アニメ制作会社プロダクションI.GやWIT STUDIOなどを傘下に持つ持株会社IGポートは、2025年5月期第3四半期(2024年6月1日~2025年2月28日)の連結決算を発表した。売上高は前年同期比32.9%増の109億6,913万円、営業利益は同47.4%増の12億3,826万円、経常利益は27.9%増の12億4,157万円となった。一方、親会社株主に帰属する四半期純利益は7億1,362万円で、前年同期比11.2%の減益となった。
映像制作事業:売上は堅調も損失拡大
主力の映像制作事業は、売上高が前年同期比16.1%増の52億9,846万円と伸長したものの、営業損失は8億1,322万円と前年の4億1,971万円から拡大した。
テレビアニメ『真・侍伝YAIBA』『怪獣8号 続編』『SPY×FAMILY Season 3』などの制作が進行する一方で、制作期間の長期化や人件費・CG制作費の高騰が収益を圧迫した。加えて、背景美術・撮影・CGモーションキャプチャ部門の受注不振も響いた。改善策として、子会社シグナル・エムディをプロダクションI.Gと2025年6月に合併し、管理部門の共通化によるコスト圧縮を目指す方針を示している。
出版事業:刊行スケジュールの後倒しで減収減益
出版事業は、売上高が16億9,791万円(前年同期比6.3%減)、営業利益は3億5,822万円(同27.3%減)となった。月刊誌『コミックガーデン』のほか、『転生貴族の異世界冒険録』『リィンカーネーションの花弁』『魔導具師ダリヤはうつむかない』などの既刊タイトルが堅調に売上を支えたものの、刊行スケジュールの変更や新規作品の販売伸び悩みにより、電子書籍売上が約4%減少。電子書籍の売上構成比は全体の83%に達している。
版権事業:出資作品が収益を牽引
売上高が34億7,167万円(前年同期比109.2%増)、営業利益が17億0,556万円(同93.2%増)と、大幅な増収増益となったのが版権事業である。『ハイキュー!!』『怪獣8号』『進撃の巨人』『SPY×FAMILY』といったIPが、国内外での商品化・配信・ライセンス収入を拡大させた。特に『ハイキュー!!』劇場版の興行およびグッズ販売が収益を押し上げた。
また、自社100%出資の映像作品については映像制作部門ではなく版権事業にライセンス収入として一括計上されるため、実質的な制作利益は版権部門に現れる構造となっている。映像制作部門では赤字拡大が続くが、それを版権事業で取り戻すという事業サイクルが確立されていると言える。
その他事業:商品化事業が収益化フェーズへ
その他事業は、売上高5億0,107万円(前年同期比127.1%増)、営業利益9,591万円(前年同期は749万円の損失)と黒字転換を果たした。自社商品の投入強化やイベント展開によって、I.G STOREやアニメイトなどでの物販売上が伸長。ネット売上からグロス売上への計上方法の変更も影響している。2025年5月期通期では約10億円の市場売上を見込んでおり、主たる収益の多くは第4四半期に計上される予定である。
通期予想は据え置き、版権事業の好調が下支え
同社は2025年5月期の通期業績予想を据え置き、売上高129億9,300万円(前期比9.7%増)、営業利益17億3,700万円(同41.8%増)、経常利益17億1,800万円(同24.5%増)、純利益11億1,600万円(同3.6%減)を見込む。
映像制作・出版の一部で計画下振れが見込まれるものの、版権事業の収益上振れがそれを補う形で、業績全体の堅調な推移が期待されている。
「トランプ関税」の影響:北米展開は見直しも、版権収入への直接影響はなし
また、「トランプ関税」の自社事業への影響についても言及している。「版権収入には関税がかからないため、トランプ関税による直接的な影響はない」と明言。アニメビジネスの中核であるライセンス契約は、主に知的財産の利用許諾に基づくものであるため、物理的な輸出入に伴う関税の対象外となる。一方で、グッズを中心とした海外商品販売事業については、現状では中国や東南アジアが主要販路となっていることから「影響は受けていない」としつつも、今後展開を増やそうと考えていた北米市場に対するスキームの見直しを行っているという。
むしろ、マクロ経済悪化による可処分所得の減少による間接的影響の方が懸念が大きいと認識しているようだ。
今後の戦略コンテンツは『春夏秋冬代行者 春の舞』
また、同社は今後の作品展開として『春夏秋冬代行者 春の舞』を戦略コンテンツとして挙げている。本作は『ヴァイオレット・エヴァ―ガーデン』の原作者・暁佳奈の小説をテレビアニメ化する作品で、WIT STUDIOが制作する注力作品とのこと。過半数近い割合で出資参画しており、版権収入の拡大を狙う作品として位置付けているとのことだ。