新潟で「長編アニメーション」に特化した映画祭が誕生!アニメ産業の未来を照らす本映画祭の目論見は?プログラム・ディレクター数土氏に訊いた

2023年3月17日(金)から6日間に渡り、新潟ではじめてアニメーションに特化した新たな映画祭、『新潟国際アニメーション映画祭』が始まる。長編アニメーション作品に焦点を当て、コンペティションやセミナーをはじめとした数々の催しを行う本映画祭が目指すものとは?

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新潟で「長編アニメーション」に特化した映画祭が誕生!アニメ産業の未来を照らす本映画祭の目論見は?プログラム・ディレクター数土氏に訊いた
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2023年3月17日(金)から6日間に渡り、新潟でアニメーションに特化した新たな映画祭、『新潟国際アニメーション映画祭』が始まることとなった。

長編アニメーション作品に焦点を当て、コンペティションやセミナーをはじめとした数々の催しを行う本映画祭。現在ますます注目を集めるアニメーション産業をさらに活発なものにする起爆剤になることは間違いないだろう。

第一回の開催に向け、コンペティション参加作品の募集も行なっている今現在、Brancではプログラム・ディレクターをつとめる数土直志氏へのインタビューを決行した。果たして『新潟国際アニメーション映画祭』開催の経緯はどんなものだったのか。そして、本映画祭が目指すものはなんなのか。話は映画祭の話を飛び出し、アニメ産業の未来の在り方にまで至っている。


新潟という土地に感じたアニメーション発信の可能性

――2023年3月に『新潟国際アニメーション映画祭』の第一回が開催されることとなりました。まずは数土さんが本映画祭に参加されることとなった経緯を教えてください。

映画祭自体は、実行委員長である堀越謙三さんと、ジェネラルプロデューサーである真木太郎さんによる企画で、私が参加させていただいたのはお二人からお誘いを受けてという形です。堀越さんは2021年から新潟にある開志専門職大学でアニメ・マンガ学部の教授を務めているんですね。そこで仕事をしていく中で、アニメーション文化の発展に新潟という土地がすごく適していることを感じた。そこから映画祭を開催したいと考えるようになったと聞いています。

――新潟という土地に、アニメ文化発信へのポテンシャルを感じたと。

新潟出身のアニメーションスタッフさんは実に多いですからね。そういった才能を持った方を育む土壌が新潟にある、それを感じたんだと思います。同時に、そういった作家の多くが新潟を拠点にしていないことに対しての危機感もあった、だからこそ新潟でアニメーションの映画祭を開催する必要性を感じたんでしょうね。

――土地のポテンシャルを感じると同時に、映画祭開催地としての利便性も要因として大きかったのではないでしょうか?

映画祭は都心部で開催すると他のイベントの中に埋もれてしまう。かといって都心部から距離が離れすぎてしまうと来場者にとっての利便性がさがってしまう。その点、新潟は東京から片道二時間半、映画祭を通して滞在するにはちょうどいい位置関係なんですよね。それは要素としては大きいファクターでした。

――同時に新潟空港が、アジア圏のハブ空港として使われていることもポイントだったのではないでしょうか?

国外からの来場者にとっては非常にアクセスがいい土地ですからね。これは偶然なんですが、時期的にも開催直前にあたる3月10日から14日にかけては『東京アニメアワードフェスティバル2023』が、直後の3月25日から28日にかけては『アニメジャパン』が開催される。この期間で、本イベントを含めて日本のアニメ産業全体に触れていただけるといい、そう考えています。

全ての長編アニメーションを同じ評価軸で語る時代がきている

――『新潟国際アニメーション映画祭』が既存の映画祭とは異なる点、他の映画祭にはない魅力を教えてもらいたいです。

二つ挙げておきたいものがあります。一つはコンペティション応募作品を長編アニメーション映画に絞っているといること。これは一定以上の時間の中に現れる物語性に着目し、その中にある美術や脚本、撮影を総合的に評価することを狙いとしています。実写映画の領域では『カンヌ国際映画祭』をはじめとした多くの映画祭がこの方法をとってきました。これをアニメーション映画の分野でも実践してもいいのではないか、そう考えています。

――なるほど、そしてもう一つはどういった部分なのでしょうか?

長編アニメーション映画であれば分け隔てなく扱い、多様性をみせたいというのがもう一つの特徴です。アニメーション映画はこれまで、個人作家によるアーティスティックな作品と、スタジオワークスのようなビッグバジェット作品をわけて評価する風習がありました。しかし、本映画祭ではこの境目は取っ払っている、同じ目線で両作品を評価することに挑戦しています。

――これまでの風習を取り払おうと考えた理由をお聞かせください。

この二つの間の境目が曖昧になってきている、というのが最大の理由です。個人作家による作品が商業的な成功を収めるケースも出てきていますし、逆にスタジオワークスで作られた作品の中にもアーティスティックな面が色濃くなってきているのを感じていますからね。

――そういった変化が起こっている理由はなんだと考えていますか?

