テレビ番組制作の現場から:価格転嫁の遅れと著作権問題が深刻化

今年は映像業界の労働環境問題やグローバル展開支援を改善する動きが活発だ。そんな中、価格転嫁の遅れがテレビ番組制作会社を圧迫している。

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テレビ番組制作の現場から:価格転嫁の遅れと著作権問題が深刻化
UnsplashのJovaughn Stephensが撮影した写真 テレビ番組制作の現場から:価格転嫁の遅れと著作権問題が深刻化

今年は映像業界の労働環境問題やグローバル展開支援を改善する動きが活発だ。

今年の秋にはフリーランス新法が施行される予定だ。映像業界を含む芸能従事者には、フリーランスが多いため、そのインパクトは小さくない。さらには、内閣府「新しい資本主義実現会議」に是枝裕和監督や山崎貴監督が出席し、現場の現状を訴え、コンテンツ産業を支援する一元的な組織の実現に向け動き出している。


映画産業においては、是枝監督らが所属する「action4cinema」の改善提案や、昨年から映画現場の労働環境適の適正化をはかる映適も動き出した。アニメ業界でも、環境改善を求める声が大きくなりつつある。

そして、支援と改善が必要なのは、映画とアニメのみならず、実写テレビの制作現場も同様だ。全日本テレビ番組製作社連盟(ATP)は、テレビ番組の製作費減少、昨今の物価高にもかかわらず価格転嫁が進まない現状、制作会社が著作権を保持できなず、危機にあることなどを訴えた

価格転嫁が遅れるテレビ業界

テレビ番組は、テレビ局によって制作されるものもあるが、その多くは中小企業の制作会社によって制作されている。そうした会社が今、危機を迎えている。2023年にはテレビ番組制作会社の倒産が過去最高を記録した。

この結果は、コロナパンデミックのダメージも大きいが、長期的な傾向として、人件費や光熱費などのコストの上昇と番組制作費の減少による構造的な要因が背景にある。

今年7月にATPが総務省に提出した資料によると、2016年と2022年を比較して、民放各局の番組制作費は全局で減少している。フジテレビが最も減少率が大きく、次いでテレビ朝日、日本テレビと続く。TBSが最も減少額が少ない。

制作費減少の原因は、テレビ局の主たる収入源である視聴率による放送収入が減少しているからだ。それに加えて、制作会社はコスト増加の圧迫に苦しんでいる。円安や人件費の上昇など、どの業界でもコスト高は大きな悩みの種となっており、下請け企業が価格転嫁できるかどうかが課題となっているが、テレビ業界は価格転嫁が進んでいない業界のひとつである。

今年3月に経産省が行った「価格交渉促進月間」のアンケート調査によれば、価格転嫁を実施した業種ランキング(発注側企業から見た)で、放送コンテンツ業界は27位中26位だったという(ちなみに27位はトラック運送業)。

同資料では、放送コンテンツ業界のアンケートの声として、真摯に価格交渉に応じてもらえたという声がある一方、「一方的な受注金額を押し付けてくる。価格交渉を申し入れ、丁寧に見積もりを提出しても、今までの取引価格と違うという点をもって価格転嫁を認めてもらえなかった」という声も上がっている。放送局と下請け制作会社の力関係を如実に物語る声と言えるだろう。

テレビ番組の著作権は誰が持つべきか

制作会社にとって制作費は重要な収入源だが、それが減少する以上、それ以外に収益を上げる方法を作らねばならない。だが、制作した番組の著作権を持てる会社は少ない。基本的には、テレビ番組の著作権はテレビ局に帰属するため、二次利用展開もできない状況だ。

ATPは、制作会社の著作権保有率は13.5%で、2017年度の調査から比較して、民放・NHKともに減少傾向だとしている。


《杉本穂高》

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映画ライター 杉本穂高

映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。

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