AnimeJapan 2024ビジネスデイで、セミナー「『【推しの子】』作品と主題歌の親和性、アニメーション作品の楽曲制作について」が開催された。
近年、アニメとともに海外進出するJ-POPの楽曲において、一際大きな成功を収めたのがテレビアニメ『【推しの子】』の主題歌であるYOASOBIの『アイドル』だ。このセミナーでは、ソニー・ミュージックエンタテインメント・REDエージェント部の山本秀哉氏が登壇し、作品と連動した楽曲制作について語ってくれた。進行はアニメ評論家の藤津亮太氏が務めた。
『怪物』でアニメタイアップに初挑戦
山本氏は、YOASOBIのユニット立ち上げに関わり、現在も楽曲制作やプロモーションに関わっている。YOASOBIは、山本氏を含めて4人のメンバーとYOASOBIの2人でチームを構成されており、YOASOBIを立ち上げた屋代氏と山本氏が全体のプランニングやプロモーションを担当し、他にコアスタッフが2人いる体制とのこと。
最初にアニメタイアップで制作した『怪物』は、TVアニメ『BEASTARS ビースターズ』第2期オープニングテーマとして制作された。YOASOBIは小説を楽曲にするというコンセプトで活動しているが、アニメとのタイアップ方法について、原作者の板垣巴留氏に小説を書き下ろしてもらい、それに対して曲を作るというアプローチを採用したとのこと。さらにアニメ映像を新たに作ってもらってMVにしたという。これはマンガ原作であっても、小説を音楽にするというYOASOBIのコンセプトはブレないほうが良いという判断だったそうだ。
山本氏は、アニメタイアップの楽曲を制作することについて、原作のあるアニメとの仕事は通常の制作フローと比べて関わる人の数も変わってくるので、本来はMVを作ってもらったり、原作者に小説を書いてもらったりすることは難しいことだと語る。しかし、こうした新しい取り組みに一緒に挑戦できたことによって、『機動戦士ガンダム 水星の魔女』でも同様の試みが成立し、アニメ業界から見ても新しい取り組みの実績を作ることができた。そこから、「YOASOBIと組むときは、こういった面白い取り組みができる」と思ってもらえるようになったという。
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また、YOASOBIのコンセプトはアニメなどとのタイアップと相性が良いのだという。今までのタイアップソングは、なんとなく世界観に親和性があるくらいのものが多かったが、YOASOBIは原作に寄り添い、主人公やストーリーをもとに曲にしていくのでより親和性が高く、アニメの新しい要素として楽曲を楽しんでもらえていると語る。コンポーザーのAyase氏は、原作者の次に詳しくなるくらいに作品を読み込むそうで、作品の世界観からズレることが少ないという。
作品を深く掘り下げ、楽曲を制作
山本氏は、Ayase氏の読解力と、どんな原作であってもYOASOBIらしさを表現できる言語のチョイスが鋭いことがポイントだという。また、アニメにおいて楽曲がどのような役割を果たすかを意識しており、どんな気持ちで視聴者がアニメ鑑賞を迎えたいか、主人公の感情や作品の世界観など、多面的に考えて掘り下げているとのこと。
『機動戦士ガンダム 水星の魔女』の主題歌『祝福』のときは、『BEASTARS ビースターズ』と違い、マンガ原作のないオリジナル作品であるため資料が限られ、これまでにない想像をしながら作ったそうだ。その甲斐あってか、歌詞の一部がアニメのエピソードタイトルになるなど、作品のストーリーとの相乗効果も発揮できたという。最終話のエピソードタイトル『祝福』は、脚本家の大河内一楼氏も楽曲から影響を受けたとインタビューで語っていたそうだ。
アニメの主題歌は89秒と短いが、短さの中に区切りの良い展開を入れていく工夫など、作り手としてはやりがいを感じるとのこと。また、アニソンの展開の早さは、サブスクのストリーミングと親和性が高いと感じているそうだ。そもそも、タイアップ自体が海外では少ないので、原作に寄り添って曲を作るという文化自体を海外に輸出できるのではないかと、海外展開の可能性についても語ってくれた。
YOASOBIの海外展開
海外展開という点では、『【推しの子】』の主題歌『アイドル』が大成功を収めたことが知られているが、この制作も他の曲とさほど変わらないという。