【TIFFCOM記念インタビュー①】香港はアジアのアニメーションのハブとなるか?香港を代表するキャラクターとアヌシー選出のプロデューサーが語る、ローカルIPの未来と世界戦略

東京国際映画祭と併催されるコンテンツマーケット「TIFFCOM」でも登壇される、香港アニメーションの「伝統」と「未来」を象徴するサミュエル・チョイ氏とポリー・ヤン氏に、グローバル市場への挑戦、IP戦略、そして日本と香港の協業の可能性について話を聞いた。

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【TIFFCOM記念インタビュー①】香港はアジアのアニメーションのハブとなるか?香港を代表するキャラクターとアヌシー選出のプロデューサーが語る、ローカルIPの未来と世界戦略
【TIFFCOM記念インタビュー①】香港はアジアのアニメーションのハブとなるか?香港を代表するキャラクターとアヌシー選出のプロデューサーが語る、ローカルIPの未来と世界戦略
  • 【TIFFCOM記念インタビュー①】香港はアジアのアニメーションのハブとなるか?香港を代表するキャラクターとアヌシー選出のプロデューサーが語る、ローカルIPの未来と世界戦略
  • 左:ポリー・ヤン氏、右:サミュエル・チョイ氏
  • 香港フィルマート
  • 『Another World』
  • 『マクダル』© Bliss. All rights reserved.
  • 『マクダル』© Bliss. All rights reserved.
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  • TIFFCOMの様子

香港を象徴するキャラクター『マクダル』を手がけてきたベテランプロデューサー、サミュエル・チョイ氏。国際共同制作でアヌシー国際アニメーション映画祭に選出された最新作『Another World』で世界に挑むポリー・ヤン氏。

東京国際映画祭と併催されるコンテンツマーケット「TIFFCOM」でも登壇される、香港アニメーションの「伝統」と「未来」を象徴する二人に、グローバル市場への挑戦、IP戦略、そして日本と香港の協業の可能性について話を聞いた。

左:ポリー・ヤン氏、右:サミュエル・チョイ氏

世界市場の扉を叩く ― 香港からグローバルへ

―― まず、チョイさんにお伺いします。『マクダル』は長年、香港の人々に愛され続けていますが、その理由は何だとお考えですか?

チョイ:『マクダル』は、香港で育った多くの人々の心に特別な存在として刻まれています。一般的なヒーローとは違い、特別優れているわけでも賢いわけでもありませんが、期待に応えられなくてもくじけず、静かな決意で挑戦し続ける姿、その純粋さと穏やかなユーモアが、親しみやすく共感できる感覚を生むのでしょう。ユーモラスでありながら詩的で、誠実さとほのかな切なさを併せ持ち、まさに香港らしい感性を持ったキャラクターです。

『マクダル』© Bliss. All rights reserved.

―― ローカルな感性を大切に育ててこられたのですね。一方、ヤンさんは最新作『Another World』では国際共同製作という道を選び、どのような物語を目指したのでしょうか?

ヤン: 現代はグローバル化の時代であり、作品が必ずしも強い地域性を持つ必要はないと考えています。真に「ローカル」なものとは、「人間性」そのものです。私たちが描く物語が人々の心に響き、皆がつながることができれば、自然と世界中の観客にとって魅力的なものになると信じています。

むしろ香港人が強みとしているのは「人材」と「ワークスタイル」です。本作に参加した主要なクリエイターは香港出身で、香港特有の「柔軟性」と「一人で複数の役割を担うこと」が、制作体制の透明性を高め、開かれたコミュニケーションを生み出しています。

『Another World』

―― 『Another World』は、アヌシー国際アニメーション映画祭の「Midnight Specials」部門に選出されました。製作にあたってどんな苦労がありましたか。

ヤン: アヌシーは長年の夢でしたから、入選は大きな励みになりました。私たちが作品に込めた豊かなファンタジーと、人間性の「暗さ」と「優しさ」の両面を描こうとした点を評価していただけたのだと感じます。

『Another World』は中東やフィリピンからの出資を受けた国際共同製作作品ですが、異なる文化的背景を持つチームとの協働では、相手の状況を深く理解する必要があります。例えば、中東パートナーのラマダンや勤務プロセスへの配慮、フィリピンでは大雨でネットが不安定になり会議ができないこともありました。こうした経験を通じて、謙虚な姿勢で互いの違いを理解することの大切さを学びました。

『Another World』予告編

―― チョイさんは『マクダル』という香港に深く根ざしたIPを、どのように海外展開してきたのですか。

チョイ:これまでも、中国本土やアジア各地のライセンシングショーに積極的に参加し、ユニバーサル・スタジオや日本の企業とライセンス契約を結んだ事例があります。

また、『マクダル』を国内外の有力ブランドや香港政府観光局などのイメージキャラクターとして起用することで、ブランドの認知度向上を図っています。これまで童話やマンガ、テレビシリーズ、映画、クラシック音楽のコンサート、舞台公演、デジタルゲーム、観光名所、美術展、オークションなど、多方面に展開をしてきました。

『マクダル』© Bliss. All rights reserved.
『マクダル』© Bliss. All rights reserved.

