映画資金調達方法に新時代到来!米国で注目を集める株式型クラウドファンディングとは

資金調達における並々ならぬ苦労が定番となっている、インディーズ映画。そんな中、米国で近年注目を集めているのが「株式型クラウドファンディング(ECF)」という資金調達方法だ。

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米国で過去20年間の統計によると、独立製作映画(俗にいう“インディーズ”)がアメリカ映画市場で占める割合は、94.3%というリサーチ結果がある。そして、インディーズ映画というと資金調達における並々ならぬ苦労が定番となっている。

ただでさえ困難である映画資金の調達は、近年の不安定な経済状況やコロナ禍などの影響で益々難しくなっており、インディーズ映画のフィルムメーカー達はその煽りをモロに喰らっているのが現状である。すでに企業として回っている大手スタジオは別として、独立映画製作における関係者にとって現在の資金調達は死活問題である。

そんな中で近年注目を集めているのが「株式型クラウドファンディング(Equity Crowdfunding=以下、略してECF)と呼ばれる新たな映画資金調達方法だ。

ECF(株式型)と一般クラウドファンディングの大きな違い

これまでECFは、開発予算のあるテクノロジー関連のスタートアップが、資金調達の一環として使用してきた。一見、映画産業には無関係な資金調達法であると思われていたECFだが、米国ではここ数年徐々にインディーズ映画の資金調達方法としても注目を集めはじめている。その理由の一つとして、ECFはミニマムの参入額(= 投資額)が最低100ドルからで、10ドルからでも参入が可能なKickstarterやIndieGoGoなどの一般的なクラファンと大きく異なる。

ミニマムが高いことも含め、ECFが一般的なクラファンと大きく一線を画している部分は、資金調達側が個人ではなく、資金を求める側は、法人化した一企業として資金調達を行っている点である。ビジネスのゴールは、利益をあげることだ。ECFにおいて映画製作資金を募る場合もテクノロジー商品開発の資金調達同様に、映画を「商品」として世に出すための資金集めを行う。そして、参入者は創設者の熱意は元より、その商品がいかに利益を生み出し、自分の投資が配当金という形でリターンされるかに重きを置く。

日本で株式クラファンを映画製作資金調達に活かせるか

インディーズ映画をビジネスとして理解する、という風潮は日本でまだまだ低い。利益が出なくて当たり前、という見方が主流だ。日本で、独立製作の映画作品を「利益の出る商品」と見なして資金投入してくれる投資家を探すのは困難を極める。作る人たちの才能と熱い想いが「ビジネスプラン」となっている日本では、作品の利益がリターン(配当金)に繋がった例は稀である。

KickstarterやIndieGoGoなどのクラファンは、日本でも浸透してきているが、「株式型クラウドファンディング」と言うと、何やら胡散臭く思われがちな部分がある。一般市民は昔から株を、「ギャンブル」「お金の遊び」として見ている部分があるように思う。まずはこの視点を変えないことには、新進事業を栄えさせることは出来ない。米国ではECFのおかげで、これまで資金集めが困難だったプロジェクトや会社が恩恵を受け、ビジネスの成功に繋がった。

プロジェクトの利益が上がらなければ投資家は損をするという当然のリスクはあるものの、ECF参入者は、グッズなどをもらうよりも、近々世に出る「商品」の投資家になり、ひょっとすれば、世界的に名が知れ渡る商品の株主になる、という誇りとステータスに惹かれて寄ってくる。

ECFを使って資金調達の世界を変えた男

本来であれば、株式などに全く縁のないフィルムメーカーにとっては、証券取引委員会への煩雑極まりない書類申請を行わなければならないECFは、かなりハードルの高い資金調達法だ。しかし、背に腹は代えられずECFで製作資金を募り、成功しているインディーズ映画が増えてきている。

米国に、ジム・カミングス氏というインディーズ業界では英雄扱いされているフィルムメーカーがいる。監督兼、脚本家兼、プロデューサーであるカミングス氏は、なんと俳優でもある。ECFがまだマイナーだった2019年に通常のクラファンKickstarterで集めた3万7千ドル(約501万円)を資金の一部に映画『サンダーロード』を作った。これが元手以上のヒットを記録し、「スタジオもエージェントもいらない自分たちで作るDIY映画時代到来!」と豪語してローリング・ストーン誌の表紙を飾るなどして脚光を浴びた。

そのカミングス氏が最近使用しているのがECFである。最新作の『The Beta Test』は、米国大手のECFプラットフォームWefunderで35万ドル(約4,900万円)を集めて製作し自主配給の後、黒字ヒットを記録した。それ以来、米国インディーズ界でECFの人気が高まったのはカミングス氏のおかげといっても過言ではない。

ECFで映画の商品価値アップ、作品をビジネスとして収入に結びつける

実は筆者も米国インディーズ映画業界の一員である。そして、日本人フィルムメーカーとして初めてWefunderでのキャンペーンを成功させた。映画『When I Was a Human(邦題:ボクがにんげんだったとき)』という劇場用ファミリー・コメディ映画の製作準備資金集めのためだったのだが、キャンペーン成功後は同作品の自筆脚本をもとに、複数のハリウッド・スターから出演受諾を確保した。映画をビジネスとして成り立たせるためには、商品価値をあげるための有名スターが不可欠である。そして、本作の商品価値が上がったところで、7月19日(水)より、撮影資金を募るキャンペーンをWefunderで決行した。

日本の映画界でもECFが広まり、映画界を活性化する動きにつながればと思っている。夢をビジネスとして形にしたものを世界に向けて発信してくれるECF。「企業」そして「商品」の作り手が、出資者とともに夢を収入に変えていくための大きな原動力となるはずだ。


映画『When I Was a Human(邦題:ボクがにんげんだったとき)』

Wefunderキャンペーンお問い合わせ: info@aktpictures.com

Wefunderサイト:https://wefunder.com/wiwah

《神津トスト明美/Akemi K. Tosto》

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神津トスト明美/Akemi K. Tosto

映画プロデューサー・監督|MPA(全米映画協会)公認映画ライター 神津トスト明美/Akemi K. Tosto

東京出身・ロサンゼルス在住・AKTピクチャーズ代表取締役。12歳で映画に魅せられハリウッド映画業界入りを独断で決定。日米欧のTV・映画製作に携わり、スピルバーグ、タランティーノといったハリウッド大物監督作品製作にも参加。自作のショート作品2本が全世界配給および全米TV放映を達成。現在は製作会社を立ち上げ、映画企画・製作に携わりつつ、暇をみては映画ライター業も継続中。