【イベントレポート】 IPビジネスの多角化と経営管理はどう両立するか──PlottとClaNが語る「次の10年」

生まれたIPをどう育て、事業として回収していくのか。freee主催イベントにPlottの奥野翔太氏とClaN Entertainmentの永瀬優氏が登壇。IPビジネスの"次の10年"を見据え、グローバル戦略や多角化の意義、拡大に伴い複雑化する経営管理のあり方を語った。

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【イベントレポート】 IPビジネスの多角化と経営管理はどう両立するか──PlottとClaNが語る「次の10年」
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  • 【イベントレポート】 IPビジネスの多角化と経営管理はどう両立するか──PlottとClaNが語る「次の10年」
  • 左:自社グッズを着用するPlott奥野翔太氏、右:ClaN Entertainment永瀬優氏
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  • PlottとClaNが保有するIPのグッズ一例
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2026年9月16日、東京・大崎。freee株式会社主催のコンテンツ制作業向けイベント「IPビジネスの"次の10年"ー 次世代エンタメ企業は、どう事業を伸ばすのか」が開かれた。

コンテンツ産業は、いまや基幹産業と明言される立場にある。鉄鋼や自動車に続く経済の柱、という位置づけだ。2033年に海外売上20兆円という目標は、自動車産業に匹敵する規模になる。そこで問われるのは、良いコンテンツを作れるかどうかだけではない。生まれたIPをどう育て、事業としてどう回収していくかが問われている。

登壇したのは、グローバル展開を見据える2社の経営陣だ。株式会社Plott 代表取締役の奥野翔太氏と、株式会社ClaN Entertainment(以下ClaN)取締役・経営戦略部長の永瀬優氏。IPビジネスの次の10年と、事業を拡大するうえでの事業管理について語った。

左:自社グッズを着用するPlott奥野翔太氏、右:ClaN Entertainment永瀬優氏

「作る」と「広げる」を自社で行える2社

両社はいずれも、「作る」機能だけで完結しない事業構造を持っている。

Plottの主力はショートアニメで、YouTubeやTikTokを主戦場に多数の作品を展開する。チャンネル総登録者数は延べ1,400万人、月間再生回数は9億回規模。奥野氏が挙げた自社の特徴は「IPを作って、SNSで広げて、さらに売っていくところまでを一気通貫で自社完結している点」だ。グッズが売れるIPの傾向を示すデータを、クリエイター自身が直接見られる。その環境が強みになっているという。

一方の永瀬氏は、ClaNをネットカルチャーに特化した「IP総合商社」と表現した。キャラクターIP事業ではVTuber事務所として、サンリオと共同展開する「にゃんたじあ!」を擁し、自社キャラクターの開発も進む。クリエイターネットワーク事業では、個人・法人所属のVTuberやインフルエンサーをネットワーク化し、広告代理店機能を通じて案件やライブのキャスティングにつなげる。軸にあるのは「自社だけに閉じるのではなく、他社のIPと一緒に事業をスケールさせる」という発想だ。制作機能と自社IP、MD制作機能を持ちながらマーケティングソリューションまで社内に抱える構成は、業界的にもユニークだとした。

PlottとClaNが保有するIPのグッズ一例

両社のグローバル戦略

20兆円という目標への向き合い方は、2人でほぼ重なっていた。奥野氏は「その20兆円の中で、真ん中でやっていきたい」と述べる。補助金制度の拡充や関連事業者の参入が進む環境で、「誰が飛び立てるかが大事になる」という見方だ。

永瀬氏は自社の立ち位置をこう整理した。産業分類の中心にはゲームやアニメが置かれ、VTuberを起点とする同社の事業は「新興コンテンツ」にあたる。明確なカテゴリー名はまだないが、成長と輸出が期待される領域であり、新たなエンタメのジャンルとして貢献したいと語った。

奥野氏が強調したのは、SNSにおけるショートアニメというフォーマットの持つ優位性だ。「YouTubeというインフラは、アプリをグローバルにローカライズ・カルチャライズしていくよりハードルが低い」。現段階は吹き替えや翻訳の整備、海外向け動画の制作を進め、視聴からキャラクターへの関心を育てる段階だという。次の段階として、グッズやゲームといった二次収益を海外に広げることを挙げた。海外のエンタメ企業が力を増すなかで、「自分たちが育ってきたカルチャーを次の世代に紡げるかは自社次第」と責任も自覚しており、グローバルでの存在感は、会社にとっても日本にとっても重要だという。

