ストリーミングは、劇場作品よりもはるかに多く女性や有色人種を採用している UCLAの調査結果より

第10回UCLAハリウッド多様性報告書が発表。米国の人口の約半数を有色人種が占める中、視聴者がより共感できる「多様なキャストを起用した作品」のSNSでのエンゲージメントの高さも指摘されている。

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ストリーミングは、劇場作品よりもはるかに多く女性や有色人種を採用している UCLAの調査結果より
Image by Gerd Altmann from Pixabay ストリーミングは、劇場作品よりもはるかに多く女性や有色人種を採用している UCLAの調査結果より
第10回UCLAハリウッド・ダイバーシティ・レポートによると、ストリーミング配信作品は劇場公開作品よりも包括的であることが判明したとのことだ。以下、IndieWireの記事を参照し調査結果を追っていく。

UCLAの社会学者ダーネル・ハント博士とアナ・クリスティーナ・ラモン博士は、2022年の劇場興行成績上位作品とストリーミングヒット作品を分析し、劇場公開作品の主要職種における人種/民族と性別の多様性が、パンデミック前の2019年の水準に後退していることを発見した。一方、女性や有色人種は、ストリーミング作品でより多くの機会を得ている。なお、2021年時点で米国の人口の42.7%が有色人種となっており、今後数十年以内に有色人種が多数派になると言われている。

UCLAの研究では、劇場公開作品とストリーミング作品を分けて分析したのは今年が初めてだが、その結果劇場公開作品における多様性の向上が見られていないことが浮き彫りになった。ラモン博士は「パンデミックの際に映画産業を救った有色人種の人々は劇場ビジネスをパンデミック前の水準に戻すための鍵である」と述べている。

有色人種、男女での活動の場と予算の比較

現状、「大予算の超大作映画」の舵取りをしてきたのはほとんどが白人男性となっている。劇場公開映画の監督の73%を白人男性が占め、そのうちの60%が3,000万ドル以上の予算を持つ作品だった。一方、白人女性は劇場用プロジェクトでは低予算で活動する傾向があり、作品の56%は2,000万ドルより小さい予算となっている。有色人種の監督はストリーミングで最も低い予算を持つ傾向があり、作品の76%は2,000万ドル以下の予算であることが分かった。

また、統計的に証明されているように、女性監督や有色人種はより多様なキャストを雇う。そしてそのような映画の興行収入やストリーミング視聴率で多様性のない映画を上回ることになるのだ。実際、劇場公開映画に比べ、より多くのストリーミング映画が多様なキャストを有していた。要するに、女性や有色人種に機会が多いストリーミング映画の方が、多様性があり、収益を生み出しているのだ。それにも関わらず、これらのプロジェクトはハリウッドから劇場公開映画と同等の資金を受け取っていない。ハント博士はこれについて、「ハリウッドは自分自身を鏡のように見つめ、業界の多様性の問題の針を動かすために実際に機能する具体的な実践方法を特定しなければならない」と述べている。劇場公開作品では、有色人種は主演俳優の22%、監督の17%、脚本家の12%を占めるに過ず、女性は主演俳優の39%、監督の15%という結果だった。

ストリーミング配信のオリジナル作品では、米国の人口統計を反映したようなキャストが起用されている。主役に占める女性の割合は49%で男性と同等であり、人種の多様性も見られる。しかしながら、劇場作品とストリーミング作品どちらも、有色人種の女性作家の割合が著しく低いことが続いている。女性脚本家による劇場公開作品が2019年から10ポイント上昇したとはいえ、2022年の劇場公開トップ作で脚本を務めた有色人種の女性は1人だけだった。また、ストリーミングでも彼女たちは存在感が薄かった。有色人種全体の脚本家の割合はケーブルテレビとデジタル番組では同等の割合になってきている。

2022年に最もストリーミングされた2作品『私ときどきレッサーパンダ』と『ミラベルと魔法だらけの家』は、どちらも有色人種の少女たちの青春物語を描いたアニメーション映画。『私ときどきレッサーパンダ』は有色人種の女性監督によるものだった。ラモン氏はこれに対し「18歳未満の人口の半数以上が有色人種である現在、若者たちは自分たちと同じように生きる主人公の映画を求めるようになるでしょう」と述べている。多様なキャストを起用した作品は、ソーシャルメディアの高いエンゲージメントを牽引し、若い世代の共感も得るとのことだ。

『私ときどきレッサーパンダ』

「南アジア人」と「障がい者」ごとのデータも産出

さらに、本報告書は調査結果でストリーミングと劇場公開を分けたことに加え、初めて南アジア人の表現と障がい者の表現に関するデータも提供した。報告書によると、南アジア人はトップ映画では最小限にとどまっていることが分かった。また、米国の成人のおよそ4分の1が障がいを持つにもかかわらず、障がいを持つ俳優は劇場公開映画とストリーミング映画のいずれにおいても、主役の10%以下で、すべての役を含めても全体の5%以下しか占めていなかった。

UCLA社会学部の博士候補生である共著者マイケル・トラン氏は「映画産業が前例のない不確実性に直面し続ける中、本報告書は前進する道を明らかにした」「パンデミックは映画館だけでなく家庭でも多様性を正常化し、観客はそれに同調した。もしハリウッドが劇場公開作品においてこのまま多様性の流れに逆らうのであれば、ストリーミングや国際的な作品に観客を奪われることになるだろう」とコメントしている。

UCLAの調査結果の詳細は、こちらから(英語のみ)確認ができる。
《伊藤万弥乃》

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伊藤万弥乃

伊藤万弥乃

海外映画とドラマに憧れ、英語・韓国語・スペイン語の勉強中。大学時代は映画批評について学ぶ。映画宣伝会社での勤務や映画祭運営を経験し、現在はライターとして活動。シットコムや韓ドラ、ラブコメ好き。

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