東洋と西洋の文化が交差する香港市場

―― グローバルなアニメーション市場において、香港の持つ特徴や優位性はなんでしょうか。

ヤン:香港は、東洋と西洋の文化が交差する場所です。私たちは中国の伝統を深く受け継いでいる一方で、イギリスの影響を受けたことにより、香港の教育制度や社会全体の雰囲気は西洋的なスタイルも持ち合わせています。そのため、香港のクリエイターたちはこの独自の文化融合の経験を反映させ、世界中の観客にとって新鮮でありながらも、決して遠い存在には感じられない独特な魅力を持った作品を作っています。

チョイ:香港の強みは、東洋と西洋、伝統と現代、芸術と商業といった異なる世界をつなぐ力にあると考えています。それがローカルでありながらユニバーサルな感覚を持つアニメーションを生み出すことにつながっているのだと思います。

また、香港には「レジリエンス(柔軟な対応力)」があります。2Dからデジタルへの移行、ローカルテレビからグローバルなストリーミングへの変化など、香港のクリエイターたちは常に適応し続けています。ストリーミング全盛の今、強いIPを育てるには多面的なアプローチが必要です。視聴者が一気見したくなる魅力的なストーリー、商品化やゲームなどへ展開可能なキャラクターと世界観、そして多様なフォーマットに対応できる適応力が求められます。

――世界のコンテンツ市場において、香港フィルマートを擁する香港は、どんな役割を果たしているでしょうか。

チョイ:香港は、デザイン、イラストレーション、ゲームなど多岐にわたるIPが、スクリーンから商品化、展示まで、さまざまなメディアで展開できる環境が整っています。また、香港は中国本土、東南アジアとの国際共同製作におけるパートナーであり、グローバル市場への玄関口でもあります。

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また、著作権、商標、意匠保護を含む包括的なIP規制制度が整備されており、文創産業発展処(CCIDAHK、旧CreateHK)によるアニメーション、漫画、デザイン、アートテック関連プロジェクトへの積極的な資金提供など、政府の支援も充実しています。香港フィルマートだけでなく、香港国際ライセンシングショーや香港貿易発展局主催の各種展示会などでも国内外のIPが活発に取引されています。

ヤン:香港アジア映画祭も重要な存在です。『Another World』は、同映画祭に選出され、期間中、多くのパートナーと接触する機会を得ることができました。映画祭や配給会社からのフィードバックは、作品の今後の方向性や期待値を決定するうえで極めて重要です。

――長編アニメーション映画の制作は世界的に増加傾向にありますが、この分野の成長可能性と、アジア諸国がグローバルなアニメーション業界の中で、どのような立ち位置を築いていくかについて考えをお聞かせください。

ヤン:アニメーション映画は非常に大きな成長の可能性を秘めた分野です。今後は、実写映画の監督たちがアニメーション作家との協業を求めるケースが増えると予想しています。というのも、実写だけでは表現しきれない想像力を、アニメーションによって実現できるからです。アジア諸国には、アニメーションの題材に適した、多様で豊かな物語や民間伝承が数多く存在しています。さらに、アジアの多くの地域で、世界中のアニメーション制作を長年支援してきた経験が蓄積されています。こうした背景から、アジアのアニメーションスタジオは今後ますます発展し、より多くの国際プロジェクトを担うと確信しています。

成熟した日本アニメから多くのことを学びたい

―― 日本と香港の協業の可能性についてもお聞かせください。またTIFFCOMのセミナーでどんなことをお話する予定ですか。

ヤン: 私たちは今回も、共同製作を希望される方や、制作委託を考えている企業と出会いたいと願っています。日本のアニメ産業は非常に成熟しており、日本から多くのことを学ばせていただきたい。また、この『Another World』に対する皆様のご意見を伺えることも楽しみにしております。

チョイ: 私たちも日本企業との協業には非常に関心があります。過去には株式会社セガと『マクダル』の映画を共同制作したり、朝日新聞社と書籍を出版した経験もあります。

『マクダル』© Bliss. All rights reserved.

日本のアニメやマンガ文化は、伝統と現代的要素の両方を取り入れながら、独創的なキャラクターと想像力豊かな世界観で、多様な視聴者に訴求するコンテンツを生み出し続けており、世界のポップカルチャーに影響を与え続けています。

TIFFCOMでは、香港のアニメーションおよびIP業界の概要をご紹介するとともに、長年にわたってオリジナルIPを開発してきた私たちのクリエイティブな歩みについても共有させていただく予定です。

また、現在制作中の新作アニメーション映画『Excreman on the Road』をご紹介いたします。本作は『マクダル』シリーズから派生した、独立したIPとして開発しており、私たちはこのプロジェクトをより多くの方々に届けるために、共同製作、資金調達、配信の可能性を模索したいと考えております。

『Excreman on the Road』

セミナー情報

  • セミナー名: 【29-B-1】アジアのアニメーション:IP、物語、そしてグローバル展開の戦略 (Animating Asia: Creative Strategies for IP, Storytelling, and Global Reach)

  • 日時: 2025年10月29日(水) 11:00 AM - 12:00 PM

  • 会場: 東京都立産業貿易センター浜松町館 5F セミナーB会場

  • 登壇者:
    ラマン・ホイ (監督 / アニメーター)
    ポリー・ヨン( プロデューサー / 脚本家)
    サミュエル・チョイ(プロデューサー / ブリス・コンセプト ゼネラルマネージャー)
    森本 晃司(監督 / アニメーター)
    藤津 亮太(モデレーター / アニメ評論家)

  • 主催: 香港特別行政区政府 文創産業発展処、香港電影発展局

  • 協力: 香港貿易発展局

*本セミナーの聴講にはTIFFCOMへのビジター登録が必要になります。

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《杉本穂高》

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杉本穂高

Branc編集長 杉本穂高

Branc編集長(二代目)。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。