ClaNは2026年5月、英語圏向けVTuberプロジェクト「IZIGENIA」を立ち上げた。担当チームは全員が日本国籍以外で、日本語と英語に加えてもう一言語を話す構成だという。そこで顕在化したのは、企業文化ではなく出身国の生活習慣に起因する差異だった。日常の水準の違いを放置すれば、メンバー間に心理的な距離が生まれかねない。交流の機会を意識的に設け、「国は違えどもエンタメを作るという目的は変わらない」という一点に立ち返って一体感を保っているとした。

「何が当たるかわからない」エンタメ世界では“多角化”が重要

奥野氏は、学生時代に起業した当時を振り返る。投資家から「IP化を目指すことが大事」と言われても、それが何を指しているのかわからなかったという。自社の範囲でのグッズ販売、パッケージ収入に代わるファンコミュニティアプリ、海外展開。いくつも試したが、成果には結びつかなかった。

より深刻だったのは、IP化に注力するほど制作が手薄になるという構造だ。同社が採った解決策は、経営の意思決定能力そのものを増やすこと。自身の強みは若さやSNSのテンポ感の理解にあると自覚していたからこそ、ビジネス面を担う経営者を外部から迎える判断をした。スタートアップをM&Aし、その代表が取締役に就任している。

この体制変更を境に、IP展開が軌道に乗り、多角的な事業展開もしやすくなったと奥野氏は述べる。

数字を本業としてきた永瀬氏が重視するのは二点だ。ひとつは分散。「偏ったときに何が起きるかわからないのがエンタメの怖さ」であり、複数の種を蒔いておくことが大事だという。もうひとつは、表面的な売上・利益だけで意思決定しないという原則だ。ヒットの時期が読めないIPを会計数値だけで評価すれば、結果としてすべてを打ち切る方向に傾いてしまうからだ。

多角化の発想は、人材採用にも表れている。Plottでは新卒メンバーが原作を担当し、そこからヒット作が実際に生まれているという。ゲーム実況の経験者、元役者、お笑い出身者など、インプットの蓄積がある人材を意識的に採用し、「できる人が萎える会社にはしない」という方針を掲げる。

永瀬氏も、採用でバックグラウンドとスキルの偏りを見るという。「同じような思考の人ばかりが集まっても同じものしかできない」からだ。

経営の「守り」に重要な複数データの統合運用

後半は経営基盤の話に移った。永瀬氏はまず「スタートアップなので攻めが大事」と強調する。売上進捗が40%でも、それだけで撤退を決めるべきではない。登録者数、コアファン数、メンバーシップといった、売上が立つ前段階の数字も含めて成長性を評価すべきだという。むしろ「新しいことをやっているのに途中でやめて先行者利益を取れなくなる」ほうがリスクが大きい、という認識だ。

そのうえで問われるのが判断材料の鮮度である。「リアルタイムで意思決定できる数値を経営管理として準備できているかがポイント」。見るのは会計数値だけではない。稼働が過剰なら、事業として順調に見えても人材は損耗している。そういう場合は中止の判断が必要になることもあるとした。

ClaNの経営管理上の悩みとして永瀬氏が挙げたのは、投資フェーズの部署とキャッシュを回収する部署が明確に分かれていることによる評価の難しさだ。人事評価の場では、投資部門は利益を減らしている一方、回収部門は利益貢献に見合った評価を求める。ここに緊張が生じる。対応として同社は事業部別会計を細かく運用し、IP単位での分解まで行っている。給与や社会保険といった細粒度のデータを会計へ手作業で渡す状態を避けるため、freeeのプラットフォーム上でデータを統合するのが基本方針。販売管理は案件別、電子契約では締結状況やライセンスの満了時期まで管理対象に入れる。Excel運用に限界を感じていたMD事業の在庫管理も「freee在庫管理」へ移した。「1つのプラットフォームに乗せてデータを統合管理する」のがコーポレート設計の指針だという。

