『コンペティション』のイベントに深田晃司監督が登壇、作品の魅力と日本映画界の裏側を赤裸々に語る

現代映画界を爽やかに皮肉った業界風刺エンターテイメント作品『コンペティション』。本作のトークショーに世界的な評価を受ける深田晃司監督が登壇し、作品の魅力と日本映画界の裏側を赤裸々に語った。

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深田晃司監督
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スペインを代表する俳優、ペネロペ・クルスとアントニオ・バンデラスが母国の映画で共演を果たし、現代映画界を爽やかに皮肉った業界風刺エンターテイメント、『コンペティション』が3月17日(金)より全国公開される。

公開を記念し、カンヌやヴェネチアをはじめとした数々の海外映画祭に参加し世界的な評価を受ける深田晃司監督が試写会のトークショーに登壇。映画の面白さと、日本映画製作現場の裏話を赤裸々に語った。

©2021 Mediaproduccion S.L.U, Prom TV S.A.U.

現在、岡山県で新作の脚本を執筆しているという深田監督。「映画業界を風刺している作品なので、登壇するかどうか実はすごく迷いました。この映画の終わりに自分が登場するのも一つの風刺なんじゃないかと深読みしちゃって(笑)。でも作品が本当に面白かったのでお話したいと思いました」と忙しい合間を縫って登壇した理由を明かす。

映画のどの部分に惹かれたのか?という問いに対し「まず題材が面白いと思いました。監督と俳優のリハーサルに焦点をあてている作品というのはとても珍しく、目の付け所が良いなと思いました」 と語った。

ペネロペ・クルス演じる鬼才監督のローラは破天荒な演出方法で俳優たちを戸惑わせるが、深田監督は「風刺映画なので誇張はされていますが、リアリティはあると思います。ぶっちゃけ、ローラの演出スタイルはパワハラですが(笑)。今の時代だからそう言えるだけであって、俳優をラップでぐるぐる巻きにするまではいかないでも、これに近いものを求める監督もいると思うんですよね。傍から見たらハチャメチャなんだけど、彼らにとっては『ものをつくるためにはこれくらいクレイジーにならなきゃいけないんだ!』と当たり前になっちゃっていたりするんです」と私見を述べた。

©2021 Mediaproduccion S.L.U, Prom TV S.A.U.

そのうえで「映画監督に必要なことは『何がいいか、悪いかのジャッジをしなければならないこと』。手を挙げるという動作でも、まっすぐピンと挙げるのか、肘を曲げながら挙げるのかといろいろなやり方がありますが、正解を決めることができる唯一の存在が監督。その正解に俳優を導くために頑張り過ぎちゃうと、知らず知らずのうちに本作のように狂気の沙汰になってしまうんですね」と判断力の重要性を語った。

また日本の監督のやりすぎエピソードとして、黒澤明監督の現場で良い形の雲が出てくるまで撮影を中断する“雲待ち”という時間があったことを聞いた深田監督は「ちょっと狂気を感じますが、憧れはありますね。なぜかというと、 雲を長時間待てるということはそれだけ製作日数と予算があるから。予算が少ない現場では天気を待つこともできないので羨ましい」とリアルな製作舞台裏を明した。

「あと資金といえば、」とお金についても話が及び「劇中、大富豪が名誉のために映画を作りたいと言ってこのリハーサルがはじまっていくわけですが、実際これはよく聞く話です」と業界の秘密を暴露。「以前、中国の映画祭に行ったときに聞いたのは、中国には映画にお金を出したがるお金持ちがたくさんいるというんです。今は状況がまた違っているかもしれませんが。彼らは金儲けを望んでいるのではなく、“映画祭に出る”という一つの名誉欲しさに出資するらしいんです」と、富豪の名誉のために作られる映画もあると明した。

映画の原題である<Official Competition>とは映画祭の「コンペティション部門」の意味。昨年、深田監督の『LOVE LIFE』がヴェネチア映画祭のコンペティション部門に出品されたことに触れ「やはりコンペティション部門を目指して映画をつくられているのですか?」とMCより質問されると、「目指していません!この映画を観たばかりの方たちの前でそんなこと言っても信じてもらえないと思いますけど(笑)。 映画の中でもオスカル・マルティネス扮するイバンが『アカデミー賞なんて馬鹿げた賞はいらない!』と言っていたのに、陰でスピーチの練習をしているという面白いシーンがありましたが、 たぶん今の僕もそんな風にみられているはず…。でも本当に、ゴールを映画祭にしてしまうと神経がすり減ってしまいます。この映画を観るとそんな製作者の気持ちも分かると思いますよ」と登場人物たちに共感する部分もあることを告白した。

©2021 Mediaproduccion S.L.U, Prom TV S.A.U.

さらに、映画では性格も演技のアプローチもまったく噛み合わない俳優ふたりが兄弟役を演じることとなるが、日本映画の製作現場でもあるあるの出来事だという。「ハリウッドだと俳優教育が進んでいるので、アクターズスタジオなんかでメソッドを練習している人が多く、ある種の共通言語を全員が持っています。しかし日本は俳優教育が浸透しておらず、俳優はそれぞれ好きな俳優の背中を追って独学で演技を勉強したり、また所属する事務所や劇団によって教え方も違うので全員がバラバラ。そんな人たちが初めましてで長年連れ添った夫婦役とかを演じなければならないので、それはもう大変ですよね」と日本における業界の問題について赤裸々に語った。

「そんな場合はどう演出するのか?」と問われると「リハーサルをするしかないです。ただ一番の方法は、そういった人たちを選ばずにちゃんとオーディションで相性を見て決めることなんですけどね。あとは本作のように、監督も俳優も全員が意見をぶつけ合える状態にあることが望ましいです。日本ではまだ“俳優は監督に従うものである”というイメージが強いですが、バラバラの俳優たちが集まってもディスカッションを重ねることで改善できる道はあると思う」と、向上のためのヒントを考えた。

降壇する前には、「お前誰なんだって感じなんですけど…」と前置きしつつ、「今日は本作のようなアート映画の試写にこれだけ多くの方が集まってくださり、映画監督としてとても嬉しいです。世界中の映画祭を回っていると、日本を含め、世界的にまだまだコロナ以降観客が映画館に戻っていないとよく聞きます。ちょうど来週からマスクの着用は個人の判断になるという絶好タイミングなので、映画を気に入った人はぜひもう一度劇場に足を運んでいただけたらなと思いますし、映画館に活気が戻ることを心から願っています」と映画人としての率直な気持ちを語り、観客からは盛大な拍手が贈られイベントは幕を閉じた。

映画『コンペティション』

出演:ペネロペ・クルス、アントニオ・バンデラス、オスカル・マルティネス

監督:ガストン・ドゥプラット、マリアノ・コーン

原題:Competencia oficial/2021 年/スペイン・アルゼンチン/スペイン語/114 分/カラー/配給:ショウゲート/スコープ/5.1ch/字幕翻訳:稲田嵯裕里

<STORY>大富豪の起業家は、自身のイメージアップのために一流の映画監督と俳優を起用した伝説に残る映画を作ろう と思い立つ。変わり者だが、あらゆる映画賞を総ナメする天才女性監督、人気と実力を兼ね備えた世界的大ス ター、そして老練な一流舞台俳優の 3 人が集結し、ベストセラー小説の映画化に挑む。しかしエゴが強すぎる 3 人はまったく気が合わず、リハーサルは予想外の展開を迎えることに――。果たして映画祭のコンペティション を勝ち抜けるような傑作は完成するのか!?

《Branc編集部》

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