紙の作画を超えるUXを目指す。日本のアニメ制作に特化した、ソニーのデジタル作画・仕上げソフト「AnimeCanvas」とは?【インタビュー】

ソニーグループの経営方針説明会で開発中であることが明らかになった、「AnimeCanvas」。アニメの制作工程に特化した作画・仕上げソフトウェアである本ソフトはアニメ業界の課題にどう向き合い、何を実現できるのか?開発に携わる3名に話を聞いた。

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紙の作画を超えるUXを目指す。日本のアニメ制作に特化した、ソニーのデジタル作画・仕上げソフト「AnimeCanvas」とは?【インタビュー】
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5月23日に開催されたソニーグループの経営方針説明会で、同社はクリエイションの強化とIP価値最大化の取り組みを通じた成長について説明した。説明会の中で、傘下のアニメスタジオとともに、アニメの制作工程に特化した作画・仕上げソフトウェア「AnimeCanvas」を開発中であることを明らかにした。


日本のアニメ業界はデジタル化に課題を抱えているが、AnimeCanvasの開発はその課題にどう向き合い、何を実現するソフトなのか。開発に携わるソニーグループ株式会社 事業開発プラットフォームの荒木俊之氏、ソニー・ミュージックエンタテインメント EdgeTechプロジェクト本部の高橋学氏、そして、ソニー・ミュージックエンタテインメントの子会社であるアニプレックス傘下のアニメスタジオ、A-1 PicturesとCloverWorksの代表を務める清水暁氏に話を聞いた。

写真左から、ソニー・ミュージックエンタテインメント高橋氏、A-1 Pictures/CloverWorks清水氏、ソニーグループ荒木氏。

アニメの現場スタッフとエンジニアが協業

――AnimeCanvasはどういう経緯で開発されることになったのですか。

荒木まず開発体制をご説明させていただくと、このプロジェクトは、A-1 PicturesとCloverWorks両スタジオの代表である清水さんにプロジェクトマネージャーとなっていただいて、私と高橋さんはその下で技術開発と運用の検討を行っています。A-1 PicturesとCloverWorksのメンバーは、プロジェクト方針の決定、現場実証や評価をしていただくという形で参画しています。

高橋開発に関しては、我々ソニーミュージックグループはもちろん、ソニーグループの各社からもエンジニアのみなさんに参画いただいていて、清水さんをはじめスタジオのみなさんから「こういう機能があったらいいな」という要望をいただきながら、開発を進めています。

――このプロジェクトはソニー主導というより、制作現場のA-1 PicturesやCloverWorksが立ち上げ段階から参画・推進しているものと考えていいのですか。

荒木元々、私はR&D部門におり、A-1 PicturesのCGチームに相談に乗ってもらいながら、口の動きを自動で生成するなどのCG向けの技術開発や導入を行っていたのですが、そのなかでアニメのワークフロー全体に課題がたくさんあるというお話を聞きました。そこで清水さんにご相談し、業界の課題を解決する技術開発をプロジェクトとして推進していこうとなったというのが経緯です。

清水アニメ業界にはデジタル化が進んでいない部分がいくつかあり、完全デジタル化されている仕上げのセクションでもソフトが長く更新されていないなどの課題がありました。そこで「エンジニアが支援できることはありますか」と声をかけてもらった際に、まずは描く・塗るといったアニメーション制作のベースとなるソフトを作った方がいいのではないかと提案しました。

AnimeCanvasは何ができるのか

――基本的な質問ですが、AnimeCanvasは従来のデジタル作画ソフトと何が異なるのですか。

高橋AnimeCanvasは、日本のアニメ制作に特化したソフトウェアで、2つのソフトで構成する予定です。ひとつは原画・動画用のソフト、もうひとつは仕上げ用のソフトです。

原画・動画向けのソフトでは、特長は主に3つあります。1つ目は、アニメーターのためのシンプルなUIです。今デジタル原画で使用されているソフトはアニメ専門ではなく、イラストやマンガにも対応したものですが、AnimeCanvasではアニメ制作で使用する機能以外をなるべく削ぎ落としています。

2つ目は、修正指示が確認しやすいことです。アニメの作画作業は要所要所で確認と修正が入りますが、複雑なレイヤーの中に修正が埋もれてしまい、それを探すことに時間が取られてしまうことがあります。それらを探しやすく、その修正指示の内容を確認しやすいようにしています。

3つ目は、タイムシートのデジタル化です。今メインで使っているソフトにもタイムシートの機能はあるのですが、他の工程への互換性が高くなく、タイムシートは今でも9割近くが紙で運用されています。そのため撮影工程では毎回紙を読み込んで、手作業でデータを打ち込む作業が発生しているので、全体のワークフローを最適化するため、タイムシートもデジタル化する必要があると考えています。

――紙の作業とほぼ変わらない感覚で、デジタル作画が可能になるということですか。

荒木そのレベルまでユーザーエクスペリエンスを持っていくのが目標です。とにかく、紙で行っているような、元の用紙と修正指示の用紙を重ねて確認するといった作業を直感的にできるようにすることと、修正がどこにのっているかがパッと見てすぐわかるものを目指しています。

――原画と動画の作業もできて、このソフト上でタイムシートも見ることができるものなのですか。

荒木はい、そこまで作り込みます。

――仕上げに関しては、どのようなこだわりがあるのでしょうか。

高橋基本的に仕上げ作業はすでにデジタル化されていて、今のソフトウェアを使い慣れている方がほとんどなので、細かい部分の使い勝手をアップデートしつつ、より効率的に作業するための新しい機能を搭載していく方向で開発を進めています。一番の重要なポイントは、今現在仕上げをしている方にとって使いやすいと思っていただけるかどうかという点ですね。

――仕上げはすでにデジタル化されているので、今のソフトと全く違うものになると、逆に混乱するということですね。

荒木そうですね。原画や動画はよりアニメ制作に特化したソフトを作ること、仕上げは既存のデジタルツールと比べても大きな違和感がないことがポイントで、それぞれ重視する点が異なるので分けて開発していくことになりました。ソフトとしては分かれますが、一つの傘の下で連携できるような形になる予定です。

現場スタッフも前向きに開発に参加

――この開発にスタジオのクリエイターの方たちも協力されているわけですね。どんな意見が出ていますか。


《杉本穂高》

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杉本穂高

映画ライター 杉本穂高

映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。

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