『君たちはどう生きるか』100億円への雲行きは?夏興行をどう生きるか

「宣伝ナシ」という前代未聞の広告手法で大きく注目を集めたスタジオジブリ最新作『君たちはどう生きるか』。興行収入100億円の大台に乗るには大作揃いの夏興行を乗り切るための施策も必要?

映像コンテンツ 興行収入

「宣伝ナシ」という前代未聞の広告手法で大きく注目を集めたスタジオジブリの最新作『君たちはどう生きるか』。

これまでスタジオジブリ作品は『ゲド戦記』以降、電通と博報堂の広告業界トップ2社が製作委員会として名を連ねており、宣伝面では最大限のアプローチを行ってきた。テレビCMやテレビ番宣はもちろん、企業タイアップやキャンペーンなど作品の認知や関心を高める活動は多岐に渡る。

しかし、本作はそのような宣伝手法を一切行わず、公開までの事前情報はポスター1枚という衝撃の動きに出た。スタジオジブリ単独出資であることから実現したこの手法は、プロデューサーの鈴木敏夫氏が「逆張り」と明言したように、情報過多な現代におけるアンチテーゼとも言える。

大ヒットスタートも、100億円確実とは言えない?

公開4日間では21.4億円を稼ぎ出し、『千と千尋の神隠し』を上回る大ヒットスタートを記録した。都会の映画館では満席となる映画館も続出し、『風立ちぬ』興収比150%となる記録であったことから100億円突破は確実との見方も多くあった。


やはり、この100億円というラインは、『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』を皮切りに大ヒット作品が続出していることや、宮﨑駿監督としても『もののけ姫』以降全ての作品がこのボーダーをクリアしていることから、重要になってくる指標。しかし、2週目にしてその達成に対し懐疑的な目を向ける意見も少なくない。

宮﨑駿監督作品としては『千と千尋の神隠し』以降初となる、2週目の首位陥落も大きいが、その意見の直接的な裏付けとなっているのは公開初週から2週目にかけての興収下落率だ。実際に数字を見てみると、初週の週末成績16億2,600万円から、2週目の週末成績は8億3,100万円と約49%ダウン

今年から週末興収の集計方法が「土日」→「金土日」に変わったことが多少影響しているとは言え、近年の作品で言えば『すずめの戸締まり』の17%、宮﨑駿監督作品で言えば『風立ちぬ』16%、『崖の上のポニョ』22%未満と比べた場合、かなり大きい落ち幅であることがわかる。映画.com 映画ランキング・映画興行収入

そのため、現時点で『風立ちぬ』(最終120.2億円)のペースを上回っていたとしても、今後もこの水準で数字が落ち込んでいった場合、追い抜かれる可能性は十分にある。

なぜ伸び悩み?2つのポイント

しかし、なぜ2週目で数字が伸び悩んでしまっているのか。そこには大きく2つ理由があると考えられる。

まず1つ目は、鑑賞者のレビューが賛否両論にハッキリと分かれてしまっていることだ。実際にYahoo!レビューを見てみると、星1/5の最低評価の割合が36%で最も大きく、星5/5の最高評価の割合が30%とそれに次ぐ結果に。ここまでハッキリと評価が分かれる作品はかなり珍しく、鑑賞するかどうかを決める判断材料が作品レビューしかないという現状において、否の意見が多いという事実は「満足できるという可能性の担保」がないため、踏み止まる人も多いと考えられる。

2つ目は、ファミリー層への訴求の薄さだ。ジブリ作品と言えば、『崖の上のポニョ』の来場者アンケートでは「家族と鑑賞した」という観客の割合が45.1%を占めるなど、ファミリー層向けのイメージが強い。しかし、本作は予告編すらないことから内容に対し不安を抱く家族層も多く、実際映画館には「子どもに見せていいのか?」と問い合わせも来ているという。

また客単価も1,620円と高い。確かにIMAXやDolby Cinemaなどの追加料金がある面は大きいが、その比較例として『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦』は1,290円、IMAXやDolby Cinemaより追加料金の高い4DX形態でも上映された『リトル・マーメイド』の客単価は1,544円だ。

さらに、公開2週目にして首位を奪取した『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』も中年層の動員が中心。そのため、同じ年齢層の客を取り合う形になってしまったこともかなりの痛手かもしれない。

夏興行をどう生きるか

7月も後半に差し掛かり、夏興行もついに本番。今週末は『キングダム 運命の炎』が公開され、その次の週は『しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦 ~とべとべ手巻き寿司~』『マイ・エレメント』『トランスフォーマー/ビースト覚醒』が控えるなど、邦画・洋画ともに作品が渋滞している状況。やはり今までのジブリ作品同様、お盆シーズンにかけての粘り強さが求められる。

100億円超えに向け安心できる状況でないというのは確かだが、邦画初となる「第48回トロント国際映画祭」のオープニング上映作品に決定するなど今後に期待できるような話題も出てきている。作品のエンドクレジットに予告編に関する表記もあったことから、今後夏休みに向け予告編を公開し、テレビCMを放映するなどより広い年齢層にアピールする可能性もゼロではない。


「宣伝ゼロ」という思い切った施策に対するこだわりも大事だが、幅広い年齢層に作品をアプローチし、機会損失を減らす上で“夏興行をどう生きるか”が今後の焦点になってくるだろう。

《タロイモ》

関連タグ

タロイモ

タロイモ

中学生時代『スター・ウォーズ』に惹かれ、映画ファンに。Twitterでは興行収入に関するツイートを毎日更新中。

編集部おすすめの記事