第38回東京国際映画祭において、次世代の映画作家を育成し、国際的な活躍を支援するプロジェクト「Film Frontier(フィルム・フロンティア)」の海外渡航プログラム2期選抜者発表会が開催された。
同発表会には、選考委員を務めた石川慶監督と東京国際映画祭のプログラム・ディレクターの市山尚三氏、カンヌ国際映画祭代表補佐兼映画部門ディレクターのクリスチャン・ジュンヌ氏が登壇、2期発表者は現在開発中の作品の紹介と意気込みを語った。
Film Frontier(フィルム・フロンティア)とは
「Film Frontier」は、文化庁の「文化芸術活動基盤強化基金」を活用し、独立行政法人日本芸術文化振興会によって設置されたクリエイター育成事業だ。その主たる目的は、グローバルな視点とネットワークを持つ、世界で活躍できる映画人を育成することにある。

運営はユニジャパン(UNIJAPAN)が担い、以下の3つの柱で展開される。
海外渡航プログラム:企画開発段階からの国際展開支援(事務局:ユニジャパン)
滞在型企画開発:海外レジデンスでの脚本・企画開発(事務局:VIPO(映像産業振興機構))
長編アニメクリエイター支援:企画開発または完成からの国際展開支援(事務局:ユニジャパン)
選抜されたクリエイターには、制作・海外セールス・法務など各分野の専門アドバイザーが伴走。海外映画祭やマーケットへの派遣、英語によるピッチングトレーニング、製作費や活動費の支援など、実践的なサポートが提供される。18カ月という長期的な支援が特徴で、企画開発から映画祭出品までをサポート。企画開発費も支給され、クリエイターが企画の開発に専念できる体制を整える、充実した内容の支援プログラムだ。
1期生および関連プログラムの成果報告
発表会冒頭では、昨年度より活動を開始した1期生や、関連プログラム参加者の進捗が報告された。
「海外渡航プログラム」の太田信吾監督、長谷井宏紀監督と中西舞監督の企画は、すでに海外との共同製作パートナーが決定しているという。川和田恵真監督も企画に向けて、取材を進めている段階だ。

この日は、同プログラムに選ばれていた中西舞監督が登壇。中西監督はカンヌ、トロント、釜山などの映画祭マーケットやラボに積極的に参加した経緯を報告した。「海外のプロデューサーやセールス担当者との意見交換を通じ、課題は見えつつも企画実現への手応えを感じている」と語った。

「滞在型企画開発」では、4名の監督がそれぞれ、韓国、フランス、アメリカに渡航して、現地で開発を体験した。このプログラム参加者からは山下つぼみ監督が登壇。山下監督は7月からパリに3週間滞在し、スクリプトドクターと一緒に脚本のブラッシュアップに励んだという。「どうすれば国際的な視点で観客に届くかを対話の中で揉んでいった。他国からの支援も得られるような作品に育てたい」と意欲を見せた。
また、「長編アニメクリエイター支援」では『ホウセンカ』が同プログラムの支援をうけている。また企画開発中の『MINT』(仮題)、来年3月公開の『花緑青が明ける日に』が今後、海外マーケットへと挑んでいくことになるという。

登壇者トーク:若手作家の胎動が本格化
続いて、東京国際映画祭プログラミング・ディレクターであり本プログラムの統括アドバイザーを務める市山尚三氏、第2期選考委員の石川慶監督、そしてカンヌ国際映画祭代表補佐兼映画部門ディレクターのクリスチャン・ジュンヌ氏によるトークセッションが行われた。

市山氏は、近年の日本映画が世界的に評価されている一方で、作家性の強い芸術的な作品の国内資金調達が困難になっていると語る。「国内回収が見込めない中、海外との共同製作で資金を集め、道を拓くことは、これからの若手監督にとって必須条件になる」と述べ、映画祭やマーケットへ自ら出向き、パートナーを探す重要性を強調した。

石川監督は、自身のデビュー作『愚行録』に至るまでの約10年間を回想。ポーランド留学を経て、自らの企画を持って映画祭を回り続けた経験に触れ、「当時はFilm Frontierのような支援制度がなく、孤軍奮闘していたが、その時に築いた映画祭プログラマーや同世代の監督(早川千絵監督ら)との繋がりが、今の制作活動の大きな支えになっている」と語り、本プログラムの意義を当事者の視点から肯定した。

クリスチャン・ジュンヌ氏は、かつては是枝裕和、河瀬直美、黒沢清に続く日本の若手才能の発掘に苦労していたという。しかし、コロナ禍以降、日本の若手監督たちの意識に変化を感じており、「世界へ届けたいという熱意を持つ若手が増え、実際に作品が海を渡り成功を収めている。これは非常に心強い傾向だ」と評価し、会場のクリエイターたちにエールを送った。

「海外渡航プログラム」2期選抜者 5名の発表
厳正な審査を経て選出された2期の選抜者5名が発表された。監督だけでなく、今回はプロデューサーも選出されている。
金子由里奈(監督)
長編2作目を準備中。「資金集めが困難な中、企画開発から伴走してもらえる支援は非常に魅力的。この機会を無駄なく学び、映画制作に励みたい」と挨拶した。
たかはしそうた(監督)
12年前から構想していた、セルビアを舞台にした映画企画で選出。「実現できるか悩み続けていた企画を拾っていただき、大きな一歩を踏み出せた」と喜びを語った。
藤元明緒(監督)
現在、新作『ロストランド』が東京国際映画祭をはじめ世界の映画祭に出品中の藤元監督は、次回作としてタイとミャンマーの国境を舞台にした『サマーレッスン(仮)』を企画。「戦争に行った父の帰りを待ち続ける家族を描く」と構想を明かした。
吉原裕幸(プロデューサー)
本プログラムでは唯一のプロデューサー選出。在日コリアンをテーマにした企画を発表。「商業ベースでは成立が難しいテーマだが、世界に届けられる物語を作りたい」と決意を述べた。
草野なつか(監督) ※ビデオメッセージ
「顔」と「能面」をテーマにした作品を構想中。「リサーチが重要な作品であり、撮影前の準備期間に時間と資金をかけられることは大変ありがたい」とコメントを寄せた。
最後に市山氏は、「実現可能性が高く、かつ素晴らしい企画が揃った。ここから数年かけてファイナンスを成立させ、作品を完成させてほしい」と期待を寄せた。対して石川監督は「監督の視点から見ると、どれもハードルが高く、その分面白いアプローチの企画ばかり。映画祭で会えることを楽しみにしている」とエールをおくった。
日本映画が、新たな時代の1ページを開くその胎動が感じられる発表会となった。才能ある若い作家をサポートするFilm Frontierの今後の展開に期待が高まる。

Film Frontier 公式サイト:https://www.frontier.unijapan.org/









