海外アニメファンが集うコミュニティサイト「MyAnimeList」を日本企業が運営する理由とは?

世界240か国以上のユーザーが利用する世界最大級の日本のアニメ・マンガのコミュニティ&データベース「MyAnimeList」。アニメ好きの男性が個人で立ち上げたサイトから規模を拡大し、今や日本企業が海外モデレーターと本サイトを共創する理由とは?

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アニメやマンガが海外で受容されるようになって久しいが、近年、さらに拡大していると言われている。

日本のコンテンツの海外受容は、熱心なファンの草の根の情報ネットワークによって支えられてきた。その拡大に大きく貢献してきたのが、MyAnimeList(以下MAL)というサイトだ。MALは、月間利用者数1,800万人、月間ページビュー数2億7,000万PVを誇り、世界240か国以上のユーザーが利用する世界最大級の日本のアニメ・マンガのコミュニティ&データベースだ。掲載されているアニメ・マンガの情報は30万件以上にも及び、非常にアクティブなコミュニティとして、海外のアニメファンには良く知られている。

そのMALは、実は、現在日本の株式会社MyAnimeListによって運営されている。なぜ、日本の企業が海外のアニメファンコミュニティのサイトを運営しているのか、そのメリットや意図を同社広報の樋口由美子氏に聞いた。

MyAnimeList広報の樋口氏。

ユーザー代表のモデレーターが運営に深く関与

――MALはアメリカで生まれたコミュニティサイトですが、日本の会社がMALを運営するようになったのはどういう経緯なのでしょうか。

MALは2004年にLA在住のアニメ好きの男性が個人で立ち上げたサイトです。当時は、海外では今と比べてアニメの情報を探すのはとても大変でしたから、一気に濃いアニメファンの利用者が増えて、サーバー費用などの運営費用を個人ではまかないきれなくなってアメリカの企業が買収しました。

その後、日本のDeNAさんが買収した後、2019年、メディアドゥグループが買収したという経緯です。メディアドゥさんはマンガなどの電子取次を中心に展開しており、海外へも進出しているため、日本のIPをもっと世界に広げるにはどんな戦略があるかを考えた時にネットのコミュニティの力は欠かせないと考え、MALのようなファン・コミュニティを探していたんです。MALはいくつもある海外のアニメ・マンガのコミュニティの中でも突出して規模が大きく、熱心なアニメ・マンガファンが多いので、何かコラボできる機会があればと思っていたところ、ご縁があったという流れです。

日本法人の我々がこのサイトを運営する意義は、日本のIPホルダーと海外のファンの橋渡しになれることだと思います。例えば、MALでイベントを開催したいとなった時、国内のIPホルダーさんたちにすぐにお話に行ける立場でいることが重要だと考えています。

――MALの運営には、モデレーターと呼ばれるユーザーも深く関与しているそうですね。

そうですね。MALにとってモデレーターの存在はとても大きいです。世界中にボランティアベースのメンバーが60人くらいいるんですが、彼らがコンテンツの表の部分を管理してくれていて、それがこのサイトの文化を形成していると言っていいです。私たちは彼らと協力して、イベントなどを計画したり、サーバーのメンテナンスやアプリの開発、ユーザーサポート、広告の販売などを行っています。

――モデレーターの提案で実現したものが実際にあるのですか。

というより、私たちが開催するイベントにおいてモデレーターが関わっていないものはほぼないんです。日本のMALチームからモデレーターにこういうことをやりたいと相談することもあれば、彼らの方がやりたいことを提案してくれて、私たちが実現のために奔走することもあります。モデレーターは世界中に散らばっていますが、みんなネット上にいるので、密なコミュニケーションが実現できています。

――ユーザーがそれだけ運営に深く関与するケースは、日本ではあまり聞かないですね。どうしてこれは成立できているのでしょうか。

私もずっとそれが謎だったんです。どうしてこの人たちはこんなにMALのことを考えてくれているんだろうって。たまたま、私は行動経済学の勉強をする機会がありまして、ダニエル・ピンクの『モチベーション3.0』を読んだのですが、その本が指摘していたことがまさに彼らなのかなと思います。

従来の、給料を上げるから頑張らせるとか、逆に成績が悪ければクビになるような飴と鞭のマネジメント(本の中ではこれをモチベーション2.0と定義)で動くのではなく、自分が好きなものを人と共有したい、その好きなものを楽しむ人を増やしたい、好きなものの発展に貢献したいというその気持ちで行動する人(モチベーション3.0と定義)がいるんだという学説があって、MALのモデレーターたちはまさにそれに当てはまると考えています。彼らは、MALをもっと多くの人に使ってもらい、より良いものにしたいというモチベーションで動いているんです。本当に尊い存在で、そんな彼らが大好きです。

――御社が運営しているけれど、決して中央集権的な形ではない、ある種DAO(分散型自律組織:世界中の人々が協力して管理・運営される組織)的な側面があるのですね。

そうですね。ウェブ3.0って結局はこういうことじゃないかって気がします。コミュニティがあって、ユーザーがユーザーを引っぱっていく、そういう自主性があるのが素晴らしいことで、アニメを好きな世界中の人が楽しめる世界を作っていることをモデレーターたちも私たち日本のチームも誇りにしています。私はMALの広報ですが、気持ちとしてはモデレーターと同じ感じで仕事をしています。みんなMALという大きなコミュニティの中の仲間だという感覚です。おそらく他のメンバーもそんな風に考えていると思います。

配信の普及でライトなファンが増加した

――海外のアニメファンの動向をつぶさに見ておられると思うのですが、近年の動向で変化は感じますか。

かつては、海外アニメファンにはサブカル好きな人が多い印象でしたが、配信サイトが普及したおかげか、アニメを好きになるハードルがぐっと下がりライトユーザーが増えています。例えば、Netflixでミステリー映画を見ていると、オススメの中に「憂国のモリアーティ」が出てきたりして、そこで初めてアニメに触れたりとか。そういう人はアニメに詳しくないですから、調べるためにMALを訪れるんです。後は、マンガ読者の数も増えていると感じています。例えば、「チェンソーマン」はアニメ配信の前から、AX(LAアニメエキスポ)でコスプレしている人を多く見かけました。

――こうした変化は、コロナ禍の影響が大きいと感じますか。

コロナによってアニメ人気は一段階上に上がったような実感があります。人々のライフスタイルが変わったところに上手くマッチして、自宅で配信を見る時、選択肢の1つとしてアニメが選択されるようになったのだと思います。

――近年、配信の他、アニメ映画が海外でも興行収入を伸ばしています。

『ONE PIECE FILM RED』は北米でもかなり上映されていましたね。うちのモデレーターでドイツの片田舎に住んでいる人がいるんですけど、その方の地元でも『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』は普通に上映されていたそうです。

海外にアニメの潜在ファンはまだまだいる


《杉本穂高》

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杉本穂高

映画ライター 杉本穂高

映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。