東宝が描く2032年へのロードマップ:アニメ事業倍増とゴジラIP展開で世界市場を攻める【中期経営計画2028】

東宝が2032年に向けて「中期経営計画2028」を発表。アニメとゴジラIPを重点事業として、海外展開を強化し、投資を約1,600億円行う。自社製作映画の増加や新規拠点設立も目指す。

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東宝中期計画2028
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東宝株式会社は創立100周年を迎える2032年に向けた「中期経営計画2028」を公表した。計画では映画、IP・アニメ、演劇、不動産の“四本柱”を軸に3年間で約1,600億円を投資し、海外売上比率30%達成を掲げる。特にアニメとゴジラIPを成長ドライバーに位置づけ、大規模な資金と人材を投入する方針だ。


【映画事業】自社製作を年10本体制に拡充、劇場網も拡充

映画部門は「自社企画・製作の推進」を中核に、2032年までに自社製作本数を現行の2倍となる年約10本へ増強す、海外グループとの連携で“世界発信型”の日本実写企画を開発する。​​TOHO NEXTレーベル(演劇・音楽・スポーツ等)も拡充させ、新規開拓も促進していき、グループ年間興収1,000億円超を恒常的に目指すという。

また、アニメについては海外展開が盛んだが、実写映画は後れを取っている現状を鑑みてか、映画事情部にグローバル企画専門部署を設置し、世界へ届ける企画開発を促進するとしている。

劇場網も拡充させる。東京・大井町と名古屋・栄で2026年に新館を開業し、IMAXやDolby Cinemaなど特殊スクリーンを拡充させていくという。

【IP・アニメ事業】人員倍増で年間30クール体制──営業利益を200%引き上げ

アニメ部門はTOHO animationの人員を120人へ倍増、年間放送本数を14クールから30クールへ拡大する。2028年度までに営業利益を2025年度比200%以上に引き上げ、海外拠点の拡充でグローバル展開を加速。EC・ファンビジネス強化やゲーム化推進も盛り込み、コンテンツ多面展開による収益最大化を図る。​​

■注目トピック① アニメ事業の海外戦略

ニューヨーク、ロサンゼルス、シンガポールに続き欧州拠点を新設。現地ライセンス機能を内製化し、世界中のファンとダイレクトにつながる体制を構築していき、海外売上比率を現在の約10%から30%へ高めることが最終目標だ。​​

■注目トピック② ゴジラIPを“映像からIPビジネス”へ進化

ゴジラには3年間で約150億円を投下。山﨑貴監督による新作映画に加え、コンソール/モバイルゲーム、東京・渋谷など新店舗を含む「ゴジラ・ストア」の拡大、アトラクションやグッズを展開し、マルチユース化でブランド価値を高める。新会員サービスTOHO‑ONEとも連携し、ファンとの接点を深化させる計画。​​

【演劇事業】帝劇休館期を外部劇場と多様な料金で補填

2027年まで休館する帝国劇場の代替として外部劇場での主催公演を増やし、チケット価格の多段化とライブ配信を導入。『千と千尋の神隠し』海外ライセンス継続に加えて、他作品の海外ライセンス公演も積極的に展開していくとしている。また、海外出資で作品調達力を高め、新・帝国劇場開業後のラインナップ強化へつなげる。​​

【不動産事業】帝劇ビル再開発を軸に資産効率を最適化

不動産部門は「帝劇ビル」再開発を推進しつつ、物件の選択と集中で資産効率を高める。新規物件取得は抑制し、既存物件の賃料改善と低稼働物件の売却を実施。安定収益を維持しながらエンタテインメント事業の成長を下支えする。​​

新しい会員サービス“TOHO-ONE”、2026年春にローンチ予定

東宝は、新たな会員サービス「TOHO-ONE」を来年春に開始予定。「つながる楽しさ、広がる世界」をコンセプトに、東宝グループの顧客接点を単一IDに集約する“統合データ基盤”だという。映画館、配信、物販、舞台、ゲームで得たあらゆる行動データをリアルタイムで蓄積し、ファンの“好き”を可視化。作品開発やマーケティングへダイレクトにフィードバックし、新たなヒット創出サイクルを狙うとしている。

人材教育に積極投資

東宝は「精鋭多数」の人材戦略で3年間に約200名を採用し、一人当たり教育研修費を300%に引き上げる。特に、特にコンテンツ・IP、デジタル、海外領域の人材獲得に注力していくという。

全体として、強気にグローバル市場を開拓していく意思が表れた計画で、特に第4の事業の柱として掲げられたアニメ・IP領域にかかる期待の大きさが伺える内容と言える。目標として掲げられたもののうち、テレビアニメを現状の年間14クールから30クールへと引き上げるには、さらなる制作スタジオの拡充とスタッフの確保が必要となる。近年、東宝はサイエンスSARUなどアニメスタジオを買収して傘下としてきたが、この強気の計画を見る限り、今後も同様の動きがあるかもしれない。

《杉本穂高》

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杉本穂高

映画ライター 杉本穂高

映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。

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