大ヒット確実の時代終焉?スーパーヒーロー映画に立ち込める暗雲

アイアンマン、スパイダーマン、バットマン…数々のスーパーヒーローは幾度となく世界を救ってきた。

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D23 Expo 2022
Photo by Jesse Grant/Getty Images for Disney D23 Expo 2022
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アイアンマン、スパイダーマン、バットマン…数々のスーパーヒーローは幾度となく世界を救ってきた。

アメコミファンだけでなく、多くの映画ファンを熱狂させてきたスーパーヒーロー映画はもはや今の映画界において大黒柱とも言える存在となっている。

その中でも特に人気を集めているのはマーベル・コミックスのヒーローが登場し、同じ世界観を共有する、マーベル・シネマティック・ユニバース、通称MCUのシリーズ作品だ。

シリーズ累計の興行収入は280億ドル(3兆円以上)に上り、今や史上最大の映画シリーズとなっている。新作を公開するたびに歴史的ヒットを記録し、その中でも2019年に公開された『アベンジャーズ/エンドゲーム』は全世界興収27億9,943万ドル(約3,000億円)を超え、映画史にその名を刻む大ヒットとなった。

さらに昨年も『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』が大ヒットを記録し、全世界累計興収は19億ドル(約2,500億円)とコロナ禍でも安定してヒット作品を誕生させてきた。

このようにMCUを始めとしたスーパーヒーロー映画は映画界におけるブロックバスター的存在として今後もその人気を半永久的に持続させていくものと思われた。だが、ここ最近ではその人気にも不穏な暗雲が立ち込めている。

ファンから聞こえる「スーパーヒーロー疲れ」の声

数多くのスーパーヒーローが同じ世界観を共有するというマーベル・シネマティック・ユニバース(以下、MCU)。このユニバース構造は当時の映画シリーズとしてはとても画期的なもので、それぞれ単独作品を持つヒーローが一堂に会するワクワク感を味わえるのが、単なる続編や前日譚とは違う面白さがあった。

2008年の『アイアンマン』から始まったMCUシリーズは今年で15年目を迎え、映画とドラマなど全て含めた数はその数50作を超える。そして、今後もアベンジャーズの5作目に向けて毎年多くの新作が公開される予定だ。新規ファンの獲得こそ厳しいが、長年付いてきている固定ファンを信じての方針となっている。

しかし、最近ではその固定ファンの間でもシリーズを追うことに疲れを感じる声を聞くようになってきた。というのも近年のMCUは作品の公開スパンが急激に短くなっており、1、2ヶ月に1本、映画またはドラマなどの新作が公開されるペースとなっていた。今までは4ヶ月に1本映画が公開されるペースであったことを踏まえると、供給スピードが大きく異なる。そんな中、MCUファンに向けて取ったアンケートでは36%が「シリーズ疲れを感じる」と回答。つまり3人に1人は作品に対する興味がだんだんと薄れているということになる。


しかし、それでも昨年は『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』『ソー:ラブ&サンダー』『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』などMCUシリーズは立て続けにヒットを連発。『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』まで映画の興行成績において苦しい状況が続いていたディズニーにとっては、安定してヒットを叩き出すシリーズとして必要不可欠な存在だった。

このように2022年の段階では一部で「スーパーヒーロー疲れ」の声はあったものの、興行成績が順調であったため今後への不安はあまり感じられなかった。しかし、暗雲は2023年の1本目『アントマン&ワスプ:クアントマニア』の数字に突如として現れた

2023年2月に公開された本作はオープニング成績こそシリーズNo.1のスタートを記録するも、2週目の週末成績が初週から70%ダウン。これはMCUで最も大きい下落率で、その後も数字が伸び悩んだ。現時点の全世界興収は4億7,400万ドルで、これはコロナ禍に公開された『ブラック・ウィドウ』『シャン・チー/テン・リングスの伝説』『エターナルズ』を除けば、過去11年でワーストの興行成績となる。米批評サイトRotten Tomatoesの批評家支持率も47%と映画シリーズの中では最低スコアとなった。

さらに今作は新たなアベンジャーズ作品に向けたMCUフェーズ5の序章的な立ち位置の作品で、普段の作品よりシリーズ全体における重要度は高い作品でもあった。つまりここで興行失敗となると、2025年公開予定のMCU集大成でもあるアベンジャーズ最新作『アベンジャーズ:ザ・カーン・ダイナスティ(原題) 』への不安は募るばかり。

そして、今後のMCUの鍵を握るヴィラン「征服者カーン」を演じるジョナサン・メジャース逮捕の事件はこの局面にさらなる追い討ちをかけた。このキャラクターは『アントマン&ワスプ:クアントマニア』にも登場し『アベンジャーズ:ザ・カーン・ダイナスティ(原題) 』でも強大な敵として立ちはだかるとされている。2023年3月25日に30代の女性に暴行を加えたとして逮捕されたジョナサン・メジャース。後に被害者の女性が告発を取り下げ、事件は落ち着いたと思われていた。しかし、新たに複数の女性が虐待の被害者として声をあげており、マネージメント事務所からの契約解除や、出演広告の取り下げなど状況は悪化している。

ジョナサン・メジャース

さらにはディズニーCEO交代の影響で、作品制作の方針が大幅に変更され、MCU作品の公開ペースが遅れることが発表された。


『マーベルズ』は2023年7月から11月に延期、ドラマシリーズも今年は5本配信される予定だったが、The Hollywood Reporterによると今年は『ロキ』シーズン2と『シークレット・インベージョン』の2本のみである可能性が高いとの報道もある。

作品スケジュールの変更は興行成績やDisney+の不調や、シリーズ疲れの声を汲み取ったものとも推測できるが、果たして『アントマン&ワスプ:クアントマニア』の興行不調は必然的なものだったのだろうか。MCUシリーズは来月5月に最新作『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』の公開を控えるが、ここでの成績が今後のMCUの行く末を占う上ではとても重要になるだろう。

DCも新体制で改革を目指す

スーパーマンやバットマンで知られるDCスタジオも2013年の『マン・オブ・スティール』を皮切りにMCUを模倣する形でユニバース展開(DC・エクステンデット・ユニバース=DCEU)を開始。その後も『バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生』『ワンダーウーマン』『ジャスティス・リーグ』などキャラクターのクロスオーバーを意識した作品制作が続いた。しかし、MCUのような大ヒットを安定して飛ばすことができず、特にDCヒーローの集結した『ジャスティス・リーグ』は5,000万ドルから1億ドル(約134億円)の赤字損失の可能性をForbesが報じていた。


《タロイモ》

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中学生時代『スター・ウォーズ』に惹かれ、映画ファンに。Twitterでは興行収入に関するツイートを毎日更新中。

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