灯台を擬人化しメディアミックス展開 元博報堂プロデューサーが明かす地方創生コンテンツの仕掛け方

全国の灯台を擬人化した『燈(あかり)の守り人』や海洋生物をテーマにした『BLUE HUNTER 真夏と時のカイリュウ』を手がけるワールドエッグス。地方創生を企図した両作品を多メディア展開する上で大事にしていることとは?代表の波房氏に話を聞いた。

映像コンテンツ 制作
灯台を擬人化しメディアミックス展開 元博報堂プロデューサーが明かす地方創生コンテンツの仕掛け方
灯台を擬人化しメディアミックス展開 元博報堂プロデューサーが明かす地方創生コンテンツの仕掛け方
  • 灯台を擬人化しメディアミックス展開 元博報堂プロデューサーが明かす地方創生コンテンツの仕掛け方
  • 灯台を擬人化しメディアミックス展開 元博報堂プロデューサーが明かす地方創生コンテンツの仕掛け方
  • 灯台を擬人化しメディアミックス展開 元博報堂プロデューサーが明かす地方創生コンテンツの仕掛け方
  • 灯台を擬人化しメディアミックス展開 元博報堂プロデューサーが明かす地方創生コンテンツの仕掛け方
  • 灯台を擬人化しメディアミックス展開 元博報堂プロデューサーが明かす地方創生コンテンツの仕掛け方

今や、エンタメが地方創生に活用されるのが当たり前となっている。

その形もアニメやゲームといった一様なものではなく、ウェブマンガや声優を活用したボイスドラマなど、低予算でできるものまで多岐にわたる。キャラクターの立ち絵と設定からネットで公開していき、そこから物語を付与していくやり方も珍しくない。

全国の灯台を擬人化した『燈(あかり)の守り人』もその一つだ。これは全国88の灯台を擬人化する作品で、ボイスドラマなどがいま展開されている。静岡県御前崎市や新潟県糸魚川市など、モデルとなった灯台がある地方自治体との連携も進んでいる。

この『燈の守り人』を手がけるのが、ワールドエッグスの波房克典氏だ。ワールドエッグスは他にも海洋生物をテーマにした『BLUE HUNTER 真夏と時のカイリュウ』(以下『ブルーハンター』)を展開しており、こちらも自治体や団体とのコラボが進められている。

両作品とも、ワールドエッグス代表取締役の波房克典氏が原案・プロデュースを手がける。地方創生コンテンツの手がけ方とは何か、どんな考え方を大切にするべきなのか聞いた。

ワールドエッグス代表取締役の波房克典氏。

『燈の守り人』、『ブルーハンター』誕生の裏側

――ワールドエッグスでは現在、『燈の守り人』と『ブルーハンター』の二作品が地方創生を企図した作品として、自治体や団体などとのコラボが進められています。『燈の守り人』はいったいどのような流れから企画が誕生したのでしょうか。

私は前職の博報堂で、クールビズ推進などのプロジェクトに携わっていました。これは暑い夏にネクタイをしたくないという人々の共感に、地球温暖化防止という大義を結びつけたものになります。そこで、社会の風潮を変える社会シナリオ作りのような事業をやってきました。

こうした経験から、2007年に「日本ロマンチスト協会」という団体を立ち上げたんですね。これは、「大切なパートナーとの持続可能な関係づくり」実現に向けた啓蒙活動を行う組織で、これまで有志の協力により、6月19日を「ロマンスの日」に制定して東京タワーやハウステンボスをライトアップし、少しでもパートナーとの関係が良くなるようなムード作りをする活動をしてきました。

この流れから、日本ロマンチスト協会と日本財団が協働して、全国の灯台をロマンスの聖地にする「恋する灯台プロジェクト」というのを2016年に始めました。これが灯台との出会いです。

――「恋する灯台プロジェクト」から灯台を擬人化する動きになったわけですね。

そうです。灯台って基本的に岬という陸地の果てにあって、「君と僕しかいない」というファンタジー感を描きやすい場所なんです。全国に灯台は約3,000基あるのですが、このうち100ぐらいに絞り込んで「恋する灯台」に認定していったわけです。当時から灯台のある自治体との連携も積極的に進めていて、「恋する灯台」を認定すると地元メディアにも取り上げられる動きになっていました。

――なぜそこから、『燈の守り人』に繋がっていったのでしょうか。

プロジェクトを進めていくなかで灯台のことを勉強したのですが、実は夜の日本近海って、明治維新までは座礁リスクが高く、「ダークシー」と呼ばれるほど外国船から恐れられていたんです。遠浅な場所も珍しくない中、灯台がなかったので当然といえます。開国後のお雇い外国人第一号も灯台の技師でした。

