2023年興行収入ランキングから、世界各地の傾向を紐解く

2023年、海外の年間興行収入はどうだったのか?VarietyとScreen Dailyに掲載されたニュースを基に、2023年におけるアジア・ヨーロッパ各国の年間興行収入と各国の動向をまとめた。

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2023年興行収入ランキングから、世界各地の傾向を紐解く
2023年興行収入ランキングから、世界各地の傾向を紐解く

Image bySebastian GößlfromPixabay

2023年は本格的なコロナからの復帰やハリウッドのストライキなど、映画界に大きな変化をもたらした年だったが、各国の年間興行収入には、それらの影響と共に各国独自の傾向が色濃く反映されている。本記事ではVarietyとScreen Dailyに掲載されたニュースを基に、中国・香港・韓国そしてヨーロッパの2023年の興行収入の結果をまとめた。

中国:興行収入が年間83%増の1兆1,143億円に急増

中国では、年間総興行収入は549億元(約1兆1,143億円)に達し、中国製作映画が中国興行収入ランキングのトップ10すべてを占めたVarietyが報じている。

国家电影局のデータによれば、これは前年比83%の改善だが、興行収入が643億元を記録した2019年からはまだ14.5%離れているという。また、現地のチケット会社「猫眼電影(Maoyan)」によると、2023年の回復は、映画館事業が小規模な町や都市、農村部へ拡大したこと、親子での映画鑑賞が増加傾向にあること、人口統計の変化、さらに25歳以上の女性観客の拡大によって推進されたとのことだ。

外国映画では、9億8,500万元(約119億円)の『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』がトップだった。次いで、日本のアニメ映画『すずめの戸締まり』と『THE FIRST SLAM DUNK』がランクイン。旧正月に公開された2本の現地製作映画『満江紅』と『流浪地球2(原題)』が年間チャートのトップに立ち、40億元(約811億円)の大台を超えた。

『満江紅』予告

全体としてはコンテンツ、観客、プロモーションの面で変化が起きたと考えられているとのこと。多様化した映画が市場に歓迎され、歴史・SF・ファンタジーのジャンルでヒットが生まれたという。若い観客は新しいコンテンツや新しいテーマを求め、男性観客は外国アクション映画を、女性観客は親子向けアニメーションや女性問題に焦点を当てた映画を選ぶ傾向があった。

香港:興行収入は昨年比25%増だが苦戦、コロナ禍後の消費行動に変化

香港の映画市場全体は、パンデミック前の水準をはるかに下回る水準にとどまっているVarietyが報じている。

Hong Kong Box Office Limitedのデータによると、2023年の年間興行収入は14.3億香港ドル(約265億円)。これは、コロナの影響を受けて11.4億香港ドル(約212億円)にとどまった2022年よりも25%改善したことになる。しかし、興行収入が19.2億香港ドル(約357億円)に達したパンデミック前の2019年には25%及ばなかった。

法廷ドラマ『毒舌弁護人~正義への戦い~』は1億1,500万香港ドル(約21億円)を稼いだが、2023年のトップ10チャートに入った唯一のローカルタイトルだった。次いで『オッペンハイマー』『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』『バービー』が並ぶ。アジアの他の地域でもヒットした日本の『THE FIRST SLAM DUNK』は7位にランクイン。中国本土で輸入タイトルのトップだった『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』は9位にとどまった。香港のトップ10には中国本土の映画はなく、両地域の観客の嗜好の乖離が続いていることを示している考えられている。

このデータの背後にある組織は、2023年の結果を「深い不満足」と呼び、映画製作と映画部門が「劣悪な状況」にあると説明した。コロナ禍を経て、観客は映画館に行くよりも海外旅行を好むようになったなど、消費行動が変化したと説明している。また、一般に公開されている映画の選択肢が乏しいことや、コロナ禍の制作上の問題が公開タイトル数の減少につながっていることなど、映画業界内の問題も指摘している。

韓国:興行収入がパンデミック前の水準を44%下回る

Varietyによると、他の主要地域の劇場市場が回復し、パンデミック前の水準かそれに近い水準に達した一方で、韓国は2019年を44%下回る結果に終わったとのことだ。

韓国映画振興委員会のKOBISのデータによると、2023年の年間総収入は1兆2,610億ウォン(約1,393億円)だった。これは2022年比で9%の増加だが、コロナ前の最後の年である2019年に記録された1兆9,100億ウォン(約2,110億円)をはるかに下回った。


『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』のヒットにより、2023年1月は好調なスタートを切ったが、2月、3月、4月は特に韓国映画にとって絶望的な時期であった。夏はヒット作に恵まれ、韓国製作の『犯罪都市 NO WAY OUT』『The Smugglers(英題)』『コンクリート・ユートピア』がそれぞれ約116億円、約55億円、約41億円を稼いだ。また、『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』が約44億円、『オッペンハイマー』が約38億円で、昨夏の輸入映画2大成功作となった。しかし、9月から11月にかけて再び興行収入は低迷。全体として、韓国における超大作の分母である1,000万人以上の観客動員を達成したのは『12.12:The Day(英題)』と『犯罪都市 NO WAY OUT』の2本だけだった。

『犯罪都市 NO WAY OUT』30秒予告

外国映画では『マイ・エレメント』がトップで、2位と3位は日本のアニメ映画『すずめの戸締まり』(約63億円)と『THE FIRST SLAM DUNK』(約55億円)だった。ハリウッド映画は不振で『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』(約10億円)、『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』(約9億円)、『トランスフォーマー/ビースト覚醒』(約8億円)、『リトル・マーメイド』(約7億円)、『ザ・フラッシュ』(約7億円)となった。ランキングで見ると、韓国ではアニメーション作品を好む傾向にあるとも考えられる。

ヨーロッパ:フランスがコロナ禍後の立ち直りでリード

フランスの興行収入は、パンデミック前の2017年~2019年の平均興行収入を13.1%下回っているものの、ヨーロッパのどの地域よりもパンデミックの余波に耐えたとScreen Dailyが報じている。

Comscoreの調査によると、英国とアイルランドは2023年の総計が10億ポンド(約1,850億円)を超えたが、これはパンデミック前の3年間の平均を22.1%下回っている。ドイツの年間チケット売上は前年比23.7%増と急増したが、2017年から2019年の平均を16.9%下回った。そのほか、スペインは27.3%増となったが、パンデミック前の水準を23.9%下回ったままであり、イタリアは前年比63%回復したが、パンデミック前の期間から21.8%落ち込んだ。

フランスでは、2022年のチケット売り上げ数・1億5,200万枚から18.9%増加した1億8,100万枚のチケット売り上げを記録。『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』が720万枚という最大のチケットセールスを記録し、『バービー』が590万枚で2位、2022年12月公開『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』が530万枚で続いた。そのほか、フランス国内作品が3本トップ10にランクインしたという。

この結果について、フランス国立映画連盟(FNCF)のマルク=オリヴィエ・セバッグ事務局長は「フランスにはフランスの国産映画とハリウッド映画両方の供給があるため、片方が弱くてももう片方がそれを補うことができる」と語っている。

※記事内の為替レートは記事執筆時点のもの。

《伊藤万弥乃》

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伊藤万弥乃

伊藤万弥乃

海外映画とドラマに憧れ、英語・韓国語・スペイン語の勉強中。大学時代は映画批評について学ぶ。映画宣伝会社での勤務や映画祭運営を経験し、現在はライターとして活動。シットコムや韓ドラ、ラブコメ好き。

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