2024年も7月に入り、まもなく夏休み興行のシーズンを迎える。その火ぶたを切るのが『キングダム 大将軍の帰還』だ。
本作は中国の春秋戦国時代末期を舞台とした人気コミック『キングダム』を実写化した作品で、今回はその第4作目にあたる。日本を除く全世界が『インサイド・ヘッド2』の歴史的ヒットに震撼している最中、6月以降なかなかビッグヒットが生まれていない日本の映画市場にとっては、繁忙期の幕開けとして大いに期待できる作品だ。
というのも、本シリーズは1作目からコンスタントに50億円超えのヒットを叩き出しており、昨年公開された3作目『キングダム 運命の炎』は夏休みシーズンに4週連続となる首位を記録した。そんな凄まじい存在感を放っていただけに劇場からの信頼も厚く、TOHOシネマズ新宿では初日に26回もの上映が決まっている。これは100億円を超えるヒットを記録中の『ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』の21回をも上回る数で、配給の東宝やソニー・ピクチャーズとしてもかなり気合いを入れた興行になると予想できる。
50億円ヒットを継続させるスゴさ
先ほども触れたように本作は1作目から3作目まで50億円超えのヒットを継続しており、邦画実写作品としては随一の安定感を放っている。そもそも50億円を超える邦画実写は年間数本で、マンガの実写化作品としてシリーズ3作連続で50億円を超えた作品は『キングダム』を除いて『海猿』シリーズのみ。特に近年はマンガの実写化に対する逆風も強く、興行的に失敗する作品が多いことも踏まえれば、いかに凄まじい記録かがわかるだろう。
加えて、本作は2作目が公開された2022年以降、年に1本のタイトなペースで続編が公開されており、これもマンガの実写化作品としてはとても珍しい。通常、作品の続編を制作する場合は、前作の売り上げ状況を把握してから製作委員会の話し合いを通じてGOサインを出し、再びスタッフを集めて初めて制作がスタートする。実際、作品プロデューサーのインタビューでも第1作目の企画から公開まで3年ほどの期間を要すると語られている。そのため、上記のようなプロセスで続編制作を行うと1年1本のペースで続編を公開するのは中々難しい。さらに、2作目でも3作目でも、エンドロール後に続編公開のアナウンスがあったため、おそらく本シリーズは製作委員会もヒットを確信して、そういった1作ごとの話し合いプロセスを踏まずに続編制作が水面下で進められていたと考えられる。そして、製作委員会の期待通り50億円超の大ヒットを継続して記録しているところがこのシリーズの凄いところ。仮に大ヒットした作品でも2作目で数字を落とすという例は多く、最近では『翔んで埼玉』の続編は1作目の37.6億円から23.7億円に、『るろうに剣心 最終章 The Beginning』も前作の43.4億円から24.1億円に大きく数字を落としたケースがある。
さらに、本作の恐ろしいところは原作のストック数。今年公開となる第4作は原作でいうところの16巻あたりになると予想されるが、現在原作は72巻まで発売されており、続編製作におけるエピソードのストックが他のマンガと比べても群を抜いている。今後もコンスタントに続編が制作されるとなれば、配給の東宝としても安定した収益基盤の構築に繋がる。特に、東宝は「名探偵コナン」「ドラえもん」「クレヨンしんちゃん」などのファミリー向けアニメ作品の安定した収益基盤があるため、これに「キングダム」が加わるとなるとさらに他社配給を引き離す存在になることは間違いないだろう。