そして灯台が全国に作られていくわけですが、このように灯台って日本の海を守ってきた歴史があるんですね。人知れず数多くの人命と様々な船の往来を安全に導いてきたことを思うと、だんだん妄想が広がってきて、灯台が人に思えてきたんです。孤高な感じと、ある種の覚悟を持ってそこに立ち尽くしてる様が人に見えてきてですね、それで擬人化したコンテンツを作れないかと思い始めました

――孤高な感じから、それぞれ個性的なキャラクターが生まれたのも納得です。『燈の守り人』がボイスドラマを軸にしている理由はあるのでしょうか。

全国にお城や古戦場がありますけど、そこには僻地であっても大勢の人たちが訪れます。その理由って、大河ドラマやアニメ、漫画などのエンタメコンテンツがあるからですよね。関ヶ原古戦場も、別に関ヶ原という場所に価値があるわけではなくて、関ヶ原の戦いというストーリーがあるからこそ、何もない原っぱに人が訪れるわけです。

灯台もこれと同じです。灯台は基本的に岬など陸から遠いところにあり、行くのがなかなか大変な場所にあります。ですので今は灯台を巡っている人はそう多くはないのですが、ここにエンタメのストーリーを付与することで、灯台を訪れてくれる人が増えてくれるんじゃないかと思ったのが理由ですね。

――自治体の反応などはいかがだったのでしょうか。

順調に進んでいます。以前は「ゆるキャラ」のように、自治体が主導して自前のキャラクターコンテンツを作ろうとする動きがあったのですが、近年では既存の擬人化などのキャラクターに自治体が乗っかる動きが盛んです。『温泉むすめ』や『鉄道むすめ』などがいい例ですね。

いまこうした方向に自治体側の考え方もシフトしていっているので、『燈の守り人』も例に漏れず数多くの自治体と一緒にやっています。

――もうひと作品の『ブルーハンター』についても教えて下さい。

『BLUE HUNTER 真夏と時のカイリュウ』

『ブルーハンター』は、海洋生物の社会課題をきっかけに制作している作品です。世界中に海洋生物は200万種類ぐらいいると言われているのですが、このうち発見されている生物って20万種くらいしかいないそうなんです。9割が未発見なんですね。

近年は宇宙開発が官民共にすごく盛んになってきていますが、その一方で海洋の探査ってそこまで進んでいません。でも、海には医療など我々の生活を豊かにしてくれる物質を持つ生物もいて、研究が進められています。こうした学問領域に関心を抱いてほしいという目的から制作している作品といえます。

――『ブルーハンター』は内容としてはどんな作品なのでしょうか。

高知県室戸市の女子高生が主人公で、40年後の近未来が舞台の作品です。海で海洋生物を撮影してサーバーに送ると、既発見か未発見の種かわかるようになっていて、特に未発見種だと「ブルー」という仮想通貨が得られるようになっています。それである時、主人公が室戸沖でシーラカンスを発見したことで莫大なブルーを手に入れ、そこからさらなる海洋冒険に出かける物語です。

いま、水族館や海洋研究機関や学校などと連携しながら、ウェブトゥーン(縦読み)形式のマンガを来年公開に向け製作しています。当初は縦読み形式で展開しますが、最終的には学校や図書館に置けるように、単行本形式の横読みのものにしていく予定です。

社会課題解決を出口戦略にしたエンタメコンテンツづくり

――『燈の守り人』と『ブルーハンター』の二作品を主に展開しているわけですが、様々な自治体と協働でエンタメ×地方創生に関わる中で、どのような課題があると認識していますか。

例えば、著名な歴史小説家が、ある地域の偉人の生涯を描くことで、舞台となった場所やテーマ自体に関心を持つ人たちが増えることがあります。そういう意味では、エンタメの社会的有用性に対するニーズってまだまだたくさんあるなと思っています。

弊社の『燈の守り人』と『ブルーハンター』も同じ展開を手がけているわけですが、僕らが作ったストーリーテリングによって地域に愛され、そのテーマに生きる人たちが愛され、それによって社会課題の解決へとつながっていくのであれば、我々が活動していく意味があると思いますね。

――地域を巻き込んでいく過程で様々な企業とも連携してきていると思いますが、どういったことを工夫していますか。


《河嶌太郎》

関連タグ

河嶌太郎

ジャーナリスト(アニメ聖地巡礼・地方創生・エンタメ) 河嶌太郎

週刊朝日、AERA dot.編集部などを経て現在はフリー。ヤフーニュース個人などではアニメなどエンタメによる地方創生を中心に執筆する。 共著に「コンテンツツーリズム研究」(福村出版)など。コンテンツビジネスから地域振興、アニメ・ゲームなどのポップカルチャー、IT、鉄道など幅広いテーマを扱う。地方創生コンテンツのシナリオ執筆も近年は手がける。