トロント国際映画祭での『君たちはどう生きるか』の反応は?レッドカーペットで関係者と上映後の観客に聞いた(動画あり)

トロント国際映画祭のオープニングに選ばれた、スタジオジブリ最新作『君たちはどう生きるか』。レッドカーペットに潜入し、業界人や作品を観終えたばかりの一般観客にインタビューを行った。

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トロント国際映画祭での『君たちはどう生きるか』の反応は?レッドカーペットで関係者と上映後の観客に聞いた(動画あり)
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Courtesy of TIFF

北米最大の国際映画祭、第48回トロント国際映画祭のオープニング作品として宮崎駿監督の最新作『君たちはどう生きるか』が、9月7日(木)に上映された。

この上映は、本作における海外でのプレミア上映でもあることで注目を集めていたが、48回の歴史を誇る同映画祭のオープニング作品にアニメーション映画、さらに日本映画が選出されたのも初めてのことだ。宮崎駿の名前は、アニメーション界のみならず、映画界にも轟いていることがこの待遇だけでもよくわかる。

気になるのは現地での評価と反応だ。Brancは、同映画祭のレッドカーペットに潜入。本作の北米配給を担当するGKIDSのCEO・エリック・ベックマン氏と社長のデビッド・ジェステアト氏、スタジオジブリの西岡純一氏の肉声を聞くことができた。

ジェステアト氏(左)、西岡氏(中央)、ベックマン氏(右)

実写とアニメを違いなく楽しめる時代が来た

GKIDSはニューヨークを拠点とする映画配給会社で、アニメーション作品に特化していることで知られている。同社はこれまでにもスタジオジブリ作品だけでなく、『BLUE GIANT』や『THE FIRST SLAM DUNK』など多くの日本アニメーションを配給してきた。

日本映画、そしてアニメーション映画として映画祭のオープニングを飾るという快挙について聞かれたベックマン氏は、「大変光栄なこと。この映画をこのような大きな映画祭で観客と共有できることを嬉しく思う。トロントは豊かでバラエティに富んだ映画と素晴らしい観客がいる場所だ」とコメント。

またベックマン氏は、「宮崎監督の映画を紹介する立場でいることは、名誉なことであり、また大きな責任があることだ。宮﨑氏は唯一無二の才能の持ち主であり、スタジオジブリの仕事はどれも素晴らしい」とも語り、宮﨑監督の最新作に対して自信をのぞかせた。

同映画祭には、『君たちはどう生きるか』以外にも欧州の映画祭を湧かせた日本映画、『怪物(是枝裕和)』や『悪は存在しない(濱口竜介)』、『ほかげ(塚本晋也)』、『PERFECT DAYS(ヴィム・ヴェンダース)』に『大いなる不在(近浦 啓)』などが参加している。今年は海外映画祭での日本映画の活躍がここまで目立っているが、ジェステアト氏は「日本は素晴らしい映画文化を持っていると思う。その日本映画を紹介する立場で参加できることは光栄なことだ。是枝監督の『怪物』は楽しみ」と語った。

また、日本映画は、韓国など他のアジア諸国に押されている現状を受けてか、日本映画はどうすれば韓国映画や他のアジア諸国のようになれるかと問われ、ジェステアト氏は「私はいつも日本映画に驚かされてきた。若い世代の才能も台頭していると思う。どの世代も異なる作品を作るものだし、今後数年間、新たな素晴らしい作品に出会えると思っているので、心配はしていない」と日本映画のポテンシャルについて所感を述べた。

ベックマン氏も「多くの人は、新海誠や細田守、湯浅政明との比較をしたがるが、それぞれの映画作家は異なるセンスを持っているもの。日本の作家は自信を持って作品を作り、人生を楽しんでほしい」と新世代の映画作家に対してエールをおくった。

またスタジオジブリの広報担当、西岡純一氏もレッドカーペットに参加。西岡氏は、映画祭参加への感想を聞かれ、「ここに来られてとても光栄。実写映画とアニメーション映画の違いなく、みんなが(フラットに)楽しめる時代が来たんだと(実感している)」とコメント。実写映画中心の同映画祭でアニメーション作品がオープニングを飾ることの重要性が籠もったコメントだ。

また、話題が現在ハリウッドにおけるストライキの原因ともなっているAIに移ると、「この1年でAIが急速に発展していることは知っている。小説や画像、動画までAIで作れる時代になってきた。しかし、この映画を観てもらえればわかると思うが、宮崎駿が自分を削りながら、人間そのものを作っている作品だ。AIは集合知だから、宮﨑個人の作るものとは異なる。AIは確かにすごいが心配はしていない」と、本作にはAIに負けないクリエイティビティがあるという自負を示した。

一般観客の反応は?

トロント国際映画祭での『君たちはどう生きるか』のチケットは即完売になったと言われるほどの人気ぶりだ。チケットを確保できなかった人も大勢いるようで、そんな人たちの嘆きも聞こえてくる。ある女性は、ジブリ作品の大ファンで「特に『天空の城ラピュタ』が好き。美しい物語に力強い女性キャラクター、自然との調和など、こうしたストーリーは他の作品では観たことがありません」と語る。だが、チケットは取れず本作の鑑賞はかなわなかったようだ。

オープニング上映のチケットを確保できた男性は、「今年の映画祭で一番期待している作品」と言い、宮崎駿は「アニメーション界最大のビジョナリスト」だと言う。また、宮﨑氏の仕事に対するアプローチとパーソナリティにも惹かれているそうで、上映を心待ちにしている様子だ。

実際に本作を鑑賞した3人の男性客は、「本当に素晴らしい作品。宮崎駿の作品の中で最も深いレイヤーを持つ作品であらゆる感情が流れ込んでくるような鑑賞体験だった」と興奮気味に語る。また「非常にパーソナルな作品で、監督の育った環境がよくわかる。父親との関係など実体験に基づいているのだと感じた」と作品内容を明確に捉えたコメントもしていた。

また女性客の3人組は、「いくつかのキャラクターやシーンはこれまでの作品からの引用で、あのキャラクターは『千と千尋の神隠し』にもいたなとか、このシーンは『天空の城ラピュタ』に似ているなと感じた。素晴らしい鑑賞体験で物語の中にぐいぐいと引き込まれた」と感想を口にしていた。

総じて、アニメ界の巨匠のカムバックを歓迎する声と、その作品世界の深さ、宮崎監督の個人的な体験が反映されていることを実感した人もいて、作品内容が正確に伝わっている印象だ。また、レッドカーペットではハリウッドのストライキにちなんでか、AIに関する興味関心が聞かれたのも興味深い。手描きアニメーション作品はAI的なものと対極にあるものと捉えられているのかもしれない。

先日、トロント国際映画祭の観客賞が発表され、『君たちはどう生きるか』は3位の成績を収めた。同映画祭が実写映画中心であることを考えれば、この成績は快挙と言えるのではないか。

《取材:Tomohiko Nogi, Linda V. Carter  文:杉本穂高》

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