今、王道こそが求められている──『金の国 水の国』プロデューサーが今、世界に届けたい夢ある物語

人気漫画『金の国 水の国』が劇場映画化。1月27日(金)の公開を記念し、本作のプロデューサーであり日本テレビ映画事業部主任を務める谷生(たにお)俊美氏に本作の魅力や映像ビジネスの今後、そしてテレビ局にとってのアニメ映画の存在ついてたっぷり話を聞いた。

映像コンテンツ マーケティング
今、王道こそが求められている──『金の国 水の国』プロデューサーが今、世界に届けたい夢ある物語
今、王道こそが求められている──『金の国 水の国』プロデューサーが今、世界に届けたい夢ある物語
  • 今、王道こそが求められている──『金の国 水の国』プロデューサーが今、世界に届けたい夢ある物語
  • 映画『金の国 水の国』2023年1月27日(金)全国ロードショー
  • 映画『金の国 水の国』2023年1月27日(金)全国ロードショー
  • 映画『金の国 水の国』2023年1月27日(金)全国ロードショー
  • 映画『金の国 水の国』2023年1月27日(金)全国ロードショー
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  • 映画『金の国 水の国』2023年1月27日(金)全国ロードショー
  • 映画『金の国 水の国』2023年1月27日(金)全国ロードショー

2022年は興行収入100億円を超えるアニメーション映画が3本も生まれるなど、国内映画産業においてアニメの存在感が増大している。2023年も、注目のアニメ―ション映画が目白押しだ。

そんな注目作の1つが1月27日(金)から全国公開される『金の国 水の国』だ。「このマンガがすごい!2017」オンナ編1位に輝く人気漫画をアニメ化した本作は、金の国と呼ばれる経済的に豊かな国アルハミトの王女と、貧しいが水資源豊富な水の国バイカリの青年が、敵対する国同士の身ながら“偽りの夫婦”を演じることとなり、やがて国の未来をも動かす奇跡を起こしていく様描いた作品だ。賀来賢人と浜辺美波を主演に迎え、美しいアニメーション映像と音楽に乗せて、心洗われる王道のドラマを見せてくれる。

本作のプロデューサー、日本テレビ映画事業部主任の谷生(たにお)俊美氏に本作の魅力と、映像ビジネスの今後、日本テレビの戦略について話を聞いた。

多種多様なアニメがある中、敢えて王道の物語を届けたかった

――映画プロデューサーとして、原作のどんな点に惹かれて映画化しようと思ったのですか。

現代は、多種多様なターゲット層に向けてアニメ作品が作られていて、日本テレビもこれまで多くのアニメ―ション作品に携わってきましたが、王道の物語が案外少ないんじゃないかと感じていたんです。本作は若い2人が、国や立場の違いを乗り越え世界を変えていくという王道中の王道のエンタメで、マッドハウスという実力あるスタジオと一緒にそういう物語をアニメにしたかったんです。

――本作の原作は、漫画ファンからも評価の高い作品です。漫画が映像化される時は、ファンは原作の再現度など多くのことを気にかけますが、今回映像化の際に心がけたことはありますか。

おっしゃる通り、本作は「このマンガがすごい!2017」オンナ編1位に輝いた作品で、岩本ナオ先生にも多くの熱心なファンがいらっしゃいますので、まずは何よりも原作の魅力を尊重し、映像と音楽の相乗効果によって、それをより高めていく姿勢で臨みました。渡邉こと乃監督をはじめマッドハウスのスタッフも、原作に対する愛とリスペクトに溢れていますから、原作のイメージから外れる心配はしていませんでしたが、キャストや音楽、あるいは宣伝まで含めて原作の世界観を尊重し、魅力を最大化していくことを心掛けています。

――原作の大きな特徴の一つとしてヒロインのサーラの造形があると思います。プロデューサーとしてサーラをどう見せて欲しいと考えましたか。

確かにヒロインのサーラは原作の大きな魅力の一つです。彼女は、誰もが振り向く絶世の美女じゃないと本人も言っていますし、ひょっとしたらコンプレックスも持っているのかもしれない。美女ではないけれど、柔らかな可愛らしさ、ふんわりした魅力を出すべく作っていきましょうと制作チームと話しました。

