2月13日(木)、総理官邸にてコンテンツ産業官民協議会および映画戦略企画委員会の第2回目の会議が開催された。
本会議ではアニメ、映画、ゲーム、音楽、放送コンテンツなどの業界関係者が集まり、クリエイター支援、海外展開、労働環境の改善、生成AIの影響といった、日本のコンテンツ産業の振興に向けたさまざまな課題とその解決策について意見が交わされる。今回は2回目の開催となった。
政府の基本方針と主要議題
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会議の詳細資料はこちらから閲覧することができる。
議長は内閣官房副長官が務め、そのほか経済産業省、総務省、文化庁、公正取引委員会ら政府関係者が出席し、芸術分野における現在と今後の取り組みを述べた。
総務省の報告によると、グローバルで求められる高品質なコンテンツ不足、不適切な取引・製作慣行や膨大な権利処理、流通チャネルの不足が現状の課題として挙げられている。それを解決するために、現在「製作・権利処理・流通」の好循環による放送コンテンツの製作力強化・海外展開の実現を目指し、具体的な方策を進めているとのことだ。(資料:4より)
経済産業省は、「クリエイターと海外市場を獲得するための戦略的支援」として年度に縛られない継続的な基金での支援に加え、エンタメ・スタートアップの事業化支援や海外展開のための構造改革などの方針を示した。(3より)
全体としては、クリエイターの育成やコンテンツ制作のデジタル化による働き手への対応、著作権保護の強化、海賊版対策の徹底が重要視されているように見受けられる。
業界からの意見
そんな中、各業界からは近年のコンテンツ産業における政府の取り組みを称賛する一方で、現場の声を踏まえた今後の動きや具体的な施策が議論された。
映画業界からは、Netflixをはじめとするストリーミング企業や映画制作者自身が、業界全体の労働環境の改善を進めるべきだという声が上がった。(11より)特に、撮影現場の長時間労働や低賃金の問題が再び指摘され、より適正な報酬基準を設ける必要があるとされた。(8,9より)
是枝監督が提出した資料では、政府の提案したコンテンツ産業活性化戦略に対し、下記の対応を映画業界が自主的に行うことが必要と指摘されている。
① オリジナル作品の開発を増やすべく、企画開発費をきちんとクリエイターに支払う
② 労働環境の更なる改善を実現する
③ 権利配分・成功報酬が、きちんとクリエーターに還元される仕組みを構築する
これらに対応した上で、増加する製作費を国の支援で賄うべきだということだ。また、多様な制作支援を取りまとめる政府の“司令塔”が未だ具体的に決定されていない点についても懸念が示された。さらに、企画開発・制作・配給の段階での報酬や、フリーランスとの契約における実際の声が紹介され、クリエイターが安心して作品制作に取り組める環境を整えることが求められた(10より)。
放送コンテンツ業界からは、地方局の海外展開を政府が支援することで、地域の魅力を世界に発信する機会を増やすべきだという提案があった。また、放送コンテンツがゲーム、アニメ、映画などと並び、独立した産業として認識されるように政府の戦略の中で位置付けるべきだという要望が出された(13より)。
ゲーム業界からは優秀なゲーム開発者の育成が急務であると提言。また、海外展開に必要なカルチャライズへの支援、インディゲームの発展を促すためのパブリッシャーとのマッチングの機会を増やすことが重要であると提案された。(12より)
第2回会議参加者のコメント
今回の会議に関して、委員会メンバーの是枝裕和氏と近藤香南子氏からのコメントも到着している。
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是枝裕和氏 コメント
各省庁の支援策は、かなり具体的にはなってきている印象を持ちました。真摯に取り組もうという気持ちは伝わってきました。ただこれは公的な改革なので、私たち民の側もしっかりと改革の意識を先に進める覚悟を持たないと、官に頼るだけでは一般の方々の支持を得るのは難しいと思います。それは大前提として、改めて、要望をお伝えするとすると、まず、一番懸念している行政の縦割りは、まだまだ解消されてない印象でした。各省庁が持っているコンテンツ関連の資金が、クリエーター支援基金に全て統合されると昨年6月の閣議決定では明記されていますが、実現には至っていない。例えば、経産省の予算は大半は単年度の予算になっているのでクリエーター支援基金には組み込まれず、年度を越えた使い方ができない。これだと当初期待を抱いた一本化、統合化にはまだまだ程遠いのではないかと思います。これを来年度以降どう改善していけるのか?が最大の課題かなと思います。また、この会議体もテーマがあまりにも多岐に渡りすぎているので、何かを解決していくには限界がある。やはり、分科会なりジャンル別に、映画は映画、ゲームはゲームといった形に分けて進めていかないと厳しいかと。
また、「司令塔」が明確化されてないことも含めて改善していかないといけない。「日本芸術文化振興会」の中に新たに組織された<クリエーター等育成・文化施設高付加価値化支援事業委員会>。おそらく支援基金をどのように分配していくかの実務を担うこの機関が重要な拠点になるはずだと思うので、さらなる強化、具体案の提案など、もっと個別の場で議論していきたいと思います。正直、前回から5ヶ月経って今の状態なので、参加した多くの委員も同じ気持ちを持ったのではないかと思います。もうちょっと覚悟を持ってスピーディーに「体制」を整備しないと、制作現場の問題、人材不足と育成教育、ミニシアターのDCPほか流通、インティマシー・コーディネーターの普及や、専門のベビーシッターなどの育児スタッフの環境など、個々の問題がなかなか改善されず、より過酷な局面に入っていくと思います。
近藤香南子氏 コメント
現場のスタッフの立場に立って意見を伝える立場からすると、政府のみならず、この会議に参加している事業者のみなさんにも、実際の現場で走り回っているスタッフの苦労や悩みを想像することができますか?と問いたくて、それを配布資料にも載せました。政府の動きを待たず、民間でもどんどん働き方の改善に着手していただきたいです。また、会議でも報告のあった公正取引委員会の「情報提供フォーム」も皆さん利用していただきいろんな問題点が可視化されていくことも大切だと思います。2001年に文化芸術振興基本法が公布されたことを受けて、「映画振興に関する懇談会」が文化庁を中心に立ち上げられ、2003年に提言「これからの日本映画の振興について~日本映画の再生のために~」がまとめられています。この時の座長が高野悦子さんだったんですが、この懇談会のように映画振興策を丁寧に話し合うような会議ややりとりがないといけないのでは、と思いました。