映像スタジオの枠を超えていく「BABEL LABEL」。活動の幅を広げ、目指す先とは?

Netflixとのオリジナル映画『パレード』や日台合作映画『青春18×2 君へと続く道』の公開・配信を控えるBABEL LABEL。映像制作以外にも、日芸での講座や自社メディアの運営など、多岐に渡る活動を行う中で意識していることとは?代表の山田氏に聞いた。

映像コンテンツ 制作
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2010年に設立されたBABEL LABEL。

『余命10年』等を手がけた藤井道人監督や『帰ってきた あぶない刑事』が控える原廣利監督といったディレクターが所属する同社は、2022年にサイバーエージェントグループに入り、2023年にはNetflixとのパートナーシップを締結。さらに日芸(日本大学藝術学部)で講座を開いたり、自社メディアを立ち上げたり多岐に渡る活動を行っている。

今現在のBABEL LABELの取り組み、そして目指す先とは。代表を務める山田久人氏に話を伺った。


グローバルヒットを目指した企画制作を進めるBABEL LABEL

――まずは改めて、現在のBABEL LABELの取り組みについて教えてください。

BABEL LABELは、藤井道人が率いるディレクター集団に加え、複数のプロデューサーや脚本家チームが所属しているクリエイター集団です。サイバーエージェントグループに参画したりNetflixと戦略的パートナーシップを締結したりしつつ、今現在は国内はもちろん海外でのヒットを目指した企画制作を進めています

そのひとつが、Netflixとしっかりと手を組んだ新作オリジナル映画『パレード』(2月29日(木)配信予定)であり、サイバーエージェントとBABEL LABELが製作委員会に入った日台合作映画『青春18×2 君へと続く道』(5月3日公開予定)も控えています。前者は全世界配信作品の制作、後者は海外との合作を行いました。

(C)2024「青春18×2」film partners

ちょうどいま、他社でもアジアを中心とする海外との合作が色々と出始めてきましたよね。日本が関わる意味のある作品を作っていくことが今年以降の課題であり、いい意味で可能性がまだまだ隠されていると感じています。海外との合作はかなりの情熱と覚悟と責任が必要だと実感していて、これをしっかり数年単位で続けていき、成果を出すことはいまのBABEL LABELだからできることですし、我々の責務ではないかと思っています。

また、BABEL LABELがかつてABEMAで作った「会社は学校じゃねぇんだよ」や「箱庭のレミング」といった旧作が数年後にNetflix配信されて海外の方に観ていただけて、改めて日本のユーザーに支持していただけているのはものすごくありがたいことです。ABEMAに関してはサイバーエージェントグループ入りする以前から日本のテレビ局とは違った自由度があると思っていて、今回Netflix配信できることになってさらに可能性が広がりました。

「時代に流されずに新しいことをやっているか」を重視

――現時点でBABEL LABELの作品には自分たちで企画から手がけたものと、依頼が来て請け負うものの2パターンがあるかと思います。そうしたなかで「BABEL LABELらしさ」はどこに宿るとお考えでしょう?

まさにそこがこれからのBABEL LABELの課題でもあり、僕たちの広報・宣伝活動にも関わってくるトピックです。監督陣が責任をもって良い作品を一つひとつ届けていくのは大前提として、そこから様々な方がBABEL LABELに注目して下さるようになれば「この放送局のこの枠のドラマはBABEL LABELの監督が作っているんだな」と伝わっていくでしょうし、BABEL LABELのクリエイターが関わっている作品に関しては自分たちでしっかりと宣伝していくことが重要になってきます。

現状、BABEL LABELのクリエイティブに関しては藤井道人が統括して見ています。自分も含めて重視しているのは、時代に流されずに新しいことをやっているか。流行っているものに乗っかるのではなく、今までなかったものを新しく作っていて、新たな流れが来ることを意識しているか――といった観点でジャッジしています。

――となると、社内で企画や脚本を揉む機会はかなり多いのでしょうか。

そうですね。企画開発に感じては僕の知る限り、他社と比べても引けを取らないくらいの長い時間をかけています。

企画作りには様々なパターンがありますが、オーソドックスなものでいうとオリジナルでも原作モノでもまずプロデューサーが「この企画をやりたい」と企画書を作成し、藤井も含めた社内で検討します。そのうえで「面白い。やろう」となったものについては、僕の方でお金を出せる仕組みを考えたり、実現を後押しするプランを考案したりします。そこからチーム一丸となって、出資者やプラットフォームといった提案先にプレゼンしたり、俳優事務所への出演交渉を行ったり、最大限に面白くできる方法を皆で考えてチーム全体で企画を通すために動いています。

――企画のブラッシュアップの中で、「対世界」は意識されているポイントでしょうか。

大事なのはバランスだと思います。海外が日本に対して興味のあること――つまり海外受けに執着していても仕方ないですし、どちらかというと日本人だから作れるものの方が大事だなと。極端な話、海外の方が日本に対して興味を抱くことを描くなら、僕らでなく海外の方が作った方がスムーズだと思いますし。海外でヒットしている韓国のドラマを観ていても、意識しているのは世界に伝わる「共感性」だと感じます。日本人だからこそできる強い企画を、世界に届けられるスケール感で作ることが重要ではないでしょうか

――こうしたBABEL LABELの一体感あるアプローチはチーム感が重要なぶん、少数精鋭のほうが動きやすいような気もしますが、メンバーの拡充についてはいかがですか?

