第2回「観たいのに観れなかった映画賞」受賞者、『市子』戸田彬弘監督&『怪物』是枝裕和監督の声が到着

昨年2月、swfiによって開催された第2回「観たいのに観れなかった映画賞」。受賞結果を受けた映画制作者たちの声が到着した。

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第2回「観たいのに観れなかった映画賞」受賞者、『市子』戸田彬弘監督&『怪物』是枝裕和監督の声が到着
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2024年2月、swfiによって開催された第2回「観たいのに観れなかった映画賞~いやぁ、時間がなくて~」。受賞結果を受けた映画制作者たちの声が到着した。

swfi(スウフィ/NPO法人映画業界で働く女性を守る会)とは「Support for Women in the Film Industry」の略で、映画業界を「子供を育てながら働ける業界にしたい」という思いから誕生した団体だ。2020年の団体設立時のメンバーの半数は女性であり、女性の視点から問題点を共有し、解決することを目指している。

そんなswfiが2023年から開催している「観たいのに観れなかった映画賞」は、「映画が好きで業界に入ったはずなのに、全然映画を観られていないという矛盾」に焦点を当て、映画賞のジェンダーバランスでも少数側である女性たちが、当事者として参加できる映画賞を作りたいという想いのもと作られた映画賞。第1回となった2023年は、早川千絵監督の『PLAN75』が1位となった。

第2回は作品リストが665本の中、1票以上投票があったものが193本という結果に。今回の第1位は戸田彬弘監督の『市子』となり、2位は『福田村事件』、3位は『怪物』が選ばれた。

『市子』戸田彬弘監督との意見交換

左:swfi代表SAORI氏 右:戸田彬弘監督

戸田彬弘監督へ結果を知らせる中で、swfi代表のSAORI氏、副代表の畦原氏、映画コメンテーターの伊藤さとり氏の意見交換が行われた。

戸田監督はこの賞を受賞したことについて「観てもらいたい、というのがもちろんあるんですけど、まず観たいと思ってもらえる、興味を持ってもらっているということ自体が作ってる側の人間としては嬉しいです」とコメント。『市子』を選んだ畦原氏は「私が投票した理由のうち大きいものは、『家から近い劇場で上映していなかったから』です。仕事があり、子どももいる中でちょっと遠い劇場に観に行く時間を捻出できなかった」と話した。

映画『市子』予告編

また、女性の心情を男性脚本家はどう書いているのかと問われた戸田監督は「基本、僕はあんまり男性女性考えずいち人間として向き合って書いてるんで、そこはあんまり気にはしないです。ただもっと細かいディティールのところで、これはどう思うか?みたいな、こうやれば共感できるとか、そういった意見交換はやっぱり女性から意見が欲しいなと思ったりします。演劇の場だったら稽古場に女優さんがいるんでそこで意見交換して直したりしますが、映画の場合はやはり先に脚本が上がってきますし、プロデューサーも男性でしたし、なので女性が居て欲しいなというのは、ありました」と語った。

戸田組の男女比や年齢バランスについては、監督と同世代が多いとのこと。「撮影照明は男性、衣裳メイクは女性、演出部・制作部は男女混ざっている感じです。いつもやってくれている女性スタッフの方はまだ独身ですね」と話し、出産を経て現場復帰している女性もいるが、どういうやり方をしているかは聞いたことがなかったとのことだ。労働時間については「理想だけで言うと、やはり撮影日数を増やすっていうことですよね」「先日濱口さんと是枝さんが会見してましたけど、やっぱり国からの支援みたいなものを獲得していかないとどうにもならないなっていう気はします」と現状への考えを述べた。

また、現場での大変な面について「性別に限らず、スタッフがとにかく大変そう、というのがずっとあります」と話し、「現実としてスタッフが足りていないはずで、ということはつまり今頑張ってる人にしわ寄せが来ている。『オファーが絶えない』というと聞こえが良いかもしれないけれど、本当に働き詰めになっていってるんだろうな、と思います」とスタッフの労働環境を振り返った。

結婚・出産・育児についても「もう少しみんなで助け合えるような精神をまず作った方がいいんじゃないかな」とし、「子どもを連れてくるのは全然良いです」と話した。一方で、撮影スケジュールや予算の見直しに繋がることも指摘し、「誰かが救われて誰かが困る、と言うのはきっと意味がないので、やはり全員が幸福にならなきゃと思うと、今はバランスをとっていくしかないと思います。なのでやはりそこには国からの支援みたいな物がないと健康的にいかないのでしょう」と語った。

📍【MME賞2024】第1位「市子」記念品お渡しレポート

『怪物』是枝裕和監督との意見交換

左:swfi代表SAORI氏 右:是枝裕和監督

3位という結果に際し、『怪物』の是枝裕和監督とswfi代表のSAORI氏、『怪物』プロデューサーであり一児の母でもある伴瀬萌氏、映画コメンテーターの伊藤さとり氏、swfiメンバーであり『怪物』のインティマシーコーディネーターを務めた浅田智穂氏による意見交換も行われた。

受賞に対し、是枝監督は「『結果的に観られなかった』という事を喜んでいいのかどうか、というのが複雑な賞ですね。それが面白いなと思いました。やっぱりこの賞の上位に選ばれた時には、配給会社とか宣伝スタッフは『何がいけなかったんだろう?』と考えることもあるだろうと思うんだよね」とコメント。