デジタルの進歩が大きいと思います。個人作家によって制作された作品は、工数の都合から長編を作ることが難しいとされてきた。しかし技術の進歩で今や個人作家でも長編映画を制作することはできる、新海誠さんなんかがいい例ですよね。世界でも長編アニメーション作品が増えてきていて、これまで短編アニメーション重視だったアニメーション映画祭から一歩踏み込んだ新しいやり方ができるフェーズなのではないかと感じています。

“数字”だけではない、アニメーション映画の新しい評価軸を

――現在、コンペティション参加作品募集の真っ只中だと思います。こういった作品の応募に期待をしている、ということはあるのでしょうか?

もちろん伝統的な、日本やヨーロッパで作られた作品にも期待していますし、アジアやラテンアメリカ、新興国からの応募もあると嬉しいですね。また、配給先を探しているインディーズのアニメーション作品にも是非とも応募してもらえたらと思っています。

――同時に、日本で広く公開される作品の応募への期待もあるかと思います。

そのために、現在各社さんにお声がけはしている状況です。しかしながら、日本の大規模上映作品は公開ギリギリまで編集作業を行っている場合が多い。なかなかコンペティションへの参加は難しいのが現状なんですよ。ただ、映画祭として扱うことに意義はあると思っているので、特集を設けるなどしてカバーしていきたいと考えています。

――コンペティションに参加している作品に対して、脚本賞や美術賞をはじめとした多様な賞が用意されています。こちらの狙いを教えてください。

作品に対して多角的な評価を目指したいと考えているからです。それが結果的に、作品の多様性を生むと考えていますからね。ただ、僕自身は選考委員として参加しないので、評価は選考委員会の人たちにお任せする形ではありますが。

――これまでにないコンペティション参加のレギュレーションや、評価軸を持っている本映画祭ですが、アニメーション業界で働く方からの声を耳にすることはありますか?

すごくいい反応をいただいています。アニメ業界の望んでいたものに対してコミットできたんだと実感していますね。アニメーション作品は現在盛んに作られ、視聴者からの人気も高い。その一方で、こういったコンペティションの現場はあまりなかった。その結果、評価軸が興行収入やDVDの売り上げといった“数字”に偏ってしまう、そこに疑問を感じる人は多かったらしいんです。コンペティションによる新しい評価軸ができたことに対する喜びは大きいと聞いていますね。

――作品への評価と同時に、映画祭自体がそこで働く人たちの交流の場として機能する部分もあるかと思います。

それは大いに期待されているところだと私たちも感じています。現在、セミナープログラムの用意も進めていますので、そちらが交流の場としても機能してほしいですね。あとは、映画祭の期間に新潟に滞在いただくことで新たな交流も生まれてほしい。上映会場やセミナー会場の立地が近く移動しやすいので、そういった流れは生み出せるのではないかと考えています。

地方で働く’場所’の創出がアニメ業界の未来を照らす

――現在盛り上がりを見せているアニメーション産業、業界全体の課題も見えてきているかと思います。真っ先に解決するべき課題として感じていることを教えてください。

課題は山のようにあるんですが、人手不足がやはり大きいですね。アニメ業界を志望する人の数は以前より少ない。若い人の数も減っていますし、絵を描ける人が就ける仕事の選択肢も増えていますからね。特にアニメーションの世界は絵が描けてそこに動きをつける必要がある、志望する人の割合が減っているのも感じます。

――この人材不足解決のため、必要となってくる取り組みについての意見をお聞かせください。

まず大切になってくるのは、海外との連携だと考えています。通信技術が発達した現代、国外のクリエイターが国外にいながら日本のアニメーション制作に参加することも可能になっている。今後は国内外のネットワークをいかに強化していくのか、そのスキーム作りは重要になってくると思います。

――なるほど。

これと同時に、国内における地方人材の確保も大きなポイントとなってくるでしょう。地方の大学でデザインを専攻した学生が、地方でデザイン系の働き口を見つけられないまま一般企業に就職する、これはよくあることなんです。そういった人たちが、地方にいながらアニメーション産業に参画できる’場所’の整備は重要となる。これは今まさに業界を上げて施策が行われている真っ只中ですね。

――地方にアニメスタジオが作られているという話は聞きますが、こういった背景によるものということでしょうか?

そのとおりです。地方自治体もこの活動にはすごく協力的で、助成金を出しているところも増えています。アニメーション制作には多くの人材が必要で、働く人には若い人も多い。自治体としても自分達の市区町村にアニメスタジオを作って、周辺に住んでもらうことで生まれるメリットは大きいんですよ。周辺施設の雇用も生まれますし、聖地巡礼を絡めた観光産業が生まれることもありますから。

――『新潟国際アニメーション映画祭』の開催により、新潟におけるアニメーション産業も盛り上がりを見せるという未来も訪れるかと思います。

結果的に今回の試みがその一助になればいいとは考えています。国内外のアニメーション映画が発信される土地として、新潟という場所が知られることで生まれる動きもあると考えていますから。

《取材:marinda 文:一野大悟》

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