ソニーの映画事業が回復している。
2023年3月期の映画事業の売上高は前期比10.5%増の1兆3,694億円だった。コロナ禍を迎える直前の2020年3月期の売上高は1兆119億円だった。直近通期の売上高はコロナ前の数字を35.3%も上回っている。
営業利益は1,193億円で、前期と比べて45.2%も減少しているが、これは2022年3月期が特殊要因で大幅な増益になったことが影響している。中期的な推移で見ると、利益面でも堅調に伸びている。
ソニーの映画事業は「スパイダーマン」を中心とした強力なIPに支えられ、国内では「鬼滅の刃」のヒットでアニメーションにも勢いがついた。
ソニーがオンラインゲーム事業を売却した理由は?
2022年3月期が大幅な増益になった要因は2つある。1つはクイズ番組などを制作するアメリカのゲーム・ショー・ネットワークのオンラインゲーム事業を1,100億円で売却したこと。譲渡益は650億円程度と見られている。もう1つは1990年代にアメリカで大ヒットしたコメディー番組「Seinfeld(となりのサインフェルド)」全180話分の契約をNetflixと結び、2021年から配信を開始して権利料が入ったことだ。
2023年3月期の営業利益は1,193億円で、2020年3月期と比較すると1.7倍に伸びている。

※決算説明資料より
ゲーム・ショー・ネットワークはモバイルゲームを主軸として成長した会社だ。ゲーム事業の売却は業界内でも驚きを持って迎えられたが、2023年3月期が増収、2024年3月期は増収増益を見込んでいることから、結果としてその判断は奏功したと言えるだろう。
ソニーは2023年5月18日の経営方針説明会にて、ソニーの存在意義「パーパス(purpose)」を「感動」と定めている。それを構成する要素の一つに「クリエイティブ」の強化を掲げた。

※経営方針説明会資料より
クリエイティブの強化とは、映画事業でいえばIPの強化という一言に尽きる。ソニーは半導体ファウンドリーのTSMCが建設を進めている熊本の半導体工場に出資をしている通り、半導体事業を強化している。その背景として、自動車の自動運転化が進んでエンタメ空間(余暇時間)が拡大することがある。
ソニーは半導体で消費者の新生活をハード面で支え、映画、ゲーム、音楽はソフト面でそれを支えるという構想がある。人を惹きつける映画には、強力なIPが不可欠だ。ゲーム・ショー・ネットワークのゲーム事業はカジノなどのオンラインゲームが主軸で、IPとしての存在感は薄い。事業を切り離した要因として、経営戦略と合致しなかったことも挙げられるだろう。
実写とアニメの二毛作を成功させたスパイダーマン
次に映画事業の部門別売上高の推移を見て行こう。
2022年3月期3Qに映画製作部門が急速に数字を伸ばしている。これは2021年12月17日に全米で公開された『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』の影響が大きい。この映画は3日間で興行収入288億円を突破。全世界での累計興行収入は2,000億円を超えた。全米での歴代興行収入では第3位となったメガヒット作品だ。

※補足資料より
コロナ禍においては『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』が興行収入でトップに立っていたが、スパイダーマンはそれを上回っている。日本では興行収入が40億円を超えた。スパイダーマンはソニーを代表するIPの一つだ。
2023年6月2日にはアメリカで『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』が公開されている。公開から3日で興行収入は78億円を超えて好スタートを切った。この作品はアカデミー賞長編アニメーション賞を受賞した『スパイダーマン:スパイダーバース』の続編だが、オープニングの成績は『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』が3倍も上回っている。
『スパイダーマン:スパイダーバース』は動画配信サービスで視聴できる。巣ごもり時に前作を視聴してファンになったという人も少なくないだろう。映画を取り巻く環境は日常を取り戻した。続編を公開するタイミングとしては、最適だったと言えるだろう。
ソニーはスパイダーマンという強力なIPを実写とアニメに切り分けた。IPの活用という観点において、その2つを両方とも成功させた意味は大きいだろう。
鬼滅の刃はドラゴンボール化することができるか?
2023年3月期3Qからは、テレビ番組制作も好調だ。