Photo by Alberto E. Rodriguez/Getty Images for Disney
現在『バービー』や『オッペンハイマー』の大ヒットにより大いに盛り上がっている北米映画市場。全米映画俳優組合のストライキによりPR活動が大幅に制限されている中、それを思わせない連続ヒットは映画界にとっても嬉しいニュースと言えるだろう。
しかし、その一方で『ザ・フラッシュ』『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』など、ほぼ赤字が確定している作品があることも事実。これらの作品はどちらも初動時点で多くのメディアで赤字濃厚であることが報じられ、その予測を覆すことができなかった。確かに、北米市場は日本のように定番作品が長くヒットするのではなく、入れ替わりが激しいというのが特徴で、先ほどの例のように初動が失敗したら挽回は難しいというのが一般的だ。
そんな中、先々月に北米公開されたディズニー&ピクサー最新作『マイ・エレメント』が大逆転黒字化を果たしたとして海外メディアに取り上げられている。
赤字確定から一転、驚異の伸びで黒字化へ
しかしその予測から一転、なんと公開から1カ月半で「損益分岐点」に到達したとのニュースが入ってきた。現在の全世界興収は4億ドルを超え、黒字化に成功したと言う。
北米だけで見ても初動2,960万ドルから、1億4,561万ドルにまで数字を伸ばした。なんと初動から5倍も数字を伸ばしたことになる。その凄さを確かめるために、現時点での2023年北米興収ランキングを見てみる。これを見ると、TOP10内の作品で初動から4倍以上の伸びを記録した作品は一作もなく、3倍ほどが平均となっていることがわかる。
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入れ替わりの激しい北米市場は公開から1ヶ月で上映館数が半分となるパターンも少なくはなく、日本より劇場からフェードアウトするまでのスピードが速い(その分デジタル配信や円盤発売も速い)。そんな中、公開から2ヶ月弱の間TOP10にランクインし続けていることは間違いなくロングランヒットと言えるだろう。
しかし、本作はなぜここまでの“大逆転”ヒットを記録することができたのだろうか。
口コミの力で“大逆転”ヒット
まず、1番の要因と言えるのは多くの海外メディアでも報じられているように圧倒的な口コミ評価だろう。本作はCinemaScore「A」を獲得し、Rotten Tomatoesでも観客支持率93%を記録。批評家からの支持はまずまずだが、観客内で感動できる作品として共有されジワジワと広まっていったことがヒットの要因として考えられる。
米PostTrakの調査によると、全米の映画観客の49%は24歳以下が占めており、若年層の割合が非常に高いことがわかる。そのため、インターネットでの口コミ評価から受ける影響も大きく、その影響は数字にも顕著に表れている。
ここで、同日公開された『ザ・フラッシュ』との興収推移を見比べてみる。初動では2倍以上の差をつけられた『マイ・エレメント』だが、累計興収では第4週目で逆転。近年、初動成績で赤字を判断されがちだった風潮を壊す、意味のあるヒットになったと言えるだろう。