――そのサーラ役に浜辺美波さん、そしてナランバヤル役に賀来賢人さんを起用した決め手はなんでしたか。

原作ファンの世界観を損なわず、ファンの方に納得いただけるキャスティングをするのが一番大事なことだと考えています。その上で普段アニメーションを観ない方にも広げていくことを考えると、俳優のお力を借りるということは一般論としてあると思います。それらを踏まえて、このお2人に受けてもらえれば本当に良いなと考えていたんですが、実際のアフレコでお2人の芝居を聞いて、「ああ、ナランバヤルとサーラだね」とその場にいるみんなが納得できたので、お2人に受けていただけて本当に良かったなと思っています。

映画にとっての音楽の重要性

――マッドハウスの作る映像も素晴らしいのですが、本作は音楽も美しいです。近年、大ヒットする映画には音楽の要素が強い作品が多いと思います。例えば、谷生さんのプロデュースされた『竜とそばかすの姫』などもそういう傾向のある作品でしたが、今の映画にとって音楽の重要度をどのように考えていますか。

人は劇場に何を求めているのか、一言でいうと「劇場体験」ですよね。約2時間もの間、知らない人たちとじっと座り続けているのは、みんな物語の世界に没頭したいからだと思います。そして、物語は音楽と組み合わさることで、より忘れ難いものになります。世の中の大きな流れとして、アニメだけでなく実写映画でも『ボヘミアン・ラプソディ』のような作品が大ヒットしたりと、音楽が果たす役割は以前より大きくなっていますね

そういうことを意識しながら、本作の音楽を誰に担当してもらうのがふさわしいかを考えました。この映画は、ファンタジックかつマルチカルチュラルな世界観なので、Evan Callさんが良いと思ったんです。Evanさんは、バークリー音楽大学の映画音楽作曲科でフィルムスコアを学んだエリートですが、日本でキャリアを始めた方です。そういう多文化性のある出自の方のセンスをこの作品と組み合わせたら、きっと素晴らしいものになると思いました。もちろん、『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』など、彼がこれまで手掛けてきた音楽を聴いて、壮大なハリウッドのエンタメ的なものからエスニック調の音楽まで、色々な引き出しを持っている方だと分かったので、監督や音響監督に提案しました。

――無国籍感というか、特定の国を思わせない音楽を作れる方ですね。

そうですね。かと思いきやNHKの大河ドラマ『鎌倉殿の13人』も手掛けていますし。実は大河ドラマのお仕事が決まる前にこの作品をやってもらうことが決まっていたんです。

――では、本作は製作期間が割と長かったのですね。

そうですね。コロナを含め色々なことがあり、見通しが明るくならない時期もあって。実は、劇伴は昨年の早い時期にいったん完成していたのですが、世の中の状況に合わせて調整することにして、ボーカル曲を入れようということになったんです。

本作の制作中に、ロシアとウクライナの間に戦争が起きてしまいました。隣り合う国々が争う事態に、我々も価値観を揺さぶられ、こんな時期に本作をどう届けるのかを改めて考えたんです。

それまでは、金の国と水の国、2つの国ごとに使用する楽器や音楽の方向性を変えて作っていたのですが、よりキャラクターのエモーションに合わせるアプローチにした方がいいと考え、それで『Brand New World』や『Love Birds』『優しい予感』といった劇中歌が生まれたんです。そして、これらを歌ってもらう人は誰がふさわしいのかを検討していき、監督やEvanさんとも相談して琴音さんに決まりました。



