短編映画に劇場公開のチャンスを!「Short Film Biotope」立ち上げの背景と活用経験を聞いた

6月9日(金)から短編映画『ささくれ』が下北沢にある映画館「K2」で上映。本上映をサポートするプログラム「Short Film Biotope」についてMOTION GALLERY代表の大高氏と『ささくれ』を制作した俳優の里内氏に話を聞いた。

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海外では短編映画が長編映画を撮る前の重要なキャリアと位置付けられているが、日本でもクリエイターや監督を支援しようと、クラウドファンディング・プラットフォーム「MOTION GALLERY (モーションギャラリー)」の代表・大高健志氏が監督のキャリア形成を目的としたプログラム「Short Film Biotope」を立ち上げた。

「MOTION GALLERY」のクラウドファンディングから下北沢にある映画館「K2」での上映まで一気通貫でサポートするこのプログラムについて、短編映画『ささくれ』を制作した俳優の里内伽奈氏と、大高氏に「Short Film Biotope」への思いや感想、短編映画の魅力などを語ってもらった。


映画制作者のキャリア形成を目的とした支援がしたい

――そもそも「Short Film Biotope」は、どういった経緯で生まれたのでしょうか?

大高MOTION GALLERYのクラウドファンディングで制作費を集めた佐久間啓輔監督の『Funny』という短編映画があり、本作をK2で上映できないかご相談頂きました。コロナ禍の真っ只中に開館した映画館として様々な新しいチャレンジを行っている中、あまり映画館で行われない短編作品の上映というのもチャレンジの一つとなりましたが、むしろ今だからこそピッタリなのではなかと感じるとても素晴らしい上映となりました。

『Funny』

この経験から、この流れをプログラム化することで、あらゆる面でクリエイターや監督のサポートができるのではないかと考えました。いまはスマートフォンでも気軽に映像を作れる時代ですが、“映画”となると資金面において一気にハードルが高くなります。しかも、長編作品でないとキャリアになりづらく、そして製作資金のリクープの可能性も無いというところがあるので、まずはスモールスタートで、ということ自体が難しいという特性があると思っています。

でもクラウドファンディングと映画館が一体となって、スモールスタートを行いやすい生態系を用意し、支援すれば、海外のように映画制作者のキャリアを作ることを目的とした支援ができ、次のチャレンジにつながる「リクープ」の可能性も生まれるのではと思い 「Short Film Biotope」を立ち上げました。

「Short Film Biotope」の流れ

――本プログラムを立ち上げたことでどのような反響がありましたか?

大高まだ立ち上げたばかりですが、若手の監督からは結構お問い合わせをいただいています。素晴らしい才能がどんどん世に出て短編映画の価値が高まれば、無理して長編を撮る必要もなくなります。集まった製作資金にあわせて尺を決めて映画をつくるトレンドができていけば、少しずつ映画文化が豊かになるのではないかと感じています。

――里内さんはコロナ禍をきっかけに主演・脚本・プロデュースを兼任して15分の短編映画『誰のための日』を完成させました。そのあと2作目の『ささくれ』を制作しようと思われたのはなぜでしょうか。

里内『誰のための日』はショートショート フィルムフェスティバルやゆうばりファンタスティック映画祭などで上映させていただいたのですが、ある日、池袋シネマ・ロサさんから「うちで上映してみないか」と声をかけていただいたんです。俳優としてシネマ・ロサさんにはお世話になっていたので、「是非お願いします」とお返事しました。

ただ、15分の短編1本だけの上映は難しいということだったので、それならばもう1本撮って組み合わせるしかないと、無謀にも思ってしまって(笑)。とはいえ文 化庁の給付金は1本目で使い切っていたのでどうしようかと頭を悩ませていたところ、MOTION GALLERYさんのクラウドファンディングを知りまして、その結果支援者の方々のサポートもあり無事に『ささくれ』を公開することができました。

――クラウドファンディング(以下、クラファン)を経験してみていかがでしたか?

里内クラファンはリターン方法を考えることも含めて色々と大変だと聞いていたのですが、やってみると予算を確保できるだけでなく、大きな宣伝効果があることに気づきました。作品を広く知ってもらいたくても個人の発信だけでは限界がありますが、私がどういう思いで映画を制作したいのかというのをMOTION GALLERYで知って共感してくださった方が、金銭的なサポートだけではなく、完成した作品を広めてくださるんですよね。それはすごく嬉しかったですし、クラファンはプラスの要素が多いなと実感しました。

『ささくれ』オフショット

――大高さんはサポートする側として、「Short Film Biotope」に応募する方に対して求めることは何かありますか?

