入学や卒業、入社や退職…出会いや別れの多い春シーズン。しかし、映画界においては年に数回の書き入れ時であり、ビッグヒットを狙った大型作品が多く公開される。2023年公開作品の売上げを占う上では重要なシーズンと言えるだろう。
その中でも毎年存在感を発揮しているのは「映画ドラえもん」シリーズ。
他にも、人気少女漫画を実写化した『わたしの幸せな結婚』は20億円突破確実の大ヒットとなっており、昨年公開された『THE FIRST SLAM DUNK』も公開から5ヶ月ほど経った今も粘り強い興行展開が続き、3月だけで15億円を積み上げた。
このような作品を筆頭に、一見春休みシーズンもコロナ前と変わらない水準まで活気を取り戻したようにも見える。しかし、作品全体を見てみるとまだそうとも言い切れないのが現実だ。
コロナ禍から劇的な回復とはならず
まずコロナ前の2019年と今年の成績を比較してみる。春休みシーズンに公開されている2、3月の作品に焦点を当てての比較だが、まずは初動成績で比較していく。
初動3日間の成績は作品にかけられた予算にもよるが、ここでは1.5億円以上のオープニング成績をヒットの仮基準として設定する。
この表を見るとその基準を超えた作品は2019年の18本に対し、今年は11本。
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さらに、今年の2月以降10億円を超えた作品はわずか5本のみ。その一方で2019年は2、3月で13本もの作品が10億円を超えるスマッシュヒットを記録した。10億円作品が少ないのも2021年3月に公開された『シン・エヴァンゲリオン劇場版』のように特大ヒットしている作品が市場を独占している状態なら話は別だが、今年はそのような作品も生まれているわけではない。コロナ禍からほぼ回復したと言われる今でも、その差は大きく開いたままだ。
年明け後も続く海外映画不調
なぜ映画市場がいまいち回復できないのかいくつか理由はあると思うが、まず1つは昨年からも多く指摘されている「海外作品の不調」が挙げられるだろう。
『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』は日本でのみ成績を伸ばせず昨年末も大きく話題になったが、日本映画(主にアニメーション映画)による市場の寡占化が進んでいることは今年の興行成績も見てもよくわかる。その例として、今年に入って以降10億円を超えた海外作品は人気アイドルBTSのコンサート「BTS in BUSAN」の様子を記録し映像化した『BTS: Yet To Come in Cinemas』のみというのが現状。
また、この作品はコンサート映像を上映した特殊なもので、チケット代も通常料金2,400円と割高となっており、ライブ感覚で鑑賞するイレギュラーな作品であることから、単純な海外作品とは言い切れない部分もある。
また、今年に入ってからはハリウッド作品の供給もまだ少なく、今年3月に公開され全米で1億ドルを越えるヒットを記録した『クリード 過去の逆襲(5月26日公開予定)』や『ジョン・ウィック:コンセクエンス(9月公開予定)』も日本の封切はやや遅めとなっている。
このような作品だけでなく、今年は人気ゲームのアニメ化作品『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』や『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』『インディ・ジョーンズ 運命のダイヤル』『ミッション:インポッシブル/デッドレコグニング PART ONE』『トランスフォーマー/ビースト覚醒』など、人気シリーズ作品も目白押し。果たして洋画再興となるか今後の成績に期待したい。
『シン・仮面ライダー』もやや苦戦
また、今年の春最大のヒットを期待された『シン・仮面ライダー』の苦しい興行展開も完全復活と言えない理由として挙げられるだろう。庵野秀明氏が監督や脚本を務める『シン・ゴジラ(82.5億円)』『シン・エヴァンゲリオン劇場版(102.8億円)』『シン・ウルトラマン(44.4億円)』はこれまで好成績を収めてきた。
『ONE PIECE FILM RED』や『THE FIRST SLAM DUNK』で大ヒットを連発した東映とそのグループ会社だが、今年は予算20億円をかけたと言われる『レジェンド&バタフライ』も興行収入は30億円に届かず辛酸をなめる形となった。やはりアニメーション作品が他の作品を興行収入で圧倒するという流れはしばらく続くのかもしれない。
春興行はやや不調な状況を脱却することはできなかったが、今年は次こそ100億円を狙う『名探偵コナン 黒鉄の魚影』や『ザ・スーパーマリオ・ムービー』『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 運命』などGWは大ヒットの狙える作品も多く公開される。今年の夏はハリウッド作品も多く、大きく流れが変わる年になることに期待したい。
※4/12更新:作品名の誤記を一部修正しました。