賀来賢人、大沢たかおら日本の俳優がNetflixやAmazonと組んでプロデュース業に参入:日本のエンタメ産業に新しい風

賀来賢人や真田広之がプロデュース・主演を務めた作品が国内だけでなく、海外市場でもヒットし、新しい風が吹いている。そのほかにも、グローバル配信プラットフォームと俳優が直接タッグを組み世界市場に挑むケースが増えてきている。

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賀来賢人、大沢たかおら日本の俳優がNetflixやAmazonと組んでプロデュース業に参入:日本のエンタメ産業に新しい風
Photo by Matt Winkelmeyer/Getty Image 賀来賢人、大沢たかおら日本の俳優がNetflixやAmazonと組んでプロデュース業に参入:日本のエンタメ産業に新しい風
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俳優の賀来賢人が新会社「映像制作会社 SIGNAL181」を設立した。

ハリウッドでは、ブラッド・ピットなど多くの俳優が自らのプロダクションを持ち、作品のプロデュースまで担うことは決して珍しくないが、日本の俳優で制作会社を起こすのは異例のことだ。

彼の新会社設立の背景には、彼が原案とエグゼクティブプロデューサーと主演を兼任したNetflixのオリジナルシリーズ「忍びの家 House of Ninjas」の世界的成功がある。俳優が自ら企画を立案しプロデュースすること自体、日本では珍しい。しかも、その作品が国内だけでなく、Netflixの非英語部門のランキングで上位に組み込むなど、海外市場でも大きな評判となっている。

賀来賢人だけでなく、大沢たかおはAmazonプライム・ビデオと組んでかわぐちかいじのマンガ「沈黙の艦隊」の実写ドラマをプロデュース。こちらも大きな評判を呼び、すでに続編の制作が決定している。Netflixも次は、岡田准一プロデュースの「イクサガミ」と、佐藤健がエグゼクティブプロデューサーを務める「グラスハート」を発表するとしている。

グローバル配信プラットフォームと俳優が直接組んで世界市場に挑むケースが続々と出てきているのだ。この傾向が日本の映像産業と芸能界に大きな変化をもたらす可能性があるかもしれない。

俳優たちが相次いでグローバル企業と組んでプロデュース

「忍びの家 House of Ninjas」は、アメリカ人監督のデイヴ・ボイルと賀来賢人が共同で企画した作品だ。本作は、日本を含む世界16の国と地域で一位を獲得し、二週目にはグローバルトップ10の非英語部門で一位を獲得するなど、世界で大きな評判を呼んでいる。

内容は、現代に生きる忍びの末裔一家の戦いを描くもので、忍者の体術と特殊能力を活かして戦う内容で、海外における「ninja」のイメージを敢えて踏襲した点が世界的に受けた要因だろう。

昨今、日本国内でここまで奇想天外な忍者像を振り切って描く作品は珍しい。国内では忍者という題材はむしろ、使い古された題材と思われているのか、企画されること自体が少ないがゆえに、この成功には大きなインパクトがあったのではないか。企画立案者である賀来賢人はインタビューで「忍びというカルチャーがおざなりになっていて、日本人が冷めた感覚になっているのがもったいない」と感じていたことが企画の発端にあったという。

冷めた目線で忍者を見ていた国内の企業から、この企画はなかなか出てこない発想だったと言えるかもしれない。国内の企業では成立が難しかったネタを、俳優がグローバル企業会社と組んで実現させ、成功に導いたわけだ。

注目すべきは、Netflixは同様に岡田准一や佐藤健とも組んで、これから新作を発表していく予定をすでに公表しているということ。これは一過性の特別なことではなく、同社としては今後も優れた役者の能力を活かせる企画があれば推進していくつもりなのだろう。

Netflixだけでなく、Amazonは大沢たかおがプロデュースした「沈黙の艦隊」を配信し、続編の制作もすでに決定している。いずれの作品もプロデュースした俳優本人が主演を務めており、自身のクリエイティビティを存分に発揮していると思われる。

注目すべきは、みな一様にグローバルな配信プラットフォームと組んでいることだ。こうした事例がなぜ日本のテレビ局や映画会社からは出てくることが少ないのだろうか。

実際に、俳優が作品をプロデュースする事例が、国内になかったわけではない。例えば、山田孝之は藤井道人監督の『デイアンドナイト』をプロデュースしているし、小栗旬や斎藤工が自身で企画を立て、自ら監督したケースもあった。ただ、いずれもインディペンデントな領域での実現となっている。日本では、映画やドラマが俳優ありきで企画されることは多くても、俳優自身が企画をプロデュースする例は米国に比べると少ない。それは、おそらく日本の芸能界のシステムと米国のシステムの違いによる面も影響していると思われる。

日本では、タレント個人よりも芸能事務所の力が強いとされており、個人の意向でやりたい企画を実現する環境はそう多くないと言える。公正取引委員会の資料でも、日本の芸能事務所は中央集権的で、米国ではエージェント制が主流で自立分散型のシステムで俳優自身の力が強いと指摘している。プロデューサーとしても辣腕をふるう俳優が米国に多いのは、そうした芸能システムの制度の違いも背景にあるだろう。

昨年、大きな関心の的となった旧ジャニーズ事務所の騒動は、中央集権的な日本の芸能界の制度を浮き彫りにすることとなったが、そのあり方が崩れてきていることの証左でもある。


《杉本穂高》

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映画ライター 杉本穂高

映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。

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