株式会社IMAGICA GROUPは、創業90周年の節目となる2025年に自社初となる「オリジナル映画製作プロジェクト」を発足させた。その第1弾作品に、寺田ともか監督による『マリア』が選ばれたことを第78回カンヌ国際映画祭の会期中に発表した。
本プロジェクトは、IMAGICA GROUP内から映画企画を公募し、国際映画祭での出品や受賞を見据えた1作品を毎年選出・製作するという取り組みで、今後5年間にわたって継続される予定だ。
本企画のポイントは、新たな才能を発掘し、オリジナル企画を実現していこうという点にある。同社代表の長瀬俊二郎社長は、社会課題を描く作品や独自の芸術表現を作るには、日本においては高いハードルがあると指摘。本プロジェクトは映像文化の多様性を広げるための挑戦だと語る。
Brancは、審査員を務めた是枝裕和監督と東京国際映画祭プログラミング・ディレクターの市山尚三氏、プロデューサーを務める株式会社オー・エル・エム(以下OLM)所属の土川はな氏と寺田ともか監督にカンヌの地で、本プロジェクトの意義と意気込みについて話を聞いた。
新人監督の挑戦の道を切り開く突破口に
――みなさんは、今回の企画を聞いて率直にどうお感じになりましたか。
市山:今の日本映画業界は、有名な原作がないと企画が成立しにくい状況の中、オリジナル脚本に対して、しかも新人監督の作品に予算を出すというのは素晴らしいことです。例えば、助成金などは多くても全体予算の50%くらいまでと上限が決まっているわけで、全額出してもらえるわけじゃありません。それ以外の予算はどこかから集めないといけませんから、今回のようなケースの支援事業はなかなかありません。そのためのお役に立てるならと喜んで引き受けました。
是枝:民間企業で、新人発掘にきちんとお金を出してくれて、しかも5年継続してやるというのはなかなかないことです。「待ってました」という気持ちでした。長瀬俊二郎社長は恩返しという言葉を繰り返し使われていたのが印象に残っていて、覚悟を持ってやっていらっしゃることが伝わってきました。次世代に何かを残すために業界内から行動を起こす方が出てきたことに勇気づけられました。
今回クローズドに募集したにもかかわらず88本の企画が集まったということは、それだけ新人監督の挑戦の道が閉ざされているということの裏返しでもあると思うので、この企画が突破口になってほしいと思っています。
市山:こうしたプロジェクトは1回きりで終わってしまうことも多いのですが、5年かけて選出して5本作ると明言されている。これもなかなかないことです。
――カンヌ国際映画祭でこの企画を発表する意義についてはどうお考えでしょうか。
市山:今年、日本映画がこんなにたくさん選ばれるとは思っていませんでしたが、カンヌにはたくさんの記者も集まるから良いと思いましたね。
是枝:今年は次の世代の作家がたくさん選ばれている中、この企画はさらにその後に続く人を発掘する狙いですから、本当に良い発表の場をいただいたと思います。