映画『怪物』予告編

是枝監督の提言の話になると、「僕のチームに、チーム内で結婚している夫婦が3~4組います。旦那さんは僕の現場に参加していて、でもその奥さんは職場復帰できずに子育てをしている、という状況です。その中には職場復帰の意欲がある女性もいるので、何らかの形で(仕事に)戻ってもらえないかなっていうのはすごく考えていて、『怪物』の時にもなんとかならないかと模索していました」と話し、是枝組だけでなく業界全体としてサポート体制がきちんと整備されないと根本的な解決にはならないからこそ、提言をするに至ったと述べた。

また、男性監督の作品には、女性から観ると違和感のあるシーンがある場合があることも話題に上がった。これに対し、伴瀬氏は「女性がいるかどうかだけではなく、一人一人のスタッフに開かれたチームであるか、意見が言える環境かどうかと言うことですよね」と話し、是枝監督はそういった意見をよく聞いている監督だと語った。一方、是枝監督は「今は監督助手が20代などの孫みたいな年齢になってきているので、いいづらさを感じさせてしまっているのかな?と思う時はあります」と明かした。さらに、言いづらい空気感を作り出してしまう監督や映画関係者のコミュニケーションスキルについても「もう一度学び直す場としての学校があるとか、そういう仕組みを作れるといいですよね」と話した。

是枝組でインティマシーコーディネーターを導入した経緯についても明かされた。是枝監督は手探りだった中で浅井氏と出会い、相談しながらどうアップデートできるかを考えていたそう。浅田氏も「そこがやっぱり、是枝監督の素晴らしいところだと思います。ご自分が権力を持っていることの自覚、学びの姿勢、アップデートの必要性、そういったことをしっかり意識されていることがすごく伝わってきます」と是枝監督と一緒に考えてきた中で感じたことを語った。

最後に撮影期間中に行った新しい取り組みについての話題に。撮影が始まってしまうとどこにしわ寄せがいっているかわからなくなってしまう現状から、撮影が3分の1くらい進んだところで現場で問題はないか意見交換を行ったとのこと。撮影を止めたくないという気持ちもあって、なかなか意見が上がってこないという課題もあるが、問題があった場合は調査して、該当者の意見をしっかり聞いて、問題解決に努めたそう。SAORI氏も自身が辛かった経験を懐古し「あの時ヒアリングしてもらえたら、救われただろうな、とお話を聞いていて思いました」と話した。

また、作品のトップにいる監督やプロデューサーだけでなく、スタッフィングの段階からハラスメントを防ぐことができるのではという意見も。SAORI氏は、スタッフが参加する時点で「その人現場で怒鳴ったりする?穏やかな人がいいんだけど」と確認することも大事だと話した。そうすることで怒鳴る人に仕事が回らなくなっていくというサイクルも作ることができ、穏やかな撮影現場を作り出すことができる。最後にSAORI氏の「是枝監督のように、監督もスタッフもキャストも、アップデートして行ってほしいと思います」という言葉で意見交換会は幕を閉じた。

📍【MME賞2024】第3位作品への記念品お渡しレポート

『福田村事件』統括プロデューサー 小林三四郎氏より

2作品のように意見交換会という形ではないが、『福田村事件』の統括プロデューサー・小林三四郎氏からコメントも到着した。

コメント全文
この度は、第2回『観たいのに観れなかった映画賞』に選んでいただきありがとうございます。『福田村事件』をご覧くださった皆さんはもとより、観れなかったとしても、とても長い時間、この映画を気にかけてくれたことは、望外の幸せです。

本作は、参加したキャスト、スタッフの皆さんの有形無形の献身的な協力無しには完成しませんでした。多くの関係者の皆さんの存在に、私は映画作りの核心的な何かを学んだように思っています。それは傍にいる人を大事にする事だろうと考えます。ありがとうございました。

📍【MME賞2024】第2位「福田村事件」受賞コメント


「観たいのに観れなかった映画賞~いやぁ、時間がなくて~」は次回開催(2025年1月下旬投票開始予定)から対象を広げ、「働く女性」であれば業界外でも投票できるようになる予定だ。

毎回投票時には、「どういった環境であれば劇場に映画を観に行けたと思いますか?」というアンケートも収集しており、第1回、第2回ともに「もっと休みがあれば」が1番の理由として上がった。swfiでは今後、こういったデータを元に興行側にも働きかけ、「働く女性たち」が劇場に足を運ぶ機会の向上を目指していく。

swfiは働く女性たちが観たい映画を何本でも映画館で観れるような労働環境へと変わる未来を目指し、この映画賞がなくなることを目標としている。

「観たいのに観れなかった映画賞~いやぁ、時間がなくて~」概要

映画賞主催団体:NPO法人映画業界で働く女性を守る会(swfi)
投票資格:映画、ドラマ、TV番組全般(現場、仕上げ、配給、宣伝等すべて)に携わる仕事をしている性自認が女性の方(スタッフ、出演者含む)。年齢問わず。
投票手法:インターネット投票(Googleフォーム)
2023年1月1日~12月31日に公開された日本映画(実写・アニメーション)から「劇場で観たかったのに観れなかった映画」を選択して投票(複数回答可)
投票期間:2024年2月7日~2月21日
設問数:全8問/回答時間平均4~7分
回答数:62名
投票結果:https://swfi-jp.org/posts/news/2ndmmeawards-result/

※「観たいのに観れなかった映画賞~いやぁ、時間がなくて~」は観たいのに劇場に観に行けなかった悔しさを表すため、協議の結果「ら」ぬき言葉である「観れなかった」を使用

《Branc編集部》

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