ハリウッドを襲う試練:ロサンゼルス山火事がもたらす映画産業への影響

ロサンゼルスで起こった大規模な山火事は、ハリウッド映画業界に新たな試練を突きつけている。現地で映画企画・製作を行う筆者が現地の様子をレポートしていく。

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ハリウッドを襲う試練:ロサンゼルス山火事がもたらす映画産業への影響
Photo by Brandon Bell/Getty Images ハリウッドを襲う試練:ロサンゼルス山火事がもたらす映画産業への影響

現地時間2025年1月7日に発生し、2週間が経った今も完全鎮火に至っていないロサンゼルス大火災は、ハリウッド映画業界に新たな試練を突きつけている。

コロナパンデミックからの回復途上にあった業界は、再び想定外の混乱に直面することとなった。映画制作が集中するロサンゼルス地域の多くが避難地域に指定され、物理的なロケーションが封鎖される状況に陥っている。

映画の夢を焼き尽くした炎:業界の仕事は戻ってくるのか

2023年初頭、コロナ禍の影響が残るとはいえ人々も映画館に戻り始め、ハリウッドもやっと平常を取り戻してきたかという矢先だった。全米映画俳優組合(SAG-AFTRA)と全米脚本家組合(WGA)のダブルストライキが起き、1年の大半を棒に振った。2024年に入り、それに追い打ちをかけるように物価が高騰。映画業界への税控除が格段に低いカリフォルニア州では、制作コストの上昇からプロダクションが州外へ流れ始め、現場制作関係の仕事数が大きく減っていた。


そして今回の大火災である。ハリウッドの仕事不足が加速しており、特に現場クルーや技術スタッフの間での失業率の上昇が深刻だ。火災が発生して以降、多くの現場が煙の影響による空気汚染や、続く火災リスクのために閉鎖を余儀なくされている。特にロサンゼルス郊外で撮影が頻繁に行われていた箇所では、主要ロケーションが焼失し、数十のプロジェクトが中止または延期となった。エージェンシーやスタジオの上層部でも、新作のアイデアをプレゼンするミーティングがいくつもキャンセルされ、新作製作への影響も大きい。 

現場の仕事を直撃する火災の影響

The Hollywood Reporterによると、映像製作スタッフの組合IATSEは組合員のおよそ8,000人近くが避難勧告地域に住んでおり、その一部は、家屋消失の憂き目に遭っていると発表している。

製作スタッフの中でも、特に影響を受けているのは日雇いベースで働くフリーランスの技術者やスタッフである。映画賞シーズンの真っ只中であるハリウッドにとって今回の大火災は、受賞前イベントの中止や授賞式そのものの延期・中止を引き起こすこととなり、何百という関係スタッフたちの仕事が土壇場キャンセルとなった。

こういった現状から、シビアな決断を迫られる映画関係者も少なくない。度重なる自然災害、物価と家賃の異常高騰などから、断腸の思いで州外或いは国外に引っ越す人たちもいる。特にロサンゼルスは、米国の他の地域よりも格段に物価が高い。このまま不安定な映画業界でロサンゼルスに住んでいても、貯金はおろか来月の家賃も医療費も払えなくなるかもしれない、というストレスとの戦いになるのは目に見えているからだ。

インディペンデント映画業界への余波

火災による道路閉鎖や物流網の混乱は、制作進行の妨げにもなっている。セット建設に必要な資材や撮影機材の配送が滞り、時間とコストの負担が増加している。これは特に資金面で脆弱なインディペンデント映画製作にとって死活問題だ。


《神津トスト明美/Akemi K. Tosto》
神津トスト明美/Akemi K. Tosto

映画プロデューサー・監督|MPA(全米映画協会)公認映画ライター 神津トスト明美/Akemi K. Tosto

東京出身・ロサンゼルス在住・AKTピクチャーズ代表取締役。12歳で映画に魅せられハリウッド映画業界入りを独断で決定。日米欧のTV・映画製作に携わり、スピルバーグ、タランティーノといったハリウッド大物監督作品製作にも参加。自作のショート作品2本が全世界配給および全米TV放映を達成。現在は製作会社を立ち上げ、映画企画・製作に携わりつつ、暇をみては映画ライター業も継続中。

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