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先月、マーベル・スタジオを突然解雇された元制作部門トップ、ヴィクトリア・アロンソ氏が、その退職をめぐって親会社のウォルト・ディズニー・カンパニーと和解に至った。
米IndieWireによれば、公式な和解条件の詳細は開示されていない。しかし、米Varietyなど複数の主要メディアは、アロンソ氏に対して「数百万ドル(数億円規模)」の和解金が支払われたと報じている。長年マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)を支えた功労者との泥沼の法廷闘争は、巨額の解決金によって回避された形だ。
今回の解雇劇をめぐっては、ディズニー側とアロンソ氏側の主張が真っ向から対立しており、その背景には複雑な事情が見え隠れする。
ディズニー側の主張する「表向きの理由」は、契約違反だ。アロンソ氏は、Amazon Studiosが配給しアカデミー賞にもノミネートされた映画『アルゼンチン1985 ~歴史を変えた裁判~』のプロデューサーを務めた。ディズニー関係者がIndieWireに語ったところによると、競合スタジオでの制作活動は2018年の雇用契約に含まれる「独占条項」への明白な違反であり、再三の警告にもかかわらず彼女が宣伝活動を続けたことが解雇の決定打になったという。
一方、アロンソ氏の弁護士パトリシア・グレイザー氏は、この主張を「全くもって馬鹿げている」と一蹴。「彼女はディズニーの許可を得ていた」とし、解雇の真因は、彼女が会社の方針に逆らって発言したことに対する「口封じ」であると主張した。
では、アロンソ氏が沈黙を強いられたという「真因」とは何だったのか。Varietyが入手した情報筋の話によると、最新作『アントマン&ワスプ:クアントマニア』におけるLGBTQ表現の削除要請を、アロンソ氏が拒否したことが引き金になったという。
具体的には、クウェートなどLGBTQの権利に厳しい国での上映に際し、ディズニー幹部が劇中の「レインボーフラッグ(虹色の旗)」などが映るシーンの削除やぼかし処理を求めたが、アロンソ氏はこれを拒絶。この対立が、彼女の「不服従」とみなされた可能性がある。
これに対し、ディズニーの広報担当者はVarietyに対し、「アロンソ氏側が、明白な契約違反などの重要な要素を省いた物語を拡散していることは残念だ」と反論している。
アロンソ氏は、スタジオチーフのケヴィン・ファイギ氏に次ぐ実力者として、長年スーパーヒーロー作品における多様性(リプレゼンテーション)を推進してきた。しかし、近年のマーベル・スタジオは、Disney+向けドラマシリーズの大量生産に伴い、制作体制に歪みが生じていたことも事実だ。
2022年頃から、VFX(視覚効果)アーティストに対する過酷な労働環境や無理な納期が問題視され、ポストプロダクション部門の責任者であるアロンソ氏への批判が高まっていた。最新作『クアントマニア』においても、VFXの品質低下が批評家やファンから指摘されており、興行収入も伸び悩んでいる。
今回の解雇は、契約違反や政治的対立に加え、こうした制作現場の混乱に対する事実上の引責人事という側面もあったのかもしれない。


