AI音声合成を手掛けるElevenLabs(イレブンラボ)は10月28日、AIが生成したコンテンツの出所と来歴を検証するための国際的な技術標準「C2PA(Coalition for Content Provenance and Authenticity)」に準拠し、サービス提供を開始すると発表した。
同社はこれまでも、独自の厳格な本人確認技術「VoiceCAPTCHA」やデジタル透かし技術「AI Speech Classifier」といった先行的な安全対策を講じてきた。今回、これら独自の強固な対策と世界標準であるC2PAを組み合わせることで「二重の防壁」を構築。深刻化するAI音声の無断利用やディープフェイク問題に対抗し、日本のクリエイターや声優文化の保護と共存に強くコミットする姿勢を示した。
独自の「事前防御」と国際標準「C2PA」の融合
イレブンラボはこれまで、プロフェッショナル・ボイス・クローン(PVC)の登録時に、提供された音声データと本人のライブ音声の声紋一致を厳格に確認する「VoiceCAPTCHA」を実装。これにより、不正なクローン作成を水際で阻止する「事前防御」を徹底してきた。
さらに、生成された全音声に埋め込まれるデジタル透かしと、それを検知・識別する「AI Speech Classifier」により、万が一の不正利用時にも出所を追跡・特定できる「事後追跡」の仕組みも確立している。
今回準拠する「C2PA」は、Adobe、Microsoft、Googleなどが設立した業界横断的なイニシアチブである。デジタルコンテンツに、その生成・編集履歴(来歴)を記録する改ざん防止機能付きのメタデータ(Content Credentials)を付与する技術標準だ。
このC2PA標準に準拠することで、ユーザーは生成された音声がAIによるものか、またその出所がどこであるかを容易に識別・検証することが可能となる。イレブンラボは、独自の3つの保護機能に、C2PAによる世界標準での検証可能性を付与し、業界全体の透明性と安全性をリードする構えだ。
日本のクリエイター・声優文化の保護へコミット
イレブンラボは、アニメなどに代表される日本の豊かで多様な声優・コンテンツ文化を深く尊重していると強調。昨今、日本国内でも頻発している声優や著名人の声を無断でAIに生成・利用する行為(無断生成音声AI)に対し、明確に反対の立場を取る。
この問題に対し立ち上がった「NO MORE 無断生成AI」の運動趣旨にも深く賛同しており、今回の技術的枠組みの強化を通じて、日本のコンテンツ産業が安心してAIを活用できる環境構築に貢献するとしている。
クリエイター(声優・俳優)にとっては、自らの声が不正に利用されるリスクを低減し、生成コンテンツの「出所証明」が可能になることで、権利保護と収益化の機会を守るメリットがある。
声優・梶裕貴氏「AIの歴史の転換点となる」
今回の発表に対し、声優であり、音声AIプロジェクト「そよぎフラクタル」のプロデューサーも務める梶裕貴氏は、日本のAIコンテンツ対応の遅れに危機感を抱いていたとし、「まるで救世主のごとく誕生したのが、改ざんされることのない声紋認証ウォーターマーク技術【VoiceCAPTCHA x C2PA】です」と高く評価。
さらに、「私たちが待ち望んでいた、信頼のおける『声の権利保護システム』と言えるでしょう。(中略)AIの悪用による被害がなくなること、またAIに対するイメージが、よりポジティブなものへと変化することを願っています。【VoiceCAPTCHA x C2PA】の登場は、間違いなくAIの歴史の転換点となるでしょう」と期待を寄せた。
イレブンラボの創業者兼CEOであるマティ・スタニセフスキー氏も、「私たちの技術は、これまでも独自の厳格な基準で安全性を確保してきましたが、「C2PA標準」への準拠は、私たちが日本のクリエイターコミュニティとの共存をより広く知っていただく機会になると考えております」とコメントした。
C2PA標準の実装は、2025年11月より順次開始される予定。