テレビ局にとってアニメ映画は「非常に大事」

――谷生さんは『竜とそばかすの姫』に続き、本作をプロデュースされたわけですが、テレビ局の映画プロデューサーとして、アニメ映画はどんな位置付けなのでしょうか。

一言で言うと「非常に大事」ですね。私は金曜ロードショーのプロデューサーを6年半の間務めまして、その時もアニメーションは今まで以上に求められていると感じていました。日本テレビは、スタジオジブリさんやスタジオ地図さんをはじめ、多くのアニメ作品に携わっていますけど、アニメは時代が変わっても訴えかける力があり、何度も観てもらえる特性があると思っていますし、世界的にも求められているので、今後も日本テレビとして素晴らしい作品を届けていけるようにと思っています。

――今後、コロナ禍を経て映画産業やテレビ産業はどのように変化していくとお考えですか。

映画ビジネスがテレビ局にとってどういう意味を持つかという側面と、コロナでエンタメ産業がどう変わるか、2つの側面があると思います。今、世の中は大きく動いており、放送に捉われないコンテンツ制作の必要性は間違いなくあります。その中でアニメーション映画は重要なコンテンツになっていくでしょうから、ここは頑張らないといけないと思っています。

コロナ後の世界は、より人と人の結びつきや温もりが求められているのではと感じています。それによってヒットするジャンルの傾向も変わるかもしれませんから、変化を敏感に意識しないといけないですね。

――本作の海外展開についてはどう考えていますか。

「Animation is Film Festival」という、ロサンゼルスで開催された映画祭のコンペティションに選出されました。マッドハウスは海外のアニメファンにも支持されていますし、今後もより広くお届けするために頑張っているところです。

『竜とそばかすの姫』はカンヌ国際映画祭に招待されましたが日本での公開日と重なったこともあり、私は現地に行けませんでしたが、その後、シッチェス映画祭には参加しましたし、フランスとドイツのキャンペーンにも同行しました。私も30年ほど欧州には行っていますけど、明らかに漫画やアニメに対する一般の関心は大きくなりました。パリの街中を歩いていても、普通のお店でアニメや漫画に遭遇するのは驚くことじゃなくなっています。

――現実の世界は深刻な分断による対立が続いていますが、本作はそれを乗り越える意思を描く作品ですから、海外の方にも是非観て欲しいですね。

そうなんです。この映画には本当に悪い人は出てきません。それは現実的ではないと考える人もいるでしょう。でも私は、映画は銀幕に一時の夢を映すものだと思っています。こういう優しさに溢れた作品があってもいいんじゃないでしょうか。2時間、そんな優しい世界に浸るのもいいかもしれない、そんな風にみなさんに思っていただけると嬉しいですね。

『金の国水の国』は1月27日(金)より全国ロードショー。


『金の国水の国』

【キャスト】賀来賢人 浜辺美波

戸田恵子 神谷浩史 茶風林 てらそままさき 銀河万丈

木村昴 丸山壮史 沢城みゆき

原作】岩本ナオ「金の国 水の国」(小学館フラワーコミックスαスペシャル刊)

【テーマ曲(劇中歌)】「優しい予感」「Brand New World」「Love Birds」  Vocal:琴音(ビクターエンタテインメント)

【スタッフ】監督:渡邉こと乃  脚本:坪田 文  音楽:Evan Call

アニメーションプロデューサー:服部優太  キャラクターデザイン:高橋瑞香  美術設定:矢内京子

美術監督:清水友幸  色彩設計:田中花奈実  撮影監督:尾形拓哉  3DCG監督:田中康隆、板井義隆  特殊効果ディレクター:谷口久美子

編集:木村佳史子  音楽プロデューサー:千陽崇之、鈴木優花  音響監督:清水洋史

アニメーションスーパーバイザー:増原光幸

プロデューサー:谷生俊美  アソシエイトプロデューサー:小布施顕介

【アニメーション制作】マッドハウス

【配給】ワーナー・ブラザース映画

【コピーライト】©岩本ナオ/小学館 ©2023「金の国 水の国」製作委員会 

【映画公式サイト】http://kinnokuni-mizunokuni-movie.jp

【映画公式Twitter】https://twitter.com/kinmizu_movie 

《杉本穂高》

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杉本穂高

映画ライター 杉本穂高

映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。