『怪物』カンヌ脚本賞の坂元裕二と是枝裕和監督が早稲田大学で登壇。「12年来抱えた加害者を描く難しさに挑んだ」

6月10日、早稲田大学の人気授業「マスターズ・オブ・シネマ」に、カンヌ国際映画祭脚本賞とクィア・パルム賞に輝いた『怪物』の是枝裕和監督と坂元裕二氏がゲストとして登壇。

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『怪物』カンヌ脚本賞の坂元裕二と是枝裕和監督が早稲田大学で登壇。「12年来抱えた加害者を描く難しさに挑んだ」
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6月10日(土)、早稲田大学の人気授業「マスターズ・オブ・シネマ」に、カンヌ国際映画祭脚本賞とクィア・パルム賞に輝いた『怪物』の是枝裕和監督と坂元裕二氏がゲストとして登壇。

2人の出会い、坂元氏のこれまでの仕事から『怪物』という企画が成立するまでなど、多岐に渡るトークを繰り広げた。

「Mother」以来の課題に向き合った『怪物』

©2023「怪物」製作委員会

本作の企画は、2018年にプロデューサーの川村元気氏と山田兼司氏から一緒に映画を作ろうという話をもらった時に始まったという。会場には川村氏と山田氏も来ており、2人は、連続ドラマ1話分の長さである45分くらいの尺の3本立てのような映画を作ったらどうかという話になったということを明かしてくれた。坂元氏は、それを「連続ドラマのように続くことで大きな変化がある作品」という風に受け止めたという。

是枝氏が参加することになった経緯は、坂元氏が名前を挙げたとのこと。坂元氏はプロットを書いている時から是枝氏の名前が頭に浮かんでいたという。2人は2017年に早稲田大学で対談しており、それ以来、一度台本を書いて持っていきたいと思っていたそうだが、その矢先に『怪物』の企画が始まり、良い機会だと捉えたという。是枝監督は2018年12月に川村氏からオファーのメールを受け取り、「坂元さんの本ならやる」と即決めたそうだ。

司会の岡室美奈子氏は、2人の過去の作品には共通のモチーフが見られると指摘した。是枝監督も、自分が関心のあったモチーフが坂元氏の作品には含まれていると語り、「同じものに引っかかる人が近くにいる」と感じていたとのこと。今作のプロットについて是枝監督は「今の時代に対する批評性があり、読むこと自体がスリリングだった」と語る。

岡室美奈子氏

坂元氏は今回の企画は、元をただすと2010年のドラマ「Mother」に行き付くという。「Mother」には尾野真千子扮するシングルマザーが娘を虐待するエピソードがあるが、視聴者がその母親に対して批判的だったことから、当初の予定から変更して、彼女がなぜ虐待するにいたったのかを描くエピソードを書くことにしたという。

また、2011年のテレビドラマ「それでも、生きてゆく」では、小さい女の子を殺害した加害者を描いている。永山瑛太演じる、妹を殺された主人公が、復讐しようと思っていた相手が自殺しようとしているところを助けてしまうシーンがある。坂元氏はこの時、加害者をどう描けばいいのかの難しさに直面し、描ききれていないという思いを抱き続けていたという。その時から12年来、加害者をいかに描くのかが重荷となっており、その難題に是枝監督と本作で挑んだという気持ちがあると語った。

是枝監督は「それでも、生きてゆく」を、衝撃を持って観ていたという。最終話で風間俊介演じる、かつて女の子を殺した男がトイレから朝日を見るシーンについて坂元氏に質問すると、坂元氏は「あれは演出家のアイデアで脚本には光が見えるとは書いていなかった、演出家の方が希望のある解釈をしたのだと思う」と作品の裏側を教えてくれた。

また、坂元氏はこれらの複雑な背景を描く作品に対して、「基本的にテレビドラマは正義の人が悪いやつを捕まえて説教することで終わるが、世の中はそういう風にはできていない、自分もそういう説教をたくさん書いたが嘘を書いているな」という気持ちがあり、そうした思いが積み重なって『怪物』のような作品ができたとも語った。ドラマで悪い奴に見えるのは作り手がそう描いているからで、本当は色んな事情を抱えているもの、そういう想いがたまっていくとこういう作品も出したくなるのだという。

次ページ:『怪物』のキャスティング、脚本に対するアプローチ


※次ページ以降、作品の具体的なシーンに関する記載があります。


《杉本穂高》

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杉本穂高

映画ライター 杉本穂高

映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。

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