

また、30年近く芸能事務所として実績があるからこそ、様々なご協力をいただくことができました。プロデューサーとしてはビギナーであっても、色々な方にお話を聞くことができたり、現場のフォローをしていただいたり、そういった有形無形の協力は私個人の力ではまったくなく、会社が積み重ねてきた信頼だと感じています。

──レプロ初の本格的な映画製作ということで、製作過程での苦労はございましたか。また、プロデュース・制作のノウハウをどのように構築したかを教えてください。

私自身もわからないことばかりでしたし、会社としてのノウハウが蓄積されていたわけではありませんので、とにかく色々な方に質問をしました。予算の考え方、キャスティング、脚本の作り方、各ポジションの役割など、全ての製作過程で悩みながら前に進めていきました。もちろんマネージャーとして作品に関わる中で見えていたこともあり、それが活きる場面も多々ありましたが、プロデューサーとして見えてくる景色は違うもので、日々苦労していますし、今もしています。

プロデューサーというポジションは、技術職ではないので、名乗ろうと思えばいつでも名乗れますし、作品によって求められる業務も異なります。ですので、1つの体験を大事にしてノウハウを蓄積することも重要ですが、今まで直面したことない問題にどう柔軟に対応できるかを考えています。

10年前の脚本を現代にアップデートした『世界は僕らに気づかない』

──選ばれた6作品の中から、『世界は僕らに気づかない』が1月13日(金)に公開されます。本作は「感動シネマアワード」セレクト時点でのあらすじをみると、ストーリーの軸に大きな変更があったような印象を受けました。作品ができるまでにどのような過程があったのか教えてください。

本作の脚本は飯塚監督が10年近く前に執筆したものがベースになっています。元々の脚本はよりゲイの高校生に主題が寄った脚本だったのですが、飯塚監督としては2021年に撮影する作品ではないように感じており、それは私も同意しました。この10年で日本国内でも様々なセクシュアルマイノリティを主題にした映画(主にゲイ、レズビアン)が生まれましたが、世界の映画を見渡すと、「自分たちが生きるこの社会には多種多様なセクシュアルマイノリティが生きていること」を前提にして何を描くか?という視点にシフトしています。飯塚監督は常に世界の映画市場を意識している方でもあるので、「ゲイであること」自体が主題となるような作品ではなく、それを前提にして日本における在日フィリピン人の問題にフォーカスした現状の脚本になりました。

──本作は海外での映画祭でも高い評価を受けています。海外からの反応で印象的だったことはありますか。

良い意味で日本映画として受け止められなかったようで、純悟もレイナも日本の文化的な類型のキャラクターではないことが大きいのかなと想像します。二人とも自分の感情をストレートに相手にぶつけ、日本人的な観点からすると非常に荒々しいコミュニケーションをしています。また、親と子供で国籍・文化が異なる、というのは海外では一般的なことです。

本作は日本文化・社会・日本特有の課題を描いた日本映画としてではなく、世界に遍在する普遍的な主題を描いた作品として受け止められたようなリアクションが多かったです。そしてそれは、映画を制作する際に監督と目指していたことでもあるのでとても嬉しかったです。

──本作は全編群馬で撮影されています。作品制作の舞台に群馬を選んだ理由を教えてください。

飯塚花笑監督の出身地であり、群馬県における在日外国人の問題、県としてのセクシュアルマイノリティへのスタンスを脚本に落とし込んでおりますので、群馬県での撮影が必然の流れでした。

また、日本の映画撮影は圧倒的に東京に偏っています。ロケ撮影自体は日本各地でおこなわれていますが、制作の主体となるのは基本的に東京です。東京以外に住んでいるだけで、キャスト、スタッフ、プロダクションにとっては機会損失が起きている状況と言い換えても良いと思います。これは大きな問題で、どうすれば非東京圏で継続的に映画制作を続けられるかは今後の課題だと感じています。本作は多くのキャスト、スタッフが群馬県在住の方々で、ロケ地も全て群馬県で、制作の母体も群馬県にあったという意味で、どうすればオルタナティブな映画制作をできるかを模索した作品とも言えます。

──菊地さんからみた飯塚監督の印象を教えてください。

飯塚監督は現実に存在するマイノリティへの非常に優しい視点を持っている監督です。その優しさは容易に獲得できるものではないと思います。ご自身がトランスジェンダーとして差別や偏見に晒されてきた経験があるからこそ、自分とは属性の異なるマイノリティに対して歩み寄り、話を聞こうとするスタンスは映画作家としても人間としても尊敬できる部分です。

そんな飯塚監督は世界の中で無かったことにされてしまう人々や、彼ら彼女らの「愛」を見つめて、丁寧にすくい取って物語に落とし込んでいます。ここで重要なのは、ただただ現実を反映させるだけでなく、しっかりとフィクションにして救済を提示している点です。当事者の表象を意識しながら、フィクションでつくることの意義を失わない、そここそが本作の重要なポイントだと思います。

──これから作品を観る人に向けて注目ポイントを教えてください。

日本と世界、という単純な二分法では今の複雑な社会は捉えきれません。様々な国籍、人種が混じり合い、共生していくことが今まで以上に当たり前になるはずです。近年「移民」を主題にした作品が国内外で同時多発的に生まれていることを考えると、日本で暮らす外国人・海外にルーツを持って日本で暮らす人々への想像力をいかに持つかが、日本で生きる私たちのこれからの課題だと思います。

純悟とレイナは親子でありながら、育ってきた文化の違いからお互いに怒りを溜めていきます。世界で最も愛している母親/息子が、それぞれにとって大事なことを相手が気づいてくれない、大切なものと感じてくれないことがどれだけ辛いことか。そして、日本の社会・システムがいかに彼ら彼女らにとって「生き辛く」設計されているか。そんな点にも注目してご覧いただけると嬉しいです。

──「感動シネマアワード」は第2回以降の実施も予定していますか。今後の展望があれば教えてください。

第2回も予定はしております。今回様々な形で作品を制作してみて、こうした試みを芸能事務所がすることの意義を感じたので、継続的に実施していきたいです。

≪プロフィール≫

菊地陽介/レプロエンタテインメント

1989年生まれ。東京大学を卒業後、株式会社レプロエンタテインメントに入社。

マネージメントを経験後、劇場・カフェ・ホテルの複合施設「浅草九倶楽部」の立ち上げを担当。映画を語るWeb番組「活弁シネマ倶楽部」のプロデュースを通じて映画に関わり始め、社内で初となる映画製作・配給事業「感動シネマアワード」を企画し、6作品をプロデュース。映像作品の企画、制作、配給などを手掛ける。

≪『世界は僕らに気づかない』あらすじ≫

群馬県太田市に住む高校生の純悟は、フィリピンパブに勤めるフィリピン人の母親を持つ。父親のことは母親から 何も聞かされておらず、ただ毎月振り込まれる養育費だけが父親との繋がりである。純悟には恋人の優助がいる が、優助からパートナーシップを結ぶことを望まれても、自分の生い立ちが引け目となり、なかなか決断に踏み込 めずにいた。そんなある日、母親のレイナが再婚したいと、恋人を家に連れて来る。見知らぬ男と一緒に暮らすこ とを嫌がった純悟は、実の父親を探すことにするのだが...。

公式サイト:https://sekaboku.lespros.co.jp/

《marinda》

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