一般社団法人日本アニメフィルム文化連盟(NAFCA)が、2023年12月4日~2024年1月31日にアニメ業界従事者を対象として行った実態調査の結果を発表した。
本調査は「低収入・長時間労働」などアニメ業界におけるイメージの実態を改めて確認・把握を行うことで、今後の政策提言等に活かすために実施された。今回の結果報告ではプリプロダクション、およびプロダクション工程の職種にしぼられており、働き方が他職種と一線を画すことが確認された声優については今後特化した調査が予定されている。
職種別の有効回答数を見ると全体の59%(191人)がアニメーターであり、次いで多かったのが44人の演出、35人の制作関係で、その後キャラ・メカデザイン(27人)、プロップ・衣装デザイン(23人)、声優(23人)、監督(20人)、仕上げ(15人)、美術(14人)、撮影(11人)、CG(11人)、音響関係(10人)、シナリオライター(4人)と続いた。
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労働時間の中央値は225時間、4人に1人が年収240万円以下
まず労働時間の項目を確認すると、全体の71.4%が1日8時間以上、30.4%が10時間以上働いていると回答していると共に、平均的な1ヵ月における休日は58.8%が6日未満であると回答。これらを元にアニメ業界従事者の月間平均労働時間を計算したところ、平均が219時間、中央値では225時間、最大値は336時間働いているとの結果が明らかになった。これは、日本全体の平均月間労働時間162.3時間と比べても非常に長い。
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続いて収入面で見ると、全体の37.7%がアニメ関係からの仕事が月収20万円以下、つまり年収240万円以下であると回答。アニメ業界以外の仕事には77.6%が「現在は従事していない」「従事したことがない」と回答しており、業界全体の4人に1人程度は年収240万円以下で生活しているとの結果になった。また、最終学歴と収入の相関関係を見ていくと、高卒者と大学院修士課程修了者がさほど変わらない収入であることから、学歴よりも実力が重要視される業界であることが改めて裏づけられた。
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また、業界に関する知識をどこから学んだかという問いには世代間による大きな違いが表れた。現在の30代以上の年代では先輩や上司など職場でのつながりで仕事を覚えているのが、30代未満ではその割合が減り、独学や学校、会社の研修の比率が増えている。
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次にハラスメントに関する項目を見ていくと、「ハラスメントを受けたことがある」と回答した人が65.8%、「ハラスメントを見聞きしたことがある」と回答した人が85.6%にのぼり、社会全体と比べるとアニメ業界でのハラスメントはやや多いと言える。その一方でこれらのハラスメントを報告したと回答した人は26.9%と低く、誰に相談したらいいのか、相談して解決してもらえるとの安心感がない実情がうかがえる。これらのハラスメントを職種別に見ると、制作関係者がハラスメントを受けた経験が最も多くなっている。
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これまでの項目を社員とフリーランス(個人事業主)でも比較。雇用形態はアニメ業界全体で見ると正社員・契約社員あるいはアルバイトだと回答した割合は32%だが、制作関係・美術・CGのうち正社員・契約社員・アルバイトのいずれかであると答えた割合が80%を超えている。他の職種では80%程度かそれ以上がフリーランスであると回答しており、特定の職種以外はほとんどがフリーランスで占める業界だということが裏付けられた。
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労働時間・収入の男女格差は少ない
労働時間の傾向に男女による性差は薄く、むしろ体力的には劣ると思われる女性のほうが長時間労働をしている割合が高くなっている。絵や映像などを制作する業務においては男女の働き方についての差はあまりなく「できるまでやる」という文化が根付いていることがうかがえる。
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男女間での収入差は日本全体の値よりも小さいため、ここでも業界内での男女による仕事の差はあまり見られないことがわかる。アニメ業界は性別に関係のない実力主義のジョブ型雇用が一般的であり、男女雇用機会均等の観点からは比較的平等な業界であるとも言える。
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また、ハラスメントを受けたことがあるかの問いを男女別に見るとセクシャルハラスメント以外の種類で男性の方が多く、金銭トラブルの有無でも同様の結果となった。
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今回の実態調査では住まいの状況や健康保険、年金保険の加入状況などについても質問されており、全ての質問の単純集計結果等は参考資料から確認することができる。
調査概要
調査期間:2023年12月4日~2024年1月31日
調査主体:一般社団法人日本アニメフィルム文化連盟(NAFCA)
調査対象:NAFCA会員のうちアニメ業界従事者
有効回答数:323件
調査方法:Webアンケートツールを用いたオンライン調査