奥野氏は、数字を担う人材の必要性を痛感したことが2回あるという。1回目はバックオフィスの基盤構築期で、源泉徴収票や支払通知書をスプレッドシートで自作しながら、資金周りを人に任せる不安も大きかったと語る。2回目は、複数事業・複数IPの管理が複雑化した局面だ。IPビジネスでは多角化が重要になる一方、その分だけ管理負荷が跳ね上がる。より高度な経営管理を担う人材と仕組みが必要になった。直近1~2年でこの課題に取り組み、状況は改善しているとした。

Plottも、会計と人事労務をセットで運用できる点が決め手となってfreeeを導入している。工数管理や契約管理は当初別サービスを使っていたが、最終的にfreeeへ一元化。「freeeカード」は、稟議申請と紐づけて支出を追跡できる点を評価しているという。

次の10年へ

次の10年への抱負として、奥野氏が挙げたキーワードは「グローバル」と「マス」だった。自社は現時点では「YouTubeやSNSの会社」であり、メガヒット作品との距離があることも率直に認める。そのうえで、グローバル展開と地上波を含むマスメディアへの進出、そして制作面で「より深く刺す」ことの両立を課題とし、10年後、20年後にも語られる作品を生み出したいという。

永瀬氏は、新しいジャンルが生まれることを前提に構えを語った。今後10年で、アニメやゲームに続く「第6ジャンル、第7ジャンル」が出てくる。「総合商社と名乗るからには、どんな種類のIPが出てきてもスケールさせられる環境を、そこまでに整えておかなければならない」。ただし新ジャンルの登場を待つだけではなく、自社のIP開発機能を使って新しいコンテンツを作る側にも立つ必要があるとした。

エンタメ業界の「見えない赤字」と「freee for 制作」

セッション後、freee株式会社執行役員の高澤真之介氏が登壇し、同社が制作業界向けの取り組みを始めた背景を説明した。

きっかけは、有志メンバーによる業界の調査で得られた数値だった。制作会社の経営層を中心としたアンケートでは、75%、およそ4社に3社が過去1年以内に赤字プロジェクトを経験していた。これは財務諸表に現れる赤字だけではなく、残業の超過や想定工数のオーバーも含む。調査試算では、赤字プロジェクトによる年間損失額は、1社あたり約2,000万円にのぼるという結果が出た。

高澤氏は、各社が可視化の努力をしていないわけではないと前置きしつつ、それでも「1つのプロジェクトにいくらかかり、どの程度の収益があったか」が把握されていないケースが多いという。その大きな原因は、現場側と管理側でデータを統合管理できない環境にあると指摘する。こうした背景から立ち上げられたのが「freee for 制作」だ。

「つくる力を、利益にかえる。」をコンセプトに、現場になるべく負担を掛けずに社内外の人件費をはじめとした数字をリアルタイムに集め、人事労務・会計領域まで一気通貫で管理できる経営プラットフォームの開発・提供を目指す。さらに6月には、freeeの標準機能に寄せきらず、個社の運用に合わせられる新・ソリューション「freeeカスタムオーダー」を提供開始した。「現場側と管理側をつなぎ『つくる力』を利益に変えるインフラになりたい」と高澤氏は思いを語った。

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IPを広げるとは、管理の複雑さを引き受けることである

今回のイベントから浮かび上がったのは、IPを広げるという事業行為が、そのまま管理の複雑さを引き受ける行為でもあるという構造だった。作品単位では評価しきれない収益、部門ごとに異なる投資と回収のフェーズ、国境をまたぐチーム編成。多角化が勝ち筋になる産業では、拡大の速度がそのまま管理の難易度に直結する。

2人の議論が示していたのは、グローバルな事業拡大を支えるのは社内の設計にあるということだ。どのIPに投資し、どの順で広げ、何を根拠に続けるか。その判断を支える仕組みを、異なる部署間で同じ情報を共有できる「統合」という形で持てるかどうかが、次の10年の分水嶺になる。日本のコンテンツ企業にとって、示唆の多いセッションとなった。

《杉本穂高》

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杉本穂高

Branc編集長 杉本穂高

Branc編集長(二代目)。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。

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