第37回東京国際映画祭で新設された「ウィメンズ・エンパワーメント」部門のシンポジウム「女性監督は歩き続ける/『映画をつくる女性たち』上映」が開催された。
「ウィメンズ・エンパワーメント」部門は、女性監督の作品、あるいは女性の活躍をテーマとする作品に焦点を当てた部門。本シンポジウムはその一環として開催され、国内外の女性監督たちが登壇し、映画業界における女性の未来について語り合った。
本イベントは、2004年に製作された熊谷博子監督のドキュメンタリー映画『映画をつくる女性たち』の上映と4つのトークセッションで構成された。『映画をつくる女性たち』は、かつて開催されていた東京国際女性映画祭の15回を記念して製作された作品で、日本の女性監督の歴史と、20人あまりの女性監督とプロデューサーのインタビューからなる。4つのトークでは多数の女性監督たちが登壇した。登壇者は以下の通り。
熊谷博子、浜野佐知、松井久子、山﨑博子、佐藤嗣麻子、西川美和、岨手由貴子、ふくだももこ、金子由里奈、甲斐さやか、ジェイラン・オズギュン・オズチェリキ、オリヴァー・チャン。司会は、フィルムアーキヴィストの森宗厚子、ウィメンズ・エンパワーメント部門シニア・プログラマーのアンドリヤナ・ツヴェトコビッチ、映画文筆家の児玉美月が担当した。
また、会場には託児スペースも設けられ、女性が参加しやすい場を作るための工夫が講じられていた。来場者に配布された公式ブックレットは、日本の女性監督の作品を一覧にした読み応えある論文とインタビューも掲載された力の入った内容だ。
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『映画をつくる女性たち』と高野悦子の功績
シンポジウムの冒頭に、企画者の近藤香南子氏、東京国際映画祭チェアマンの安藤裕康氏、インドネシアの女優・プロデューサー・クリスティーナ・ハキム氏から挨拶があった。
3人は、かつて開催されていた東京国際女性映画祭を設立した故・高野悦子氏への賛辞を送った。ハキム氏は、高野氏を母親のように慕い、何度も支えてもらったという。日本の作家だけでなく、アジア、さらには欧州の女性映画人も支え続けた高野氏の人柄と功績を称えた。
続いて、『映画をつくる女性たち』の上映。本作では今も現役で活躍する日本の女性作家も含め20名近くの貴重な証言が収められている。近藤氏は、本作の中でドキュメンタリー作家、羽田澄子の「感じた人は行動する責任がある」の言葉に触発されて、本シンポジウムを企画したという。
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女性監督のつながりをつくる場の必要性を議論
第一部のトークは「道を拓いた監督たち」と題して、熊谷博子、浜野佐知、松井久子、山﨑博子が登壇。『映画を作る女性たち』にも登場する4人は、映画の思い出と女性映画祭の重要性について語り合った。
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浜野監督は、300本ものピンク映画を監督していたものの、日本映画の公式見解として最多監督本数は田中絹代の6本であるということに対して奮起。非ピンクの長編映画制作に乗り出した。その際、高野氏にピンク映画を見せたエピソードを披露し、高野氏は「女性の視点がある」と評価したそうだ。
山崎監督は、東京国際女性映画祭には、高野氏からのアプローチで参加することになったという。松井監督は、長編デビュー作『ユキエ』で同映画祭に参加。男性の描く女性像と女性の描くそれには明確に違いがあり、観客が女性監督の作品を観たいと支えてくれるようになるといいと語る。
浜野監督は、女性映画祭の重要性について、そういう場が自作を評価してくれることが力になっていると語る。かつて、高野氏が立ち上げた東京国際女性映画祭の歴史的役割を再確認し、これを若い世代で再び実現してほしいとエールを送った。
熊谷監督は、かつて高野氏から「低きに流れてはいけない」と言われたという。女性監督の活躍を阻む課題はまだ存在しており、諦めたくなることがあっても支え合い、率直に話し合える場を作ることの重要性を説いた。
現役女性監督が語る、映像業界の今
第二部「道を歩む監督たち」では、現役で活躍する監督たち、佐藤嗣麻子、西川美和、岨手由貴子、ふくだももこ、金子由里奈が登壇。今の映画業界について語った。
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