大高クラファンと劇場公開で製作費をリクープする事例がどんどん生まれていければと思っているので、クラファンでの目標金額を達成いただくことは重要だと思っています。それと同時に、海外映画祭を目指すようなグローバルなキャリアを目指す映画人とも出会っていきたいと思っています。クラファンで共感を集めるためには、どんな思いでその作品を作りたいのか、何のために作りたいのかが伝わるかどうかが大事なので、そこはしっかりと書いていただくことが大事ですね。それから、支援者から資金を集めて制作するシステムなので、実行力や責任感があるかどうかも重要です。

映画・音楽・演劇それぞれの客層をクロスオーバーさせたい

『ドロステのはてで僕ら』

――K2は芸術・文化を発信する街というイメージが強い下北沢にあります。オープンしてから1年半近く経ちますが、さまざまな文化に触れる人々が混ざり合ってきたという実感はありますか?

大高ライブハウスや演劇の劇場が多いので、総合芸術である映画はこの土地に適しているという思いは立ち上げ当初から変わりません。K2を開館した当初、ヨーロッパ企画さんの映画『ドロステのはてで僕ら』を上映したのですが、この上映には演劇ファンがたくさん見に来ていただいた印象があって、他の公開作品の客層とは少し違いました。1年半近く経ったいまも、やはり下北で舞台を観劇したあとに映画を観に来るという感じではないというか。そこをもう少しクロスオーバーさせたいと考えているので、演劇界に関係する作品やバンドカルチャーが背景にある作品は意識的に上映するようにしています。

里内演劇の劇場内のモニターにK2の予告編を流したら面白いかもしれないですね。私は俳優として下北の劇場の舞台に立つこともあれば、お客さんとして観劇することもあるのですが、演劇は出演している俳優さん目当てのお客さんが多い印象があります。なので下北の劇場で公演中の舞台に立つ俳優さんが、K2で映画の舞台挨拶をすれば映画館へお客さんが流れる可能性もあるのかなと思います。演劇系だと『ドロステのはてで僕ら』以外にどんな作品を上映されたのですか?

大高演劇を映画館で上映することを目的とした劇団☆新感線のゲキ×シネ『薔薇とサムライ』は、朝9時の回から夜の回まで多くのお客さんが来場されていましたね。

里内その時のお客さんが演劇系ではない作品を観に来たらもっと広がりそうですよね。

大高本当にそう思います。下北界隈で聞いた話だと、演劇人が終演後に打ち上げをする飲み屋、バンドマンが集まる飲み屋、映画人が集まる飲み屋は全然違うらしく。エンタメ業界にいる人たちって混ざり合いそうでそうはならないのが面白いところではありますね(笑)

――お二人は短編映画のどんなところに魅力を感じますか?

『ささくれ』

里内1本の尺が短いぶん、1日でたくさんの作品を鑑賞できるのが魅力かなと思います。たった15分でも映画を観た満足感を得られますし、短いからこそ連続で鑑賞してもあまり疲れないところも好きです。

大高昔は短編映画というとワンアイデアのインパクトで勝負する作品が多い印象が強かったのですが、最近はコンテキストやリファレンスがちゃんとしていて、奥行きがある作品がすごく増えてきている印象があります。短い尺で描くからこそ余白が生まれて、お客さんが色々な解釈をしたり想像したりできるのもいいですよね。

里内30分ぐらいの短編だと、仕事終わりでも気軽に観に行けるのがいいなと思います。『誰のための日』の21時の回をシネマ・ロサで観てくれた友人が、仕事終わりに1杯飲んでからでも間に合ったと言っていたのですが、そのときに短編だとレイトショーのプログラムも組みやすいのではないかと思いました。それから私自身も、あらゆる短編映画を渋谷のギャラリーで一挙に上映する「ルデコショートフィルムパーティー」をプロデュースしていまして、清水崇監督の過去の短編映画や地方の映画祭でグランプリを撮った短編映画もそこで上映させていただきました。短編だとコメディーで笑った後に、ホラーで背筋が凍るみたいな不思議な体験が1時間半でできてしまうので、そういった所も短編映画の魅力だなと思っています。

大高多様な映画をたくさん観ることで自分自身の価値観をアップデートできたりしますよね。そういう意味でも「Short Film Biotope」でクリエイターや映画監督をサポートして、幅広い作品をK2で上映できたらと思います。


⾥内伽奈プロデュース・脚本・主演の映画『ささくれ』は6月9日(金)から15日(木)までシモキタ-エキマエ-シネマK2にて、1週間限定でレイトショーとして上映。

《奥村百恵》

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奥村百恵

奥村百恵

音楽誌・映画雑誌の編集部を経て、現在はフリーのライターとしてエンタメ系のコラム執筆や著名人、起業家など幅広いジャンルのインタビュー記事を執筆。大手エンタメ系サイトから映画専門雑誌など様々な媒体のインタビューページを担当している。

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