我々は常にプロデューサーやクリエイターを求めています。というのも、BABEL LABELのミッションとしては日本の中に競合を作ることではなく、一丸となって海外に進出していくことなので、この流れに一緒に乗ってくれる仲間は常に募集しています。

若手が映像業界に挑戦するきっかけを生み出す

――その活動の一環が、日芸での授業なのでしょうか。若手の育成という面で。

若手の育成になっていればいいですが、どちらかというとこれからの若手が映像業界に挑戦するきっかけになってくれたらいいなと思って始めました。映像業界に行きたいけど迷っている若い人たちはたくさんいます。それなのに現場の生の声を伝えられる機会があまりにも少ないので、場所を作りたかったというのが一番の理由です。僕や藤井の母校である日芸にその思いを持ってお願いしに行ったら講座を持たせてもらえることになり、現在に至ります。

日芸のBABEL LABELの授業を受けて韓国に留学していま監督をやっています!などでも滅茶苦茶嬉しいですし、映像業界の生の声を聞いて明るくなることもあればより心配になることもあるかと思いますが、知らないままチャレンジしないのはもったいないので、ちゃんと知ったうえで判断するために、この機会をうまく利用していただきたいなと思っています。

僕たちがまず目指すべきは、映像業界について正しい情報を伝えて興味を持ってもらうこと。そして「いつだって遅くない。諦める理由は自分で作っているだけだから、頑張ればできる」ということを伝えたいと思っています。そのため、脚本家の山田能龍さんや最近プロデュース業でも活躍されているMEGUMIさんなど、大学時代や社会人になってから活動を始めた方をゲスト講師に呼んでいます。

また、先日授業に来てくれたカメラマンの今村圭佑が「若い人たちを変えたいなら、まず自分たちが変わっていかないといけない」ということを言っていて、それがすごく心に響きました。BABEL LABELで日芸に授業の枠を持って、学生の方々に映像業界にリアルを伝えるなかで、自分たちも「業界を良くしていくためにもっと頑張らなければ」と決意を新たにする機会をもらっています。

――BABEL LABELが今後コンテンツスタジオとしてさらに拡大していくなかで、個々の作品ではなくスタジオ自体に対するファンを増やしていくことは命題のひとつです。

我々が作るコンテンツは、観る方々がいてこその存在です。だからこそ、視聴者の方々が観る前から「BABEL LABELが作るものは絶対に面白い」と信じてくれている状態にしていくのが、大事なコンセプトだと思っています。そのためには作れるものを作るのではなく、BABEL LABELでしかできないものを作るべきですし、その結果ファンの方が増えていくのかなと考えています。

――ブランディングの意識ですね。山田さんはA24やスタジオジブリをベンチマークに挙げられていました。

我々は小さい頃からジブリ作品を観てきて「ここの作品を見に行けば安心だ」とスタジオジブリを信頼していますよね。ただ実写でいうと、映画監督や俳優、脚本家のファンはいますがBABEL LABELのようなコンテンツスタジオのファンは国内にはそこまでいなかった印象です。逆にいえば、ファンが付くほどのコンテンツスタジオがなかったということでもあります。東宝やTBSなど、プラットフォームによって観られるものやそのイメージが決まっていたのがこれまででしたが、我々はもう少し作り手側が責任を持って、いい作品を作る集団になっていきたいと考えています。

――BABEL LABELは最近、音声メディア「BABEL WAVE」を立ち上げ、テキストメディア「BABEL POST」もこれから立ち上げますよね。こちらもまた、自分たちで仕掛ける広報ですね。

いまの時代、宣伝パターンも一つではありません。文字媒体でじっくり読ませるものや、スピード感を重視して色々なクリエイターのリアルな声を聞かせるポッドキャスト等々、多様な受け取り方に合わせた届け方を考えて実践していきたいと思っています。いまや作品数も多いですし、自分たちで出来る限り作品を観てもらうための工夫や、より面白く楽しんでもらえる仕掛けは広報でカバーしていきたいですね。

よく言っていただけて嬉しいのは「たまたまドラマを観ていて面白いなと思ったらBABEL LABELの作品でした」という声です。そういった方に「次、BABEL LABELがこういう作品を作っているんです」と伝えられる機会が増えたら、観るものに悩んでいるときに選んでくれるはず。そうした考えの延長線上に、BABEL WAVEやBABEL POSTがあります。

BABEL WAVEやBABEL POSTなどのクリエイターたちの作品への思いをここで発信して、作品のファンの皆さんがもっと作品を楽しんでいただけるようにBABEL LABELとして発信していきたいと思っています。

《SYO》

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SYO

物書き SYO

1987年福井県生。東京学芸大学卒業後、映画雑誌の編集プロダクション、映画WEBメディアでの勤務を経て、2020年に独立。映画・アニメ・ドラマを中心に、小説・漫画・音楽・ゲームなどエンタメ系全般のインタビュー、レビュー、コラム等を各メディアにて執筆。並行して個人の創作